第七章:初めての愛、そして最終決戦へ
那智と名を知ってから、モモコの彼への想いは、もはや隠しようのないものとなっていた。
彼が現れるたび、モモコの目は彼を追い、その一挙手一投足に心が揺さぶられる。
那智もまた、モモコの熱い視線を感じ、彼女への想いを募らせていた。
ある日、クマー団がデパートを襲撃した。今回は『物欲の心』をターゲットに、人々を買い物の衝動に駆り立て、借金まみれにさせようという卑劣な計画だった。
デパート中には、ミントの鉢植えが隠されるように置かれており、その香りがクマネズミたちをさらに興奮させていた。クマネズミたちは、ミントの鉢植えを蹴散らしながら、デパート中を汚い足跡だらけにしていた。
「ひどい!みんな、こんなに苦しんでるじゃない!」
ネズミー・デグーは、憤りを露わにする。
デパートの最上階で待ち構えていたのは、巨大な貯金箱型のクマネズミ。その腹からは、無限の借用書が吐き出され、人々はそれを争うように掴み取っていた。その紙は油まみれで、触るのもためらわれるほどだ。
「デグーデグー・ピンクバースト!」
ネズミー・デグーが強烈な一撃を放つが、貯金箱クマネズミはびくともしない。
「無駄だ、魔法少女!貴様らには、この無限の欲望を止められまい!」
貯金箱クマネズミが、借用書をネズミー☆スターズに浴びせかける。その借用書には、人々の欲望が記されており、それを見るたびに、ネズミー☆スターズの心にも物欲が沸き起こり、集中力が乱れる。
「ああっ……あのアイドルの限定グッズ……!」
ネズミー・デグーがうっかり借用書を見てしまい、体が硬直する。
「ネズミー・デグー!目を覚まして!」
ネズミー・チンチラのブルースパークが、借用書を燃やし尽くす。
しかし、貯金箱クマネズミの攻撃は続く。
ネズミー・チンチラ、ネズミー・フェレット、ネズミー・モルモット、ネズミー・ハムスターも、それぞれが心の奥底に抱える欲望を刺激され、苦戦を強いられていた。
ネズミー・フェレットは最新のスニーカーに、ネズミー・モルモットは限定スイーツに、ネズミー・ハムスターは最新ゲームに目を奪われそうになる。そのたびに、クロモフが「モフモフ!」と体を張って邪魔をした。
ネズミー・デグーが、再び借用書の誘惑に囚われそうになったその時、時空が光りデパートの屋上から、那智が静かに現れた。
「人は、欲望と向き合い、それを乗り越えることで、真の豊かさを知る」
彼の言葉が、ネズミー・デグーの心に真っ直ぐに響いた。ネズミー・デグーは、ハッと目を覚ます。
(そうだ、私には、もっと大切なものがある!みんなとの絆、そして……那智!)
那智は、銀の剣を構え、貯金箱クマネズミの周りを舞うように動き出した。彼の動きは、デパートの複雑な構造をものともせず、まるで空間を支配しているかのようだった。
彼は、ミントの香りに敏感なクマネズミの習性を利用し、デパート中に隠されたミントの鉢植えを剣で弾き飛ばし、その香りを貯金箱クマネズミに集中させるように仕向けていく。ミントの鉢植えが割れるたびに、清涼な香りが広がり、クマネズミは苦悶の表情を浮かべる。
「時空剣技・無銘の舞」
那智の剣が、貯金箱クマネズミの身体に無数の傷をつけていく。しかし、その傷からは現金が飛び出すばかりで、本体へのダメージには至らない。
「くそっ!効いてないのか!?」
ネズミー・フェレットが叫ぶ。
「このクマネズミの本体は、欲望の渦そのもの……剣では、根本を断てない……だが、ミントの香りで、奴の動きは確実に鈍っている……!」
那智の額に、うっすらと汗が浮かぶ。
その時、ネズミー・デグーの頭の中で、ピカッと閃いた。
「わかった!欲望って、心の問題だもんね!心の問題は、心を揺さぶることで解決できるんだ!しかも、あいつら、ミントの香りが苦手なんだよね!だったら……!」
ネズミー・デグーは那智の隣に飛び出し、ネズミーリボンを高く掲げた。
「みんな!私に力を貸して!最高のアイドルソングを、このクマネズミに聞かせてやる!もちろん、ミントの香りをイメージした、クールで爽やかなやつをね!」
ネズミー・チンチラ、ネズミー・フェレット、ネズミー・モルモット、ネズミー・ハムスターが驚いた顔をする。
