5筆目
クロ「なんでシロさん、村の人の家に泊めてもらわなかったんすか?」
僕とクロは村の外れの廃墟にいた。
渡白「何言ってんだ、2日も泊めてもらったら悪いだろ?」
クロ「さすがシロさん村を救った英雄なのに謙虚ですね」
渡白「村人はお前のことも英雄だって言ってたぞ」
クロがえへへと笑いながら、壊れかけのベッドの上で足をバタつかせる。
クロはまだ気が付いていないのだろう。
僕が村人の提案を断ったのには別の理由がある。
あれは案内人と別れた後の話だ。
案内人からの話の前には気がつかなかった視線を感じた。
僕がその方向を見ると、そそくさと逃げていく。
村人が「英雄」「英雄」言っている声の中、耳を澄ませると「何が英雄だ」「魔王の再来だ」などの声が聞こえてくる。
案内人の話を聞いてから、僕は何となく村人の心の内を察していた。
彼らが口にする「英雄」という言葉に嘘はない。
しかしそれ以上に「魔王誕生の記憶」は大きいのだ。
いきなり村を訪れた転生者が、新たな力を手にし……
僕たちのこの後の行動が確定していない今、彼らが恐怖するのは当然のことなのかもしれない…………
とにかく一刻も早くこの村を出よう、村のことを思うとそれが一番だ。
それにクロがこのことに気が付いてしまう前に。
クロ「おはようございます」
クロがまだ眠そうな声で言う。
クロ「早起きですねシロさん」
渡白「そうか?それより今日でこの村を立つぞ」
クロ「え~!?なんでですかもうちょっと居ましょうよ。村の子たちとも仲良くなったばっかなのに」
渡白「この村は今復旧作業で忙しそうだろ。そう何日も厄介にはなれないよ」
ぶつくさ文句を言うクロを無視して、ベッドなどを片付ける。
村人「いつでもまた立ち寄ってくださいね」
一人の村人がそう言ったが、目の奥はどこか申し訳なさそうにも、どこか安心しているようにも見える。
他の村人も口々に似たようなことを言っている。
クロはその一つ一つに笑顔で返答している。
クロ「子供たちはどうしたんですか?」
クロが村人の尋ねる。
確かに見送りの村人の中には、子供の姿は見えない。
村人「子供たちは……まだ寝ているんです」
クロ「そうですか、子供は寝るのが仕事ですもんね!」
…………
渡白「よしそろそろ行くぞ」
これ以上いるとこの村のことが嫌いになりそうだった。
??「子供たちに何も言わずに行くのか?よそ者」
あの男の村人の声だった。
子供「お兄ちゃんたち行っちゃうの?」
子供たちが一つの家から出てきた。
クロ「そうだよ。お兄ちゃんたちは魔王を倒す旅に出るんだよ」
思わず頬が緩んだ。
クロと一緒に子供たちと話す。
男村人「…そうか魔王を倒すか。お前たちなら出来るかもしれんな」
僕は強くうなずいた。
子供たち「じゃ~ね~、お兄ちゃんたち」
クロ「ばいば~い」
手をめいっぱい振るクロの横で、僕は小さく手を振る。
村人たちは子供たちとあの男村人以外誰も手を振っていない。
男村人「村を救ってくれてありがとよ達者でな~。アホども」
クロ「アホ?よそ者とかアホとか…オレたちは画家だって言ってんのに。最後の最後まで呼んでくれなかったっすね」
渡白「はは、バカって言われなかっただけよかったじゃないか」
クロ「バカもアホもおんなじじゃないですか」
クロがそう言いながら手を振る。
クロ「でも結局村の手伝いはさせてもらえませんでしたね」
渡白「いいんだよそれで」
あの男村人が、僕たちに子供の相手をさせた理由が今なら分かる。
村の大人たちから遠ざけ、村人の本音に気づかせないためだろう。
僕も手を大きく振りなおす。
そしてクロにも負けない位の大声で言う。
渡白「さよ~なら~」
村人「よかったのですか?あいつらは第二の魔王になりえるかもしれません」
村人「そうですよ。それに子供たちは合わせないように頼んだではありませんか」
男村人「………お前らみっともねえな」
村人「…何がですか?」
男村人「よそ者にこの村救われて。挙句の果てには命張ったそのよそ者を、魔王扱いか」
村人「…」
男村人「子供たちは1年前をとっくに乗り越えてんのに、大人のお前たちはまだあの日ままか?」
村人「…」
男村人「安心しろ。あいつらは魔王とは違う。あいつらは、シロとクロは魔王を倒すと言った。救われた俺たちがあいつら信じないで誰が信じるんだよ」
村人「…」
子供「お父さん。この絵家に飾ってもいい?」
男村人「ああいいよもちろん」
男村人「よしお前らおしゃべりは終わりだ。ちゃっちゃと村を元通りにするぞ。あいつらがいつかこの村に帰ってきたときに笑われないようにな」
⦅ バケモノ「戦う気がある奴が二人になっただけで調子に乗りやがって。何度でも言ってやろう。何人増えようがお前たちは、バカのままだ」
渡白「じゃあこっちも何度だって言ってやる。僕たちは....」
クロ「オレたちは....」
「「画家だ」」 ⦆
男村人「シロ、クロお前たちなら絶対に魔王を倒せる。俺はそう信じてるぞ」