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第六章:戦いの中で育む想い

 謎の男性が消えてから、数日。今日は双子の家で作戦会議、仲間の会話にもうわの空、モモコの心にはぽっかりと穴が開いたようだった。アイドルソングも、フランスパンも、以前のように楽しめない。


「モモコ、元気ないね……」


 ルリが心配そうにモモコを見つめる。


「やっぱり、あの人のこと、気にしてるんだね」


 ヒスイが、モモコの肩をポンと叩く。


「あんな風に消えると気になるよねー。私もちょっと気になっちゃった」


 コハクが、スマホで謎の男性らしき人物のイラストを探している。


「コハク、不謹慎よ。でも、モモコの気持ちも分かるわ」


 サンゴが、モモコの前に温かいお茶を差し出した。


 その時、再びクロモフが慌てた様子で飛び込んできた。


「モフモフ!大変モフ!クマー団の残党が、遊園地を襲撃してるモフ!今度は『楽しむ心』を奪おうとしてるモフ!」


 モモコは、ハッとして顔を上げた。楽しむ心。一番、自分が大切にしているものだ。


「行くよ、みんな!あの人に、弱いところは見せられない!」


 モモコの瞳に、再び強い光が宿る。彼女はネズミーリボンを握りしめ、叫んだ。


「ネズミーパワーチェンジ!!」


 五人の魔法少女は、桃色町遊園地へと向かう。遊園地は、子供たちの悲鳴とクマネズミたちの高笑いが響き渡り、乗り物はめちゃくちゃに壊されていた。 

 クマネズミたちは、園内に置かれたミントの鉢植えに不満そうに顔を歪めていたが、彼らの得意のイタズラで、鉢植えはひっくり返され、土まみれになっている。


「ぜったい許さない!みんなの楽しい心を返せー!」


 ネズミー・デグーが、真っ先に飛び出す。


 しかし、残党とはいえクマー団の戦力は侮れない。数で圧倒され、ネズミー・デグーは孤立してしまう。


「みんな大丈夫かな……」


 四方八方からクマネズミに囲まれ、絶体絶命のピンチに陥る。


「くっ……!こんなところで、やられるわけには……!」


 その時、ネズミー・デグーの脳裏に、謎の男性の言葉が蘇った。「未来は、今この瞬間に創られる」。そして、彼の優しい花の香り。


(彼が、私に力をくれたんだ……!もう、逃げない!)


 ネズミー・デグーは強く目を閉じ、そして見開いた。ステッキから、これまでにないほど強烈なピンクのオーラが放出される。


「デグーデグー・ピンク・オーバーロード!!」


 ピンクのオーラが竜巻となって周囲のクマネズミを吹き飛ばし、ネズミー・デグーは一気に包囲網を突破した。 

 仲間たちが駆けつけ、力を合わせて残党を掃討する。


「デグー!今の凄かったね!」


 仲間達がデグーを取り囲み興奮しながら抱きつきあった。 

 戦いが終わった後も、ネズミー・デグーの胸の熱は冷めやらない。


「あの人……見ててくれたのかな……」


 誰にともなく呟くと、クロモフがネズミー・デグーの周りをくるくる回った。


「モフモフ!きっと見てるモフ!ネズミー・デグーの頑張りは、時空を超えて届くモフ!」


 その頃、遊園地から遠く離れた場所で、謎の男性はネズミー・デグーの戦いを静かに見守っていた。彼女の成長は、彼の予想をはるかに上回っていた。特に、あの逆境の中での「ピンク・オーバーロード」。それは、彼女自身の心の輝きが生み出した、純粋な希望の力だった。


(彼女は、本当に強い……)


 彼の懐中時計の中の未来の映像が、少しずつ、しかし確実に変化していく。以前は彼の周りにだけ光があったが、今はネズミー・デグーの周囲にも、明るい光が灯り始めていた。

 それは、彼の使命を果たすための希望の光であると同時に、彼の心の奥底に、これまで感じたことのない温かい感情を呼び起こしていた。


 彼は、自身の人生を「時空の旅人」としての使命に捧げてきた。感情を揺さぶられることは、時空を操る者としては危険な行為であり、常に客観的でなければならなかった。

 しかし、ネズミー・デグーと出会ってから、その鋼のような意志が少しずつ揺らいでいくのを感じていた。


 彼女の笑顔を見ると、心が締め付けられる。彼女が危険な目に遭うと、胸が苦しくなる。彼女が仲間と笑い合っている姿を見ると、なぜか温かい気持ちになる。

 そして、彼女が自分を探しているまなざしを見ると、居ても立っても居られなくなる。彼は、彼女の純粋な輝きに、抗うことのできない魅力を感じていた。それは、彼の長き旅の中で初めて経験する、特別な感情だった。


(これは……一体……?)


 彼は、それが「恋」という感情であることを、理解し始めていた。時空を超えた存在である彼にとって、過去も未来も同じように「今」に存在する。しかし、ネズミー・デグーとの「今」は、他の時間とは比べ物にならないほど鮮やかで、特別だった。


 それからも、ネズミー☆スターズは次々と現れるクマー団の残党と戦い続けた。そして、ピンチの時には、必ず謎の男性が颯爽と現れる。 

 彼は常にネズミー・デグーの視線の先にいた。彼の剣技を見るたび、彼の意味深な言葉を聞くたび、ネズミー・デグーの胸は高鳴り、彼の顔が見たいという想いは募るばかりだった。


 ある日の戦い。街の時計台がクマネズミによって破壊され、時間がめちゃくちゃになるという事件が起きた。ネズミー☆スターズが苦戦していると、光る時空の亀裂から謎の男性が再び現れた。彼は壊れた時計台を見上げ、懐中時計を取り出した。


「時は、止まることなく流れ続けるもの。それを乱すことは、未来を閉ざすことに等しい」


 彼の言葉に、ネズミー・デグーの心臓が大きく跳ねた。彼の、普段とは違う、少しだけ感情がこもった声。

 彼は、この時計台の異常を前に、珍しく感情を揺さぶられているように見えた。それは、彼が大切にしている「時間」そのものへの冒涜であり、彼の使命感に直接触れるものだった。


 彼は剣を構え、光速の剣技でクマネズミたちを圧倒していく。ネズミー・デグーは、彼の舞うような剣捌きに目を奪われた。まるで、彼自身が時を操るかのように、クマネズミの攻撃をかわし、正確に弱点を突いていく。その姿は、まるで時間そのものが彼の剣に乗っているかのようだった。


 戦いが終わり、謎の男性がいつものように光の中に消えようとしたその時、ネズミー・デグーは必死に呼びかけた。


「待って!あの……!あんな風に消えて身体は、大丈夫なの?心配なの……あなたのこと、もっと知りたいの!」


 彼は足を止め、少しだけ振り返った。フードの奥で、彼の目が優しく細められたように見えた。その瞳には、かつての冷徹さはなく、ネズミー・デグーへの深い感情が宿っているのが見て取れた。


「……大丈夫だ、私の名は、那智なち。そして、君の未来は、私にとって最も尊い時間だ」


 那智。初めて聞く彼の名。その言葉の意味はわからなかったが、モモコの胸は、甘い痛みで満たされた。


 彼の光が完全に消え去った後も、その名前は、まるで魔法のようにモモコの心に響き渡っていた。


 那智自身も、モモコのあの真っ直ぐな問いかけに、思わず本名を明かしてしまったことに、自身の心の変化を感じていた。彼はもう、単なる「時空の旅人」ではいられなくなっていた。

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