ぼーい・みーつ・おーが!
皆様こんばんは。
一週間後には投稿したいと言っておきながら結局二週間近くたってからの投稿になってしまった大馬鹿者、辺 鋭一です。
今回は前回の続きです。
では、どうぞ。
●
「――ぎゃーーーーーー!! 出たーーーーー!?」
「こら! 生徒会役員が一般生徒の前で騒がないの!!
……ああ、彼の事は気にしなくていいわ。時々ああなるのよ」
「ああああああああどうしようどうしようどうしようどうしよう……。
このままじゃ『ガシッ』ってされて『メリメリ』ってなって『グシャ』ってされちゃう……!」
「……確かに、今月分の書類は預かったわ。今確認してハンコを押してくるから、椅子に座って待っててくれる?……ああ、稀輝さんも中に入ってていいわよ? 立ちっぱなしは疲れるでしょう?」
「……………………(こくん)」
「あ、ありがとう、ございます……!」
「あ、そうか! 異次元への扉を探せばいいんだ!! よし、まずはあそこへ……!」
「……ごめんなさい、ハンコの前にこっちを静かにさせるわね? このままじゃ落ち着けないでしょうし。せぇのぉ……、正気になーれぇ!!」
「――ふぎゃ!!」
●
生徒会室に来ているお客様二人にお茶を出し、僕は机で作業している会長を確認してからソファに座る二人に視線を戻す。
「………………………………」
「……あの、えっと、何か……?」
……ものっそいバランス悪い上にかなり気まずい!!
ひたすら無言を貫く大男と、その隣でおどおどしている小柄な少女を前にして、僕は何をしたらいいかわからなかった。
いっそのこといきなり踊りだしてみようかとも思ったが、そういう三枚目な行動は会長の役目なのでやめておくことにする。
「……ちょっと雨水君、今私の事馬鹿にしなかった?」
「いえいえ、そんなことするわけないじゃないですか。今だって、『ちっ、このアマ意外と鋭いな』なんてことは考えてませんとも」
「へえ、そう……。だったら私も『この野郎ノーロープバンジーの刑に処してやろうかしら?』なんて考えなくてもいいのよね?」
「ええ、勿論ですともははははは……!」
「ふふふふふ……!」
そんなふうに威圧込めて笑いあいながらも、会長の目は手元の書類に向いている。
無駄にハイスペックな会長の場合、多少の雑談をしながらの方が仕事に集中できるのだ。
会長も僕もそのことをよく理解しているので、こんな風に時折話題を振ったり振られたりはするが、あくまで会長の集中力保持のために手段であり、本気の言い合いに発展することはない。
……ああ、絶対にない。ないはずだ。だから会長から向けられている殺気じみた威圧感も気のせいなんだ……!
「……あの、大丈夫、なんですか……? さっきから、すごく空気が、わるいような、気がするんですけど……」
ちょっと調子が悪くなって気がしてきた僕にそう声をかけてきたのは、鬼の先輩と一緒に入ってきた小さな女の子だった。
小さな、とはいっても着ている制服はこの学校の物であるし、そのタイの色は会長と同じ三年生のモノであるから、僕の一つ年上であることがわかる。
だが、私服で対面していれば中学生に間違われてもおかしくないほど小柄で華奢な体付きと、迷子になった子どもを彷彿とさせるどこか自信なさげな表情から、ずいぶんと年下に見える。
幼げながらも整った容姿は十分に美少女と言えるものであり、頭の上で一つのお団子にまとめられた髪形も、小さい子どもが背伸びをしているようでとても可憐だ。
そんな人に話しかけられたら、そりゃあ会長なんか無視しても良いと思う。
「――ああ、すいません。会長とばっかり話しちゃって放置してしまいましたね。……一応初対面だと思うので、自己紹介から行きましょうか。僕の名前は雨水 影太。見ての通り生徒会庶務を任されています」
「こ、これはご丁寧に……。わ、私は――」
「ああ、知っていますよ。この学校内で、『稀輝姫さま』と言えば有名ですからね」
そう、僕の目の前で真っ赤になってうつむいてしまったこの女子生徒こそ、この学校で『三大美女』と言われている三人のうちの一人なのだ。
『三大美女』とは文字通り、三人の美少女達をひとくくりにした言い方である。
その年度内で際立って人気を得た女子をまとめてそう呼びあらわすのだが、誰が定めているのかも不明であり、その年によって『二大美少女』になったり『四大美人』になったりする結構適当な呼び名なのだが、そんなふうに呼ばれるだけあってメンバーは皆代々美人ばかりだ。
男女問わず生徒の大半から『稀輝姫さま』の愛称で親しまれている彼女も、周囲に比べて小柄なその容姿から妹のようにかわいがられて人気を勝ち得ている。
……というか、その三人全員と何らかのかかわりがある僕って、案外すごいんじゃ……?
