勇者の後悔
「勇者様、勇者様、知ってましたか?」
「ほれほれ、この青色の葉っぱ、幻覚効果が有るらしいですよ」
花畑を、男女が二人、歩いている。
それは、白く、また、赤く…華やかではあるが、空のみは、ひたすらに暗かった。
魔物が…絶えず地面から、華を蝕み、湧き出る度に、勇者が剣を振るい、斬り殺す。
赤髪の勇者は、魔物を斬る度に、煩わしそうに剣を拭った。髭は生え放題、髪も、肩にかかるほど伸びており、体からは獣臭がする。
「僧侶、回復魔法を」
一方の僧侶は、透き通るような金髪を、短くくくっており…どこか柔らかい雰囲気である。
「魔力ももう、枯れそうだなぁ…やはり、無茶だったか」
本来ならば、魔物を駆逐しつつの旅など、いくら手練とは言えども、二人でするものではない。
「あぁ…ガロアに、ルシエラ、お前達が恋しい」
勇者を、自分を庇って死んだ、戦士達の名を、虚空に向かい、唱える。
「まぁた、辛気臭い事いっちゃって、ほらほら、先進みますよ、くよくよしないッ」
ドンッ、と、僧侶が背中を押してくる。
行こう、進まねば。
たとえ、魔力が枯れ、死んだとしても…意味はある。未開の土地を、たった四人だけで切り開いて行った。その事に、価値があるのだ。
自分の使命を思い出す。
主から…王より下賜された、純銀製の鎧に、手を当てる。
それは、魔物に幾度となく襲撃され、資源も少ない中、特別に勇者に与えられた、逸品であった。
(意味は、あった)
そう、思わねばなるまい。
故に、勇者は、元気に喋り続ける僧侶に向けて、静かに響く声で
「進もうか」
だが、分かっている。
進めば…肉体強度の高い自分はともかく、僧侶は、この、黄金の様な人は、死んでしまうと。
証拠に、彼女は既に、何度も血を吐いており、ゴロゴロ…と内臓から出血していた。
「もちろん、さぁさ、いざ、冒険に」
きっと、私達が歩んだ道に、誰かが続いてくれる。
決して無駄ではない。
剣が、鎧が産まれ、進化する過程で…多くの名も無き偉人が、命を落としつつも、確実に…その技術を継承させた様に。
道中に、本は埋めて来た。
魔物に関しての、あらゆる特徴を、纏めた本である。
(誰かが、拾うだろう…)
その、時まで。
やがて、勇者も深い眠りに就く。
目を閉じ、未来に託したのだ。




