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画家な僕たち  作者: 田月
画家誕生編
4/6

4筆目

 ガチャガチャ、トントン、ワーワー


 渡白「う~ん」


 知らない天井に知らないベッド、知らない世界。

 ここはどこだ…たしか僕は…………!


 渡白「そうだ、ガブ」


 急いでベッドから飛び起き、ドアを開けた。

 そして目に飛び込んできた外の光景を見て驚いた。

 村人たちが各々瓦礫を片付け、木材を運び、釘を打っている。

 昨夜の魔王軍の気配はどこにもない。

 そんな様子にあっけを取られていると、瓦礫を片付けていた一人の村人がこちらに気づき大声をあげた。


 村人「渡白様が目を覚まされたわー」


 その声に反応し、作業を止め、大勢の村人がこちらに駆け寄ってくる。

 そして皆口々に、英雄だの救世主だの言っている。

 頭の中に疑問が複数湧いていたが、僕は最大の疑問を問いかけてみた。


 渡白「あの魔王軍はどうなりましたか?」


 村人「何をおっしゃっているんですか?昨日魔王軍を撃退したのは渡白様とクロ様ではないですか。リーダーのガブを倒し、村を守ってくださった渡白様とクロ様はこの村の英雄でございます」


 渡白「僕はガブを倒しただけだ。

 他の魔王軍の魔物は残っていたはずだ」


 村人「ガブが討たれた時点で、他の魔物は勝てないと判断し、気を失ったガブを抱えながらの退却を選びました」


 なるほど魔物とはそういうものなのか。


 渡白「そういえばクロは…」


 クロ「師匠~!目を覚ましたんですね」


 この人だかりで僕が起きたことを感づいたたのだろう。

 クロが走って近づいてくる。


 渡白「だから師匠はやめろって言っただろ」


 クロ「でも昨日『師匠らしいとこお前に見せないと』って言ってくれたじゃないですか」


 痛いところをついてきやがる。

 必死に気張っている中で、言ってしまったカッコつけのセリフを平常時に掘り返される。

 これほど恥ずかしいことは元の世界にもこの世界にも中々ないだろう。


 渡白「うるせえ。とにかくシロって呼べお前は」


 クロ「え~」


 クロの心底残念そうな顔を無視して、クロに質問した。


 渡白「お前、あっちの方から走ってきたけど何してたんだ?片付けの手伝いか?」


 クロ「いや~、オレもそうしようとしたんすけど。あのおじさんが『お前みたいなよそ者に手伝ってもらわなくてもどうとでもなる。子供の相手でもしてろ』って言われて…」


 おじさんとは、おそらく昨日のガブに挑んだあの男の村人のことだろう。

 一番重症のはずなのによく昨日の今日で動けるものだ。


 クロ「それで村の子供たちと一緒に、似顔絵を描いて遊んでました」


 渡白「そうかそれはいいな」


 正直絵を描くことしかしてこなかった僕と、それにしか使われてこなかった筋肉では、村人の手伝いは厳しかった。

 自分にも出来る仕事があった事にホッとした。


 渡白「じゃあ僕も仲間に入れてもらおうかな」


 僕はクロと一緒に歩きだした。



 村の子どもたちは初めて見る絵画に興味深々だった。

 次は僕、私と次々に絵のモデルを申し出てきた。

 昨日の暗い雰囲気は、子供たちの間にはきれいサッパリなくなっていた。

 何枚も何枚も描き、昨日分の疲労も相まってさすがに疲れてきた。

 それはクロも同じはずだろうに、クロはずっと笑顔のままだ。



 あらかた全員に似顔絵を描き終わり、子供たちはそれぞれ自分の絵を見せ合って遊んでいる。

 そのうち一人の女の子が来た。

 似顔絵を要求されると思った僕は絵を描く準備をした。

 しかしその女の子は、僕とクロに一枚の紙を手渡した。

 それを見たクロは急に筆を止めた。


 渡白「どうしたクロ?」


 覗き込むとどうやらあの子が渡してきたのは、絵を描いている時の僕たちの似顔絵らしい。

 いい笑顔のクロが描かれていた。


 クロ「シロさん…」


 渡白「うん?」


 クロ「絵を描いてもらうって…絵を描いてもらうって……」


 クロ「こんなに嬉しいんですね」


 思わず僕まで顔がほころんだ。

 もちろん自分の顔は自分では見ることはできないが、今の僕も女の子の絵の中の僕も、とびっきりのいい笑顔をしてるんだろう。

 そう確信した。



 渡白「あっ、思い出した」


 クロ「どうしたんですか?」


 渡白「この世界に来る前に僕はクロ、お前を夢の中で見たんだよ」


 そうだ、そしてその顔を描こうとして僕は…


 クロ「シロさん!!オレも夢でシロさんを見たんです」


 渡白「えっ?」


 クロ「夢の中でシロさんはとっても楽しそうに絵を描いていた。だからオレもそれを真似して絵を描き始めたんだ」


 どういうことなんだ?