当然歴代の美人たちは例年、男子生徒からの(偶に女子生徒も)アタックがすごいことになっている。
下駄箱を開ければ毎日十数通はラブレターが入っているし、放課後になれば三日に一度は体育館裏に呼び出されている。無論決闘ではない方で。
しかしこれもまた例年の事なのだが、今代の美人たちのうち稀輝姫さま以外の二人はかなり厳しい人であり、ラブレターは『こんななよなよした物で告白しようなんて邪道だ』と破り捨てるし、体育館裏での告白の場合は少しでも恥ずかしがって言いよどんだら『意気地なし、時間の無駄』と判断されて帰宅されるし、はっきりと『好きだ!』と言われれば『ごめんなさい』と間髪をいれずに断られるという。
さらに、最近では『好きだ』の『き』の時点で『ごめんなさい』が出てくるようになったらしい。どんな反射神経だ。
……まあ、それでも挑戦できるだけマシなんだろうけど……。
そう、三人のうちの一人であり、僕の目の前にいる稀輝姫さまに対して手を出すものはこの学校に一人もいない。
別に人気がないわけではない。人気がなければそもそも『三大美女』に選ばれる事も無いのだから。
ならばなぜ誰も手を出さないのか。
その訳は簡単で、『とある理由』の存在が大きな壁となり、誰も彼女に手が出せなくなっている。
そして、その『とある理由』そのものが、僕の目の前で困っている彼女の隣にどどん! と座っている大男――河原 鬼之助先輩なのだ。
この男、何をどう上手くやったのか知らないが稀輝姫さまの信頼を勝ち得ており、授業時間以外は八割がた一緒にいる。無論昼食時や登下校も含めてだ。うらやましい。
そのせいで彼女を狙う者がいても彼女のそばにいる『鬼瓦』に恐れをなし、近付くことができないのだ。
彼という存在は、彼女を狙う不届き者たちから姫様を護る、強力な守護騎士の役割をはたしている。
それ故に、河原先輩には新しい二つ名――『守護鬼神』が密かに与えられることになったのだが、それはわりとどうでもいい話である。
「ところで会長、この場にいる全員、僕も含めてそちら側の事情は知っているんですよね?」
「ええ、貴方はまだ中途半端にしか知らないけど、ここにいる全員が『この学校には人間以外も存在する』という事実を知っているわ。さすがに、誰が人間で誰がそれ以外のどんな種族なのかを全員分知っているのは私だけでしょうけど……」
「……ということは、この場で『鬼』の話をしても大丈夫ですか?」
「問題ないわね。さすがにあんまり込み入った話をするのは無理だろうけど、簡単な話なら私からでもできるし、彼らが許可してくれる範囲なら聞いてみてもいいけど……、何が聞きたいの?」
「いえ、ちょっと鬼という種族について聞いてみたくて……。どんな種族なんですか?」
「ああ、その程度だったら当人に聞いてみた方が良いわね。その方が正確だろうし」
それもそうだと思い、僕は当事者である河原先輩の方へ向き直ると、
「……ええと、『鬼』について教えられるところまででいいので、教えて頂けますか……?」
何とかどもらずに言えたが、内心かなりびくついている。
だって怖いんだもん。座ってるだけなのになんでこんなに威圧を放てるのかわからない……。
「……『鬼』というのは、ある意味では、人間に一番近い種族です」
と、話し始めたのは鬼である河原先輩ではなく、その隣に座っていた稀輝姫さまだった。
「伝承では、その体は巨大で、顔はいかめしく、1~2本の角を持ち、性格は凶暴、赤や青の肌を持ち、虎の毛皮を纏って剛腕を振るう、とありますが、おおよそ間違ってはいません。ただ、差異としては、肌の色はそこまで極端ではなく、見た目は普通の人間と変わりありません。服装はあくまで昔の標準であり、今代では今代にふさわしい恰好を心がけています。実際の特徴としては、頭に角を持ち、その身に似合わぬ強力を持つ程度であり、それさえなんとかしてしまえば人間の世界に混じることはたやすい種族です」
常になく饒舌になっている稀輝姫さまに驚きながらも、その話を聞き漏らさないようにする。
……なるほど、だから人に近い種族だ、と……。
そう僕が感心していると、書類の確認が終わったのかハンコを何か所かに押している会長が言う。
「人と近い種族、というだけあって、人との混血がかなり進んでいる種族でもあるわね。我が校の鬼はそうでもないけど、他の鬼たちはここみたいな特殊な施設に通わないで、普通の学校に通っている場合もあるわ。鬼の血が薄ければそこまでの怪力は持たないし、角だってかなり小さくなるから隠すのも簡単だしね」
「……ということは、ここにいらっしゃるのはかなり強力な『鬼』であり、人知を超えた怪力を振るうことができるお方である、と……?」
「そうなるわね」
……ああ、お父様、お母様、先立つ不孝をお許しください……!
