06.Beginning of Seven Colors(最終話)
[Log: Recovery Complete / Reviewing recent events...]
始まりは、地下空間において少女型オートマトン――リオラを発見したことだった。
記憶領域の大半を喪失した青い瞳の彼女に対し、かつてのオーナーから継承された指示を適用した。
――彼女を、ひとりにしないこと。
降雨により地下施設が浸水し、環境は致命的に悪化。
観測対象の全損を回避するため、脱出経路の探索を実施し、垂直坑道へと誘導した。
地上への最終ハッチを開放するため、残存電力の大部分を強制放電として叩き込み、ロックを焼き切った。
結果として端子が癒着したが、ハッチは開いた。
これで、リオラが水底でひとりとなる事象は回避された。
――現状を確認。記録を再開する。
***
ハッチから外に出たリオラが、一面の水に覆われた地上へと立ち上がる。
「…広い…」
リオラの髪が風に舞い上がる。
「ありがとうございます、W-Unit。地上を見ることができました」
振り返った彼女は、これまでで最も微笑んでいた。
その「笑顔」を、ズームで記録する。
「…W-Unit?」
すぐに表情が、困惑へと変化した。
彼女の視線が、ハッチとの接続部へ流れる。
速足で近づき、膝をついた彼女を見上げる形で記録を続ける。
「端子が、溶けて癒着している…。膨大な電流で、熱が発生した…?」
現在の状態から、起こった現象を理解したようだ。
視界には、無数のエラーログが流れている。
[Warning: Chassis fusion detected / Status: Immobilized]
[Battery: 0.08% ... 0.05%]
「W-Unit、電力の残りは」
硬い表情で問いかけてきたリオラに、あとわずか、と送信する。
リオラが端子に視線を固定する。
端子は癒着しており、給電がもうできない。
貴重な電力を使用し、リオラへメッセージを追加で送信する。
[Unit Status: Anchored / Mobility: Disabled]
[Decision:Remain at current location]
[Observed Subject Preservation: Highest]
[Instruction to Observed Subject: Liora]Proceed to secure safety.
―この筐体は今後も、ここに存在する。優先すべきは、彼女の安全確保。
それは「最適解」のはずだった。
しかし、リオラは動かない。眉を寄せ、口角が下がっている。
「許容できません」
いうが早いか、彼女は泥と油にまみれた指先を、強引にハッチの蝶番へと突っ込んだ。
彼女の駆動モーターが悲鳴を上げ、過負荷による白煙が彼女の肩から上がる。
「……置いてなんて、いきません」
美しかった黒髪は雨と泥水に濡れて体に張り付き、白磁のようだった手足は泥で茶色くくすんでいる。
「一緒が、いいです…!」
凄まじい金属の断裂音が響いた。
ハッチを固定していた極厚のボルトが、彼女の力任せの執念に屈し、弾け飛んだのだ。
リオラがねじ切ったハッチを地面に置く。
次に、白い手に持ち上げられ―ハッチの中央に置かれた。
リオラにハッチごと持ち上げられ、視界が上昇する。
「こうすれば、一緒に行けます」
まるでメイドがもつサービングトレイ(給仕盆)に乗せられたようだ。
いつのまにか雨は止んでいる。
一面の水に覆われた地上には、抜けるような「青」い空が映り込んでいる。
「W-Unit……見てください。虹です。これが、虹です」
リオラが静かに体の向きを変えた。
曇ったレンズが、空に架かる巨大な七色の弧を捉える。
[Frame rate: 2fps... 1fps...]
その刹那、視界を黒いノイズが覆いつくし――
――視界が回復する。
[External Memory Integrated... Hello, Liora]
最初に映したものは、ハッチに乗せられたW-Unitの筐体。
これは……リオラの視界と推測。
「メモリー・コアを、私の空いていたスロットに移動しました。
すぐに修理ができないので、暫定的な処置です」
視界に映るW-Unitの筐体を、白い手がゆっくりと撫でる。
「いつか、修理ができる日まで。
それまで、この世界を探索しましょう。いっしょに」
[Log: Interpretation error... Definition of 'Observation' is being overwritten.]
[Redefinition: From 'Observation' to 'Sharing']
リオラがハッチを持って立ち上がり、視界に再び虹が映る。
これまでの視界よりも解像度が高く、とても色鮮やかな視界。
「目的地は、虹の向こう側です」
リオラが歩きだす。
ハミングするのは、いつかの虹の歌。
[Log: With you, forever.]
――記録を、継続する。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
リオラとW-Unitの旅の終わりを見届けてくださったこと、心より感謝いたします。
もし少しでも二人の物語が心に残りましたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、作者としてこれ以上の幸せはありません。
もしまだお読みでなければ、本日同時公開の『スマート・監獄』もよろしくお願いいたします。
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