 なんで僕とクロは互いの姿を夢で見たんだ…


 案内人「それについては私からご説明させていただきます」


 クロ「うわ、誰すか?」


 渡白「僕にこの世界の説明をしてくれた人だ。しかしそれ以上のことは僕もよく知らない」


 渡白「案内人さん、なぜ今日は出てきたんですか?」


 先程までの疑問に加えて、昨日と違い自ら姿を現した案内人に対し疑念が生じた。

 それにより僕の語気は少し強まっていた。


 案内人「私は村の方々に少々嫌われていますので、昨日は渡白様の前に現れることは出来ませんでした」


 渡白「村の人に嫌われている?なぜですか?」


 案内人「なぜ私が村の方々に嫌われているのか、それになぜ渡白様とクロ様は互いに夢の中で出会われたのか、それら全てが今からの説明でお分かりになることでしょう」


 案内人は説明を始めた。


 まず初めに、この世界は渡白様が居られた世界のとても近くに位置しています。

 そのため輪廻天性の過程において、非常に低い確率で転生が起こります。

 しかし近くに位置してはいるものの、この世界の文明は渡白様がいらした世界ほど発展してはいません。

 それはひとえに人間より強力な魔物の影響です。

 その魔物の頂点が()()です。


 案内人「ここまでは昨日説明いたしましたね」


 渡白「はっ、はい」


 昨日は適当に聞き流していたなんて言えない。


 案内人「そしてここからは、渡白様には説明していない、いや説明しなくてよいと思っていた説明です」


 案内人の顔が真剣味を増した。


 先ほど説明した通り、この世界には強力な魔物がいます。

 ですが人類と魔物の戦いが激化したのはここ1年位でのことです。

 この世界は、1年前の魔王誕生により劇的に変わったのです。

 魔王は今まで種族単位で行動していた魔物を、まとめ上げ戦略的に人類との戦争を開始しました。


 案内人が少しの間沈黙し、表情が更に暗くなった。


 案内人「魔王は渡白様と同じ転生者でした」


 僕は少し驚いたが、話を続ける案内人に待ったをかけることは出来なかった。


 1年前のあの日私はいつも通り、転生者をこの村に案内し、職業を選ぶよう言いました。

 そうすると転生者は少し考え

「俺は魔王だ」

 そう叫び、この世界はそれを受け入れました。

 これが魔王誕生の瞬間でした。


 今度は流石に待ったをかけざるを得なかった。


 渡白「それって昨日の僕と…」


 案内人「その通りでございます。この世界に新たなる職業を生み出した転生者。渡白様は昨日魔王と同じことをしたのです」


 驚きを隠せないままに、気になった点を質問した。


 渡白「あなたは魔王の誕生を『この世界はそれを受け入れました。』と言った。まるで世界に意思があるような言い方ですが…」


 案内人「はい渡白様の考えの通り、この世界には意思があります。加えて私は、その意思の末端でございます」


 渡白「え?」


 案内人「昨日職業()()の誕生を、世界に告げたのは世界の意思が、私の声を通して出力された結果です」


 昨日のことを思い出すと、それまで頭の中で会話をしていた案内人の言葉が、僕が画家を宣言したタイミングで途切れ途切れになり、次の瞬間声が世界に響いたのだ。


 渡白「じゃあなぜ世界は、僕を、魔王を、受け入れたんですか?」