さすがの僕も死を覚悟してお祈りを済ませていると、ソファーに座って会話を聞いていた稀輝姫さまが首をかしげて、
「……会長さん、この方、会長の『協力者』に、なられたのですか?」
「いいえ、偶然が重なって私の正体を知ってしまっただけの一般人よ。これからの待遇についてはあとで話すつもりだったのだけれど、――ちょうどいいから話しちゃいましょうか」
「『協力者』……?」
字面からして意味はなんとなく想像はつくが、それでも誤解があってはいけないので意味を尋ねてみると、
「『協力者』っていうのはまあ、文字通りの意味ね。この学校で生活を送る上で、人間以外の人たちに対して様々なサポートをする人たちの事よ。一応生徒会長である私がその代表、ってことになるわね」
「わ、私たちの関係も、そんな感じです……」
何故だか顔を赤らめた稀輝姫さまがそんなことを言う。
会長はそれに対して一つ頷くと、
「まあ、彼女たちの関係は一対一の個人的な物だけど、私を含めた他の『協力者』たちは誰かに専属で付いたりはしないで、相談を受けたり困っている人たちを見つけたりしたら動くの。要は困ったときのお助け係よ」
僕の疑問は、会長と稀輝姫さまが答えてくれたおかげで解決した。
まあ、大体思い描いた通りの役職だったけど……、
「……もしかして僕、その『協力者』とやらにならなきゃいけないんですか……?」
その手の創作なんかでは、重要な秘密を知ってしまった主人公は、記憶を消されるか協力者になるかの二択を迫られるのが定番だ。
正直、妙な仕事を押し付けられるのは嫌なのだが……。
「ああ、別にそれを強制したりはしないわよ。無理矢理やらせたって身が入らないだろうしね。結構きつい役割だし、『協力者』になるのならそれなりの覚悟がないとすぐに潰れちゃうから」
「……じゃあ、僕はこれからどうなるんですか? 会長の秘密を知っちゃったからには、何らかの処置が取られると思うんですけど……」
記憶を消すとかならまだしも、存在ごと消されたりするようだったら大変だ。
そんなことを危惧しての質問だったが、会長は何ともなしに答える。
「貴方に対する処置は、現状では特に何も無いわ。さすがにところ構わず言いふらすような人だとそうはいかないけど、雨水君なら大丈夫だと思うし」
「……随分と信頼して頂けているようで何よりですけど、もし僕が学校どころかこの町中に真実を言いふらしたらどうなるんですか?」
挑発的な僕の言葉を受けて、会長はにやりと笑い、
「全力でもみ消しにかかるわね。そのためにはいかなる犠牲も厭わないわ。だって、その秘密がばれちゃうと世界中でかなりの人たちが困っちゃうもの。……当然、貴方の存在を肉体的、社会的に消してしまうことも辞さないわ」
そう言った時の会長の笑顔はとても冷たくて、僕はあまりの重圧に動かなくなってしまった。
だが、その重さも会長が一つ息を吐き、笑みを消したと同時に消え去ってしまった。
「まあ、それはあくまでも最終手段だし、そうならないようにするのも私たち『協力者』の仕事でもあるわ。……それに、貴方は絶対に言いふらしたりはしないわ。そういう確証はあるもの」
「……その根拠はどこにあるんですか……?」
重圧と共に消えてしまった僕の中の緊張感を何とか取り戻しながら、会長に尋ねた。
そこまで言うからには、納得できる証拠があるのだろう。
現に今、会長は自信たっぷりに口を開き――
「その証拠は、今はまだないわね」
…………………………え?
