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世界掴む手のひら  作者: ケー/恵陽
二、オエバは皆の光というなり
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遅れて申し訳ない。ちょっと色々大事があったもので。今後も少し遅れ気味にはなるかと思いますが、出来る時に更新させて頂きます。

 朝日と鳥の声に目を覚ますと、目の前にセトの顔があって大声を上げそうになった。董は口を自身の手で押さえ込み慌てて熟睡しているセトから距離を取る。昨夜のことを思い出して、思わずため息が零れた。ラクルが宴花に攫われ、ラクルを助けようと決めた。あの後、すぐにセトは眠ってしまった。だから董は秦と話をした。離れていた間のこと、董のこと、秦のこと、セトのこと、そしてこれからのこと。眠るセトを一人には出来ず、秦にも丸め込まれてしまい董は彼女と同じ部屋で眠ることになったことを思い出すと少しムッとした。

「セト様に何かあったら、さすがの俺でも容赦しないからね」

 と、爽やかな笑顔で言われ、何もしないと必要以上に力を込めて答えたら秦は遠慮なく笑ったのだ。董がどういう反応をするか予想した上での科白だったのだろうが、踊らされたことに少し怒りが湧いた。

 また何故何も言わずに董から離れたのか、董は秦に訊ねた。すると負い目を感じているのか、これには申し訳なさそうな顔になった。

「神殿からの招集だったんだ。董に行き先を言ったら絶対に追ってくると思ったから何も言わずに離れた。……まあ、言わなくても捜しだすとは思っていたけど、意外にかかったね」

「宴花から逃げたり、仕事で地方へ行ってたりしたから国都に行く機会がなかったんだよ。秦が行くなら国都の神殿だとは思っていた」

 神殿の所属だということは聞いていたから、居なくなるとしたらそれは神殿絡みだと董も考えていた。あまりに突然いなくなるのでどうしたらいいのかわからなくなったのだ。捜したくても国都に行けなかったのは、一座と行動していると地方巡業ばかりになってしまったからだ。それと変に護衛としての腕をかわれ、座長の知り合いから依頼を受ける羽目になったからだ。一人で国都に入るには、さすがに勇気も足りなかった。

「ハナミ――宴花にはいつ会ったんだい」

 秦は宴花のことも訊いてきた。

「……さあ。秦と居た時にも何度か会った」

「え?」

 それは思いもしなかった回答だった。秦としては、自分と別れてから出会ったのだと思っていたからだ。国都では独自のルートで董の居場所を把握していた。その中で誰かに追われているということ、その者が宴花と名乗っていることを知った。だからまさか自分と共に居た時に接触されていたとは思わなかった。

「初めは僕が本当にブロウクか、調べようとしてたみたい。普通に話しかけてきた。だけど僕も秦が誰にも話しちゃ駄目だって言うから、言わなかったんだ」

 董は秦の教えを忠実に守っていた。けれど、言葉というのは何処へ流れていくかわからない。

「僕が護衛として幾つか仕事をこなしたことを知ってる? 座長にどうしてそんなに強さを隠すのか問われた時がある。その時につい漏らしてしまった。後にも先にも僕がブロウクだと言ったのはその時だけ。だからきっと宴花は聞いていたんだと思う」

 それからだ。董がブロウクとして追われるようになったのは。

「……神殿はオエバを手にし、ブロウクを抹消する。このことは何度も教えたな」

「うん」

「だから俺は董がブロウクだとは誰にも言っていない。だけど董が疑われたのは、きっと俺がお前を拾ってしまったからだ。それを後悔する気はないが、悪かった。俺のせいだ、これは」

 苦々しい表情で謝罪する秦に董はゆるゆると首を振った。決定付けたのは自分のミスだ。疑惑を確信に変えたのは董が自身で招いたこと。それは謝罪されることにはならない。

「いいよ。いつか誰かが気付くと思ってた。それに宴花は多分まだ神殿に報告はしていないと思うんだ」

 そうでなければ、神殿の戦力が総出で董を捕らえようとしても不思議ではない。董の考えに秦は確かに、と同意する。宴花よりも強い者だっているのに、追ってきているのは彼一人だ。その疑問を考えれば神殿の動きはもっと大きなものになっているはずだ。