「ネズミー・デグー、何を考えてるの!?」
「でも、ネズミー・デグーなら……!」
ネズミー・デグーは、自分の心の中にある、アイドルへの情熱と、仲間への信頼、そして那智への募る想いを、すべて魔法の歌に乗せた。彼女が歌い始めたのは、まるで新緑の風が吹き抜けるような、清涼感あふれるメロディだった。
「ネズミー・デグー・ハートフル・メロディ!〜ミントの風に乗せて〜」
ネズミー・デグーが歌い始めると、ステッキの星型の石がまばゆい光を放ち、ピンク色の音符がデパート中に響き渡る。その歌声は、人々の心を温かく包み込み、欲望の渦を鎮めていく。同時に、歌声に乗ってミントの香りがデパート中に満ち渡り、貯金箱クマネズミは苦しげな声を上げた。
「な、なんだこの歌は……!私の欲望が、浄化されていく……!そして、ミントの香りが……鼻にツーンと……ぐぎゃあああ!!」
那智は、驚いたようにネズミー・デグーを見た。彼のフードの奥で、瞳が輝いたのがわかった。彼女の歌声は、那智の想像をはるかに超える力を持っていた。単なる癒しではなく、対象の弱点を的確に突き、浄化する力。
そして、彼の銀の剣が、歌声に合わせて光を放ち始める。那智は、ネズミー・デグーの歌声に呼応するように、時間と空間を操る力を最大まで解放した。
彼の剣が、貯金箱クマネズミの身体を透き通るように貫く。今度は、現金ではなく、キラキラとした希望の光が噴き出し、貯金箱クマネズミは浄化されていく。
戦いが終わり、人々は正気に戻り、デパートには穏やかな空気が戻ってきた。
ネズミー・デグーは息を切らしながらも、那智のそばに駆け寄った。
「那智……!」
那智は、ゆっくりとネズミー・デグーに向き合った。フードで隠された顔の代わりに、彼の瞳が、ネズミー・デグーを真っ直ぐに見つめる。そのまなざしは、以前のような冷静な観察者のものではなく、熱い感情を帯びていた。
「君は……私の想像を超えていた。希望を歌い、未来を創る……君こそが、真の魔法少女だ」
ネズミー・デグーの頬が熱くなる。彼に褒められたことが、こんなにも嬉しいなんて。
「あ、あのね……那智……」
ネズミー・デグーは勇気を振り絞り、言葉を紡ぎ出した。
「私……那智のことが、好き……!初めて会った時から、ずっと気になってたの……!あなたが、光の中に消えてしまうたびに、胸が苦しくて……!」
ネズミー・デグーの告白に、那智は驚いたように目を見開いた。彼の顔には、一瞬の戸惑いと、それを上回る喜びが浮かんだ。
彼は、自身の使命と感情の間で葛藤してきた。しかし、ネズミー・デグーの純粋な言葉が、その葛藤を一気に吹き飛ばした。
「……私もだ。君と出会ってから、私の時間も、意味を持った」
那智の声は、優しく、甘く、ネズミー・デグーの心に染み渡った。そして、彼はフードを少しだけ外し、口元を見せた。その唇が、ネズミー・デグーの唇に、そっと触れる。
柔らかな感触。そして、彼の香りが、ネズミー・デグーを包み込む。
ネズミー・デグーの視界が、一瞬、キラキラと輝いた。
「ま、まさか、キス……!?」
顔を真っ赤にして固まるネズミー・デグー。
那智は、優しくネズミー・デグーを抱きしめた。
「君は、私の光。君がいる限り、未来は閉ざされない」
ネズミー・デグーは、彼の腕の中で、幸せの絶頂にいた。憧れの彼と、恋人になれた。この喜びが、彼女の全身を駆け巡る。
その時、クロモフが、焦りの声を上げた。
「モフモフ!大変モフ!女王様が、完全に絶望の繭に飲み込まれてしまったモフ!最後のチャンスモフ!」
ネズミー・デグーと那智は、顔を見合わせた。甘い時間は、一瞬で終わりを告げた。
「行こう、ネズミー・デグー。君の歌声と、私の剣で、女王様を救い出そう」
那智が、ネズミー・デグーの手を握り、力強く言った。彼の表情には、ネズミー・デグーへの深い愛情と、未来への確固たる決意が浮かんでいた。
「うん!行くよ、那智!」
二人の手は固く結ばれ、希望の光を放つ。その光は、遠くで待つネズミー・チンチラたち、そして絶望の繭を照らした。
これから始まる、女王を救うための最終決戦。そして、二人の愛の物語は、今、まさに加速しようとしていた。