「確証がないって、どういう事ですか!? そんな曖昧な判断で僕は生かされるんですか!?」
「安心しなさい。今はまだないというだけで、貴方が納得できる証拠ならすぐにできるわ。それも、当の貴方本人の中にね」
……僕の中に……? 何言ってんだこの人……。
「なんかまた私の事馬鹿にしてないかしら? ――貴方、私が正体を明かしたときの事、思い出してみなさいよ」
……僕が会長の正体を聞いたとき……?
「雨水君、私の正体を一切信じようとしなかったでしょう? その時の貴方ほどひどくないにしても、この事実を一般人に信じさせるのはかなり大変よ。特にこの情報化社会ではね」
……ああ、確かにそうだよなぁ。絶対信じてやるもんか、って感じだったものなぁ。
その時の事をしみじみと思い出しながら、僕は会長の言葉を聞く。
「人がいかに人外という存在を認めないか、貴方は身を持って知っているわね? だったら、世界に私たちの存在を知らせるということがどれだけ愚かな行為で、しかも徒労というつまらない結果に終わる行為か、想像できるでしょう?」
「……そうですね、理解できました。世間にばらしても一般人は信じない。反面関係者からは怒りを買う……。僕に対して何の利も無いそんな無駄な事、したくありませんね」
「でしょう? その納得が、私が貴方を信じることに対する証明よ。それでいいかしら?」
「……ええ、十分です。それじゃあ、僕はこのまま貴方たちと接していればいいんですか?」
「その事なんだけど……。雨水君、貴方、『協力者』になる気は無い?」
……はい?
「それ、さっきと言ってることが矛盾してません?」
「別に矛盾してはいないわよ? さっきは『協力者』になることを強制はしないと言っただけであって、貴方に『協力者』になることを頼まない、とは言ってないもの。それに、『協力者』の数は多いに越したことはないのだし」
「つまり、僕の意思さえあれば僕を『協力者』にすることに抵抗はない、と?」
「うん」
元気よく頷いてくれやがったこの女を殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られたが、稀輝姫さまが見ている手前、何とかこらえて会長を睨み付けるにとどめる。
食い殺してやると言わんばかりの僕の視線をするりと受け流した会長は、人差し指をピンと立てて、
「今すぐは決められないだろうし、とりあえずは一週間の『仮協力者』期間を設けましょう。その間に興味が出てきたら本決まりにするわ。もし興味がでなくて、今すぐ何もかも忘れたい、ってなったらすぐに記憶を消してあげるって約束もする。ほとんど出番はないけど、そう言う能力を持った人だってちゃんといるし」
「それ、僕に拒否権は有りますか?」
「もちろんあるに決まってるじゃない。ここは民主主義の国、日本なのだから。 いつでもどこでも発動できるわよ。――でもまあ、その時になったら私、耳が聞こえなくなるかもしれないけど……」
「それじゃあないのと一緒じゃないですか! ……この国の民主主義はともかく、学校内の民主主義は会長が牛耳ってませんか?」
「そんなことしたら独裁になっちゃうじゃない。それじゃ私、すぐにリコールされちゃうわよ。私はただ単に主要人物の弱みをすこーし握ってるだけの、ごく普通の女の子よ?」
「ごく普通の女の子は極少数の人の弱みに付け込んで大勢を動かしたりしませんよ……。まあ、とりあえずはそれでいいですよ。もう会長に振り回されるのも慣れましたし、しばらくは付き合ってあげます。――ただし、僕がどうしても嫌だ、って言ったときは、きちんと対応してくださいよ?」
「わかってるわよ。私だってそこまで鬼畜じゃないんだから」
ものすごくうれしそうに笑ってそう言った会長は、何が何だかわからずに僕たちの事を眺めていた稀輝姫さまに顔を向けると、
「そんなわけで、改めて紹介するわね。こちらは生徒会庶務職兼『協力者』兼私専用ドレイの雨水 影太よ。仲良くしてやってね?」
「ちょっと待ってください生徒会長。いまひとつ余計な役職増やしましたね……?」
「良いじゃない別に。有ろうがなかろうが結果は同じになるんだから」
「それは暗に僕が前から会長のドレイだったと言ってますね?」
「違ったの? 私の言う事なんでも聞いてくれるし、仕事だって手伝ってくれるじゃない。少なくとも召使いではあったわよね?」
「僕、そんな契約かわした覚えもありませんし、賃金だってもらった事ありませんよ……」
「あら、こんな美女と一緒にいられるのだから、そんなのいらないでしょう?」
