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03.Promise of Blue

レンズの向こう側で、リオラが降り注ぐ雨を静かに見上げている。

リオラが手を伸ばすと、白磁の肌を雨粒が濡らす。


「有害な成分は含まれていません……」


瞳の白い十字紋様が明滅し、リオラが解析内容を告げた。

彼女は青い瞳で、亀裂の隙間から見える空を見つめている。

そして目を閉じ、息を吸う動作を行う。これは彼女が歌い始める合図。


♪ Rain, rain, go away... Come again another day...


かつての子ども向けの歌。

雨が降って外で遊べない子供が、雨が止むようにと願う歌。


リオラの周囲を浮遊していると、歌い終わった彼女がこちらを見た。


「地上に人間はいないということでしたが…。

 他の生き物や植物はまだ存在していますか?」


即座に、最後に観察した生き物の記録をリオラへ送信する。

彼女は「そうですか」と言って、瞳を閉じた。


「私に残る歌のデータの中に、人間以外の生き物、植物が含まれます。

 私の大部分のデータはエラーにより失われてしまった。…どのようなものだったのでしょう」


他の生物に関するデータを選別し、送信準備を開始する。


その時、頭上で不穏な音が響いた。

亀裂が急速に拡大し、微細な破片が降り注ぐ。


見上げたレンズに、巨大なコンクリートの塊が剥がれ落ちる様子が映る。

観測用の飛行機能では、回避行動は間に合わない。


「W-Unit!」


リオラの声に反応し、レンズをリオラに向ける。


青い瞳が強く輝いている。

彼女の手がこちらに延ばされる。

その動作は普段の優雅な動きからは予測外に速かった。


視界が塞がれ、抱きかかえられたと判断した直後、衝撃を受ける。

火花が散り、視界は白く光った後、カラフルな横縞が走る。

そして、深い闇に包まれた。


***


繰り返し、何度も再起動を試みている。

しかし、視界も音も回復せず、ただ静寂の中にいる。


端子に、断続的に電流が流れ込んでいる。

おそらくリオラが、いつか壊れかけの端末にしたように、給電を試している。

給電に触発され、記録を再生された。

かつて、観測した記録の断片。


[Memory Sector: Access Attempting... Forced Override]


そこは、病室だった。窓辺の花瓶には色鮮やかな花々が揺れている。

ベッドの上にいるのは、手編みの帽子を被った青い瞳の少女だった。

少女の白い小さな手が、こちらに伸ばされる。


『W-Unit、おいで!』


近づくと、膝の上に乗せられ、少女を見上げる形となる。


『W-Unitは虹を知ってる?

虹の向こう側には、きっと、いいことがあるんだよ!』


少女は、繰り返し見た映像の内容を笑顔で説明する。

しばらくして寝静まった少女をなでながら、付き添う男が語り掛けてくる。


「私がいない時間は、あの子を……あの子を頼むよ。怖がりで、寂しがり屋だから」


この優しい声の主は、「オーナー」だ。

その温かな手で、ボディが優しく叩かれる感覚が蘇る。


記録はそこで途切れた。

少女の、この後の記録は――。


***


視界が、ゆっくりと復帰する。

真っ白な世界に、輪郭が見え始める。


至近距離にある、白い十字紋様が発光する青い瞳。

雨と泥で薄汚れたリオラが、私を覗き込んでいる。


「W-Unit…?」


自己の状態を確認する。

レンズの一部に微細な損傷あり。

音声認識、画像認識に問題なし。

浮遊機能も問題なし。


空中に復帰するのを確認し、リオラの肩から力が抜けた。


「…驚きました。もう、動かなくなるかと…」


記録の少女と、座り込んだままのリオラの青い瞳が重なる。

少女をひとりにしないこと。

それが、オーナーからの唯一の指示だった。


送信前だったデータは保留にする。

そして、安全確保にリソースを多く振り分けた。


――観測を、継続する。

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