「……宴花のことは俺が調査しよう。ラクル様のことも探ってみる。まずはセト様に現状を理解していただくことを最優先にしよう。無闇に動かれてはそれこそ危険だ」

「わかった。じゃあ、僕ももう寝るよ」

 そう言って董は部屋から出ようとするのを、秦が引き留めた。

「待て。セト様の傍で一緒に寝ろ」

「はあ?」

 意味がわからず間抜けな声を出してしまった。だが秦は構わずにもう一度告げた。

「な、何言ってるの? セトは女の子だよ」

「知っている。だからどうした。このまま一人部屋に置いておく方が今は心配だ。俺は神殿に帰らないと怪しまれる。だから董がセト様についていろ」

「だ、だから、女の子だよ! 同じ部屋ってまずいんじゃない」

 心配なのはわかるがそれはどうかと董は秦に反論する。しかし秦は董を見て、意地悪に口の端を持ち上げた。

「襲うつもりか」

 董の顔が、湯気が出そうなほど真っ赤になった。見ていた秦がそれは肩を震わせるほどに。

「そんな訳ないでしょ!」

「だったら問題ない」

「秦!」

「セト様を守ってくれ」

 真剣な表情になって秦は董に返す。それは卑怯だと董は思った。

「セト様が世界には必要なんだ。だから、守ってくれ」

「……わかったよ」

「ありがとう」

 秦はにこりと微笑むと董の頭を撫でる。それはまるで子どもにするような仕草だったが、董は手を払いのけようとはしなかった。そして秦は入ってきた窓から出るといって、窓枠に手をかけた。目を覚ましたら陽の下で会おうと約束をし、最後にあの爽やかな顔での発言を残したのだった。

 董はまだすうすうと昨夜のことを忘れたように眠るセトを見た。オエバとは気位の高い人物だと思っていた。まさか自分から居場所を捨てるような真似をするとは思っていなかった。でも、より人間味が感じられて、董はセトがオエバでよかったとも思った。神殿に忍び込んだ時、セトは董を受け入れた。そのことが董にはとても嬉しかった。

「……ん」

 と、セトが目を擦りだしたのでそろそろ起きるのかと董は声を掛けた。

「セト、朝だよ。おはよう」

 セトの頭上で笑って待つ。すると眠たげに瞳を開いたセトは口の中でごにょごにょと挨拶をしたようだ。けれど次の瞬間、目を見開いて顔を真っ赤に染めた。

「と、董! なんで此処に……」

 おや、と思いながら董は冷静に答える。

「セトを一人にしては置けないからね。悪いとは思ったけど、隣で眠らせてもらったよ」

「そそそそうか!」

 尚も彼女の顔は茹蛸のようだ。董が首を傾げると、セトは目を逸らしながらぼそぼそと答えた。

「……昨日、董が別の部屋を取った理由がわかった。これは心臓に悪い」

 その答えに董が今度は赤くなる。次いで慌てて立ち上がると壁に背を叩き付けた。特に今ベッドで仰向けになったセトの上に覆いかぶさるような格好になっていた。故意でないとはいえ、董は己の行動を恥じた。

「ご、ごめん! でも誓って何もしてないからね! 本当だよ! あ、そうだ、秦が目を覚ましたら会おうって。朝ごはん食べたら早速会いに行こうよ、ね」

 何もしていないが、後ろめたさに董の口調はつい早口になる。存外にその様子が可笑しかったのか、セトはぷっと吹き出した。そしてベッドの上で身を起こすと肩を震わせる。

「ああ、わかっている」

 ラクルは傍に居ない。けれど、セトにはまだ董が居てくれる。それをとても、とても嬉しいとセトは思った。



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