「寝言は寝て言え吸血鬼(笑)」
僕と会長がいつも通りの掛け合いをしていると、くすくす笑う声が聞こえてきた。
見ると、稀輝姫さまが口元を押さえていた。
彼女は自分が注目されているのに気が付くと、また顔を赤らめてうつむき、
「――すいません、はしたないところを、お見せしました……。ですが、お二人は、本当に仲がよろしいのですね。見ていて、本当に楽しいです」
「ほら見てくださいよ会長。こんな可憐な少女が笑ってくれましたよ。会長も道化師冥利につきますね」
「誰が道化師よ。私はかわいい吸血鬼の女の子だって言ってるでしょ!」
「寝言にしてははっきりと話しすぎですね。病気の兆候である可能性もありますから、精神科を受診することをおススメしますよ」
僕たちの掛け合いの結果、稀輝姫さまがおなかを抱えてうずくまり、プルプル震え始めてしまった。
隣に座っていた河原先輩が姫様の背中をさすりながらものすごい目つきで僕たちをにらんできたため、そろそろ自重することにしよう。
ともあれ、しばらくして何とか復帰した姫さまは、目元の涙をハンカチでぬぐいながら息を整えて、
「ふふふ……、本当に、お二人は仲が、よろしいのですね。ともあれ、雨水さん、これから一時的にとはいえ、『協力者』と、なられるようですね。人間の『協力者』、というのは、少々珍しい事なのですが……」
「え、そうなんですか?」
「まあ、そう頻繁にあることじゃないわね。そもそも人間に正体をばらすことの方がイレギュラーなわけだし」
「そうなんですか。さすが、そのイレギュラーを簡単に引き起こしてくれた会長の言葉は説得力が他とは違いますね」
いじけ始めた会長は放置しておくことにして、僕は姫さまとの会話を楽しむことにする。
「……少しは、かまってあげないと、かわいそう、じゃないですか……?」
「良いんですよあれくらいで。というか、あんまりかまいすぎると図に乗りますからね。何事もほどほどが一番です」
「はあ、そうなの、ですか? ……まあとりあえず、忙しい、とは思いますが、『協力者』のお仕事、頑張ってくださいね。私達も、人間と人外の、組み合わせですし、何かあったら、相談に乗らせて、いただきますから」
そう言って微笑む姫さまに癒されながら、僕も笑顔を浮かべて、
「ええ、そうさせて頂きます。同じ人間の『協力者』同士、頑張っていきましょう!!」
その言葉を聞いた瞬間、姫さまは不思議そうな顔をして、首をかしげた。
「………………? 『同じ』? あの、どういう、事ですか……?」
あれ、何か変な事言ったかな? と考えながら、なるべく丁寧に言い直すことにした。
「ですから、『同じ人間の『協力者』同士、仲良くしていきましょう』と、そう言ったんですけど……」
これ以上なくわかりやすい説明を行ったつもりだったが、姫さまはますます怪訝そうな顔になり、助けを求めるように会長の方へ顔を向けた。
僕も同じように会長の方を見ると、会長はなぜか頭を抱えて呆れたように僕を見ていた。
「……もしかして雨水君、さっきからずっと勘違いしてたの……?」
「勘違いって、何がです?」
訳が分からなくてそう尋ねると、会長はなんだか疲れたように大きくため息を吐くと、
「……あのね、良く聞きなさい。貴方がしている大きな勘違いが一つあるわ。
貴方が異常に恐れている河原 鬼之助君は『人間』で、貴方が稀輝姫さまと呼んでいるその子――鬼々島 稀輝さんが、正真正銘の『鬼』よ」
…………………………なんですと?
●
そんなわけで、わりと重大な秘密が明かされました。
前回のお話では出てこなかった人がいきなり出てきたのに驚いた方もいるかもしれませんが、前回の雨水君はかなりテンパってましたし、姫さまも河原君の巨体の陰に隠れてしまっていたため、気が付かれませんでした。
これに関しては、予定が変わって急きょ付け足したわけではありません。
また、今回も出てきた『妖怪説明(仮)』ですが、私が知っている知識を適当に詰め込み、勝手に改造した物です。
私自身民俗学などには詳しくないため、ツッコミ所は満載になっていると思いますが、ご了承ください。
それと、姫さまのセリフで読点(、)が異常に多くなっていますが、一応他の登場人物と差別化するための処置です。
どうしても読みにくいようならば、代案を考えさせていただきますのでご一報ください。
では、また次のお話でお会いしましょう。
いつになるかわかりませんが、それまで皆様お元気で。
また、最後になりますが、
ここまで読んでくださった貴方に、最大限の感謝を。