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世界掴む手のひら  作者: ケー/恵陽
三、この小さな村から始まる反逆
15/26

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 日が暮れてケーリーの家を訪ねると、彼の両親が帰っていて董たちのことも歓迎してくれた。オエバとブロウクであることを二人は知らないようだったが、それでも秦の連れということで喜んでくれた。セトは昼間より少し顔色がよくなっていた。食事を食べる元気があるのなら大丈夫だろう。ゆっくり休むように言って、董と秦は家に戻った。

 秦の家で寝支度をしながら董は秦に宴花のことを訊ねた。セトとラクルにはハナミと呼ばれていたあの男。

「神殿では部署が違ったんだが、あいつのことは有名だった。まあ、裏での有名人なんだが、何処からかふらりとやってきて神殿の高官を一人殺した男さ」

「殺した? なんで?」

 穏やかでない言葉に布団を敷く手が止まる。

「さあ。ただその手口があまりにも鮮やかだったから、神殿が勧誘したんだとか。身内殺されて勧誘するのもおかしいが、了承する宴花も相当変わっている」

 その通りだ。神殿がどんな組織なのかは今までずっと聞いていたけど、(いびつ)どころか狂っているのではないかと思えた。

「その時はハナミって名乗ってたの?」

「みたいだな。多分侵入する時に髪も染めて入ったんだろう。俺は金髪のハナミという男にしか会ったことがない」

「いつ会ったの?」

 寝る準備が整い、董はベッドに寝っ転がった。秦も床の布団の上に胡坐を掻いている。

「いつって言うか、見つけられたんだよ。俺が稽古している所にやってきて、手合せさせられた。だからあいつの手を俺は知っていたし、俺の手も知られているんだ」

「神殿に居て楽しいのかな?」

「さあな」

 どうでもよさそうに秦は布団の中に体を入り込ませる。彼に倣い董もベッドの中に潜り込んだ。

「ただ一つ言えるとしたら、あいつにはまだ何か隠していることがあるってことだ。殺された高官のことも目的があったはずだ。単独で色々嗅ぎまわってるらしいしな」

「それ、神殿は気付いてないの?」

「そこまで神殿も馬鹿じゃない。だが、目的がわからないし、何より今の所は神殿の言うとおりに動いているからな。使えるうちは神殿側も捨てないだろうさ」

 董が宴花に会うときはいつでも命の遣り取りになった。だからお互いの身の上を気楽に話す余裕なんてなかったし聞きたいとも思わなかった。だが董には初めから不思議だった。彼の前に姿を見せる時は決まってイエ族の、本当の姿だった。神殿を心の底では嫌っているのではないのだろうか。例えばそれは――董は秦を視界の隅に収める――秦と似たような感情を持っていたとも考えられる。

「なんだ?」

「ううん。何にもない」

「どっちにしろ、あいつに関して今は何もわからない。出身ですら不明だからな。調べて何かわかればいいがな。それよりもう寝るぞ。明日から董は畑仕事だからな」

「えー! 何それ、初耳」

「働かざるもの食うべからずだ」

 そう言うと、秦は早々にいびきをかきはじめてしまった。


 朝早く叩き起こされた董は寝惚け眼のままケーリーの両親が持つ畑に連行された。そこでは既にケーリー一家が動き回っていた。董も目を擦りながら見よう見まねで手伝っていく。三人は畑の野菜の収穫をしているらしい。

「こっちから向こうの収穫はまだだからね」

 ケーリーが汗を拭いながら董に笑いかける。

それに頷いて董も作業を進めていく。そしてそれが終わると、馬車の荷台に敷き詰めていく。

「お。今日だったか。ついでに頼むぜ」

 ひょっこりと秦が現れ、ケーリーに笑う。何が今日なのかと思えば、週に一度彼女は隣町に出向き収穫した野菜を売りにいくらしい。今日がその日なのだという。そのついでに秦の依頼した国都の状況も聞いてくるのだそうだ。だがこんな田舎で国都の情報が入るのか。

「あら、確かにここは田舎だけどね。でも噂の中には真実が混じってもいるものよ。それを見極めるのがあたしの仕事ね」

「まあ、他にも色々な手を使ってな」

 うんうんと頷くケーリーと秦。過去にもどうやら彼女に依頼をしたことがあるようだ。

「じゃ、行ってくる。昼過ぎには帰ってくるわ」

「おお。そんじゃ、よろしく」

 手を振ってケーリーを見送ると、秦はくるりと董に顔を向けた。

「セト様はまだ起きられていない」

「体調は大丈夫なのかな」

 踵を返す秦の後を董が追う。セトは最近ずっと体調がすぐれない。心配だが董には大してしてやれることがない。

 ケーリーの家の前に着くと、誰かが立っていた。

「あ」

 秦と同じくらいの年齢の男が眉を潜めた。秦の方も露骨に顔を顰めている。

「本当に帰ってきていたのか」

「……ああ」

「そっちのは連れか」

「ああ」

 ぎこちない会話に董は何故か居心地が悪くなった。男は秦と目を合わせようとはせず、秦も男とは目を合わせようとしない。

「秦、行こう」

 董は耐え切れずに秦を促した。すると秦も男も急にハッとする。

「あ、ああ!」

「じゃ、僕たちは用があるんで。さようなら」

 秦の腕を引いて董は家の中へ入る。男の方を窺うと、苦い顔で去っていくところだった。

「知り合い?」

「……昔のな。こんなだから、俺は村の奴らと顔を合わせたくないんだ」

 秦は一度俯いて、そして顔を上げた。その顔はもういつもの秦だ。

「セト様の所へ行くか」

「うん」

 二人は並んでセトの居る部屋の前に立った。ノックをするとすぐに中から声が掛かる。ドアを引くと、セトは既に着替えて待機していた。

「おはようございます、セト様」

「おはよう、セト。体調はどう?」

「ああ。二人とも早いな。おはよう。昨日より気分はいい」

 微笑するセトに董はほっと息を吐いた。確かに昨日別れた時よりも顔色がよくなっている。秦がセトの額に手を伸ばす。

「熱はないようですね。動けるようでしたら疲れない程度に運動しましょうか」

「運動?」

 畑仕事をまた手伝うのかと訊くと、近いという答が返ってきた。

「畑の周辺を見て回るだけですよ。神殿とも国都や東都とも違う一般の人々の姿を見て欲しいんです。セト様、ラクル様のことは暫く神殿側がしっかり保護しているはずです。国都に行く準備を整えるまでに今ここで貴方が出来ることをしておきましょう」

 秦がやさしくセトに微笑んだ。



バタバタしている間に忘れていた。すみません。

待っていてくださった方、ありがとうございます。

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