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第二章:青い閃光と、友情

 モモコが飛び込んだショッピングモールは、朝だというのに異様な熱気に包まれていた。いや、熱気というよりは「淀んだ空気」と言った方が正しいだろう。人々は皆、何かに取り憑かれたように目を虚ろにし、無言でスマホを操作している。そして、その中に紛れて、明らかに怪しい影が蠢いていた。


「あれが……クマー団?」


 クロモフが、モモコの肩で小さく頷く。


 それは、どう見ても巨大なクマネズミだった。よれよれのスーツを着て、小さなハゲ頭にはベレー帽を被っている。手には「やる気ナシ」と書かれたうちわ。見るからに不潔なオーラを放っている。


「なんだか、思ったよりショボい……?てか、あいつら本当に女王様誘拐したの?」


「彼らは『しょぼくれの種』をばらまいて、人々の心をクマネズミ化させるんだ。そうなると、どんどんやる気がなくなって、最終的にはネズミー・ランドまでやる気ナシの空気で満たされちゃう!」


「って、クマネズミってネズミー・ランドの厄介者なんでしょ?なんでそんなことすんの?」


 モモコの素朴な疑問に、クロモフが少し声を潜めた。


「モフ……実は、チンチラ女王様が最近始めた『美化政策』のせいモフ。街をキレイにしすぎて、彼らの住む場所がなくなって、嫌いなミントの鉢植えを国の至る所に置かれたのが我慢ならなかったらしいモフ……。

 あいつら、風呂にも入らないし、イタズラばかりしてズル賢くて汚い物好きなんだモフ。だから、居場所がなくなって逆ギレしてるんだモフ!」


「え、そんな理由で女王様誘拐して、地球まで荒らしに来るの!?ミントが嫌いって、そんな子供みたいな理由で!?」


 モモコは呆れた顔をする。しかし、その根底にある怒りは理解できた。居場所を失う悲しみは、モモコにも理解できたのだ。


 モモコはぎゅっと拳を握りしめた。やる気ナシなんて、アイドルが大好きなモモコには一番嫌な言葉だ。人々から「楽しい」という感情を奪うのは、彼女にとって許しがたいことだった。


「よし!いっちょ、やる気出させてやるわよ!」


 魔法ステッキ「ネズミーリボン」を構える。熊手のような先端の星型の石がキラリと輝いた。


「デグーデグー・ピンクストーム!」


 モモコが突然頭の中にひらめいた言葉を叫ぶと、ステッキの先端からまばゆいピンクの光が渦を巻き、クマネズミに向かって一直線に飛んでいく。光がクマネズミに当たると、彼らは「ぎゃあ!」と情けない声を上げて、スマホを落とした。


「効いた!?」


「それは偵察部隊だからね!本体はもっと強いんだ!」


 クロモフの声が響くやいなや、さらに大きなクマネズミが奥から現れた。その体はモモコの背丈ほどもあり、手には大きなハンマー。


「なんだとぉ!お、俺様のしょぼくれハンマーを受けてみやがれー!」


 ハンマーが振り下ろされる。モモコは咄嗟に身を翻して避けたが、床が大きくえぐれた。


「ひぃっ!危なっ!」


 連続で振り下ろされるハンマーを、モモコは必死で避ける。しかし、慣れない変身に、ミニスカートのひらひらに、足元がもつれそうになる。


「うわぁっ!」


 足を滑らせ、モモコは転倒した。ハンマーが頭上から迫る。絶体絶命のピンチ!


 その時、閃光が走った。


「そこまでよ!」


 声とともに、青い光がクマネズミのハンマーを弾き飛ばした。モモコが顔を上げると、そこに立っていたのは――先ほど衝突した、水色の髪の美少女だった。彼女もまた、モモコと同じように魔法少女の姿に変身している。青いロングポニーテールにチンチラのような耳、そして全身を彩る鮮やかな青のコスチューム。


「あなたは……!」


 青いステッキの星型の石が、鋭い光を放つ。


「人々を悲しませる悪の心は、私が許さない! 魔法少女ネズミー・チンチラ! いざ、参る!」


 青川ルリ――改め、ネズミー・チンチラは、流れるような動きでクマネズミに肉薄する。その動きはモモコの比ではない。的確に急所を狙い、ステッキの先端で打ち払う。


「チンチラチンチラ・ブルースパーク!」


 青い光がクマネズミを包み込み、そのまま壁に叩きつけられたクマネズミは、煙を上げて消滅した。


 モモコは呆然と立ち尽くしていた。強い。とにかく強い。


「ネズミー・デグー、大丈夫?」


 ネズミー・チンチラが優しい声で語りかける。


「え、あ、うん……ありがとう!ネズミー・チンチラ!」


「あなたはネズミー・デグーね。よかった、間に合って。クロモフから話は聞いているわ。一人で戦うのは危険よ。私たちはチーム『ネズミー☆スターズ』。これから協力していきましょう」


 ネズミー・チンチラの言葉に、モモコは胸が温かくなるのを感じた。一人じゃない。そう思うと、途端に力が湧いてくる気がした。


「うん!よろしくね、ネズミー・チンチラ!」


 二人の魔法少女が、固く手を握り合った。ショッピングモールに、再び活気が戻ってくる。人々は目を覚まし、何が起こったのか分からないといった顔で、手元のスマホを見つめていた。


「さて、偵察部隊は排除できたけれど、本隊はどこにいるのかしら?」


 ネズミー・チンチラが腕を組み、考える素振りを見せる。


 すると、クロモフが二人の間を飛び交う。


「よし!次なるクマー団は、桃色町中央公園に現れたよ! 彼らは“友情ナシの心”を狙ってるんだ!」


「友情ナシ……それは許せないわね!」ネズミー・チンチラの目が鋭くなる。


「よし!いっくよー、ネズミー・チンチラ!」


 ピンクと青の閃光が、ショッピングモールを後にした。

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