第三章:緑の突風、公園の友情を守れ!そして謎の影
桃色町中央公園は、いつもなら子供たちの笑い声が響く場所だ。
しかし、この日はどんよりとした空気が立ち込め、誰もが互いに背を向けてベンチに座っていたり、砂場で無言で砂遊びをしている。
その中心には、先ほどよりも一回り大きなクマネズミが、得意げに胸を張っていた。その体からは、なんともいえない油臭い匂いが漂っている。
「ここにもいたか、クマー団!」
ネズミー・デグーとネズミー・チンチラが声を揃える。
「ほう、魔法少女か。だが、無駄だ。友情などという脆弱な感情は、我らクマー団の『孤立化スモーク』で一瞬にして消え去るのだ!」
クマネズミはそう言って、口から黒い煙を吐き出した。煙は瞬く間に公園全体を覆い、ネズミー・デグーとネズミー・チンチラの視界を奪う。
「くっ……視界が悪いわ!」
「モフモフ!みんな、バラバラになっちゃう!」
その時、煙の中から巨大な影が飛び出し、ネズミー・デグー目掛けて突進してきた。
「きゃあああ!?」
危ない!そう思った瞬間、ネズミー・デグーの目の前に、緑の風が吹き抜けた。
「おっと、そこまでだぜ、デカねずみさん!」
現れたのは、緑色のコスチュームに身を包んだ魔法少女。ストレートロングの緑色の髪にフェレットのような耳、そして全身にフリルが施された愛らしい姿だ。彼女は軽々とクマネズミの突進を受け止め、そのまま片手で放り投げた。
「な、なんだと!?」
「あたしはネズミー・フェレット! 友情を壊すなんて、冗談じゃねえぜ!」
ネズミー・フェレットこと緑川ヒスイは桃色町中学校の一年生。スポーツ万能で、いつも明るいムードメーカーだ。
彼女の出現に、ネズミー・チンチラは学校を休んでいたヒスイがあらわれてホッと息をつく。
「ネズミー・フェレット!よかった、無事だったのね!」
「おうよ、ネズミー・チンチラ!まさか魔法少女になるとはな!人生ってわかんねーもんだぜ!」
ヒスイはにやりと笑うと、魔法ステッキ「ネズミーリボン」を大きく振りかぶった。
「フェレットフェレット・グリーンウィンド!」
ステッキの先端から、竜巻のような緑の風が巻き起こる。その風は孤立化スモークを一瞬にして吹き飛ばし、同時にクマネズミをもろとも吹き飛ばした。クマネズミは公園の端まで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「やるじゃない!ネズミー・フェレット!」
「やるっきゃないっしょ! 困ってる人がいたら助けるのが、あたしのポリシーだぜ!」
ヒスイの言葉に、モモコの胸が再び熱くなる。一人じゃない。仲間がいる。この心強さ、今まで感じたことのない感覚だ。
「よし!みんなで、あのでっかいのぶっ飛ばすぞー!」
ネズミー・デグーが叫ぶと、ネズミー・チンチラとネズミー・フェレットが笑顔で頷いた。
「ええ!」
「おう!」
ネズミー・デグー、ネズミー・チンチラ、ネズミー・フェレットの三人が、クマネズミに向かって一斉に突撃する。
ネズミー・デグーのピンクストームがクマネズミの動きを止め、ネズミー・チンチラのブルースパークがクマネズミを怯ませる。そして、ネズミー・フェレットのグリーンウィンドが、とどめとばかりにクマネズミを公園の外まで吹き飛ばした。
クマネズミは小さな煙となって消え、公園には再び子供たちの笑い声が戻ってきた。
「やったー!」
ネズミー・デグーは嬉しさのあまり、ネズミー・フェレットに抱きついた。
「それにしても、この変身、慣れないわね……」
ルリが肩を回しながら呟く。
「そうだな!特にこの耳!なんかソワソワするぜ!」
ヒスイが自分のフェレットの耳を触りながら言う。 その頃、公園から少し離れたビルの屋上では、一人の男性が静かに戦いの様子を見守っていた。フードで顔は隠されているが、その立ち姿は優雅で気品に満ちている。彼の名はまだ誰も知らない。
(彼女たちか……新たな希望の光……)
彼は懐中時計をカチリと開く。未来の景色が、そこに映し出される。彼女たちが魔法少女として成長し、世界を救う未来。しかし、その未来の途中に、彼の存在が大きく関わっていることを、彼は知っていた。
(あの力を使い続ければ、いずれ私も時空の狭間に消える。その前に、彼女たちに、希望を繋がねばならない……)
彼は、モモコのひたむきな姿、仲間と喜びを分かち合う笑顔を見つめていた。その笑顔が、彼の凍り付いた心に、わずかな温もりを灯す。
その時、再びクロモフが宙を舞いながら現れた。
「モフモフ!大活躍だったね、みんな!だけど、次の場所はもっと大変だ! クマー団は、桃色町図書館に『知識ナシの心』をばらまこうとしてるんだ!」
「知識ナシ!?それは図書館にとって一大事じゃない!」ルリが眉をひそめる。
「よし!行くぞ!次の戦いだ!」
三人の魔法少女は、新たな戦場へと向かった。謎の男性は、静かにその背中を見送った。