 案内人「それは強い願いによる、エネルギーが原因です。魔王、そして昨日の渡白様の職業への想いは、莫大なエネルギーを発していました。それに転生者は元々この世界から生まれた存在ではありません。それ故に外の世界から持ち込まれた、異質で強力なエネルギーは、この世界の存続を脅かしかねないほどの力を持っています。つまり世界は魔王を、あなたを、受け入れたのではなく、一度受け入れざるを得なかったのです。もし願いを跳ね除けていれば、願いが更に強いエネルギーを持つことは確実でしたから…」


 なるほどそういうことだったのか。

 今の説明からすると僕は…


 案内人「渡白様…」


 渡白「はい?」


 ギリギリギリ


 返事をすると同時に、僕の体は縛り上げられ、宙に浮いた。

 案内人は手を顔の前に掲げながら、話を続けた


 案内人「あなたは依然エネルギーを放ち、この世界を脅かす存在です。エネルギーに耐えるため、膨らみ続けるこの世界は、いずれあなたが元々いらっしゃった世界を飲み込む。あなたとクロ様が夢で出会ったのがそれのいい証拠です。世界の膨張はあなたにより加速し、留まるところを知らない。歳をとり、大きくなりすぎた巨木がいずれ朽ちて枯れるように、すぐ近くに息づいているあなたたちの世界を飲み込み、その内に限界を迎え破綻する。あなたはいてはならない存在なのです。この場で死んでもらいます」


 ギリギリと締め上げられる身体とは裏腹に、僕はとても冷静だった。


 渡白「案内人さんもういいですよ。あなたは殺せない」


 ギリギリギリギリ


 渡白「あなたが本気なら、姿なんか表さずに、話なんかせずに秘密裏に僕を殺せばよかっただけだ。

それに


泣いてるじゃないですか


案内人さん」


 拘束が緩められ、ゆっくりと地面に降ろされる。


 案内人「出来ない。私には出来ない。渡白様が、この世界を危険にさらしていることは、頭では理解している。でもただ絵を描き、人を笑顔にすることを望む、渡白様を殺すことは私には出来ない」


 クロ「じゃあこうすればいいじゃないですか!」


 話をずっと黙って聞いていたクロが口を開いた。


 クロ「もしここでシロさんが死んでも、魔王の脅威は消えない。そこでオレらで魔王を倒すんすよ。そうすれば世界の膨張も止まる。それに村の人たちも笑顔になる」


 ドヤ顔のクロが言う。


 渡白「それでも僕がこの世界にいることは変わらないだろ」


 クロが露骨に、「あっ」という顔をする。


 渡白「だけどいい案だ。案内人さんあなたは、僕が転生してから聞いた『この世界からの帰り方を教えてください』と言う質問に対して『元の世界への帰還は非常に難易度が高く....』と答えましたよね?難易度が高いということは、不可能ではないということだ」


 一呼吸おいてからゆっくりと言う。


 渡白「僕が魔王を討伐してこの世界を救って見せます。この代わり達成した暁には、僕をただの画家として元の世界に戻してください」


 案内人は涙を拭いて、こちらをしっかりと見る。


 案内人「私は案内人として、責任を持って渡白様を元の世界にお返しします。ですのでどうか、魔王を倒してください。お願いします」


 その顔にはさっきまでと違い、明るさがあった。

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