表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
画家な僕たち  作者: 田月
画家誕生編
2/6

2筆目

 ドラゴンは口を閉じ大きな翼をはためかせ群れに戻っていった。

 命拾いしたと同時に、あんなに間近のドラゴンをビビッてよく観察出来なかったことをもったいなくも感じた。

 その間も案内人の説明は続いていたが、絵を描くこと以外この世界に用がない僕は聞き流すことに決めた。



 案内人「....それでは説明は以上になります。」


 村が見えてきた頃ちょうど説明は終わったようだ。

 道中村に着いたら制作を始める絵の構図を考えていた。

 絵画の文化がこの世界に無くたって関係ない、紙とペンさえ何とか調達出来れば絵は描ける。

 唯一気になる事と言えば....


 渡白「この世界からの帰り方を教えてください」


 案内人は渋い顔をした。


 案内人「先ほど説明致しました通り、元の世界への帰還は非常に難易度が高く....」


 渡白「そうですかわかりました」


 僕は話を途中で遮った。

 どんなに難しい事でも必ずやり遂げられる。

 これは自分自身への信頼などではなく、僕は絵の為ならどんな無理難題でもクリア出来るという自分の絵に対する情熱への信頼だった。


 案内人「納得していただけたようで大変ありがたいです。それでは最後に渡白様、この世界での職業をお決めください」


 渡白「画家でお願いします」


 即決だった。

 これ以外の返答なんてあるはずも無かった。

 今までどれだけバイトをしようが、どれだけ周りから無職だと言われようがそれだけは守り続けてきた。それが画家だけでは生活出来ない僕に、最後の最後に残されたプライドだった。


 案内人「こちらも先ほど説明致しました通り、この世界には娯楽目的の絵画は存在しておりません。それにともない画家という職業も存在しておらず....」


 渡白「それじゃあ職業は無くて結構です。僕は何があろうと画家を名乗り続けます」


 案内人「左様でございますか。では案内は終了となります」


 そう言うと案内人はバリアと共にスーッと消えていった。

 自分でも大人げない対応だとはわかっていた。しかしそこだけはどうしても曲げられなかった。



 そうこうしている内に村に着いた。

 家屋は土壁に茅葺き屋根、村人は言われなければ日本人とは見分けがつかない見た目だ。

 しかし村人同士の会話は少なく、どこか暗い雰囲気だ。

 まあ僕にとっては、紙とペンを手に入れる為だけの場所に過ぎない。

 どんな雰囲気だろうとあまり関係は無い。


 ??「みんな見て!!」


 この村にはとても似つかわしくない明るい声だ。

 視線の先には、長い耳とツンツンした短髪の青年がいた。続いて村人の怒りを含んだ声が響いた。


 男村人「またお前か。今の俺らはてめえのお遊びに付き合う時間なんて無えんだよ。こんなもん何の足しにもなりゃしねえ」


 村人はそう言い終わるのと同時に、紙のような物を地面に叩きつけ、何度も踏みつけ何処かに行った。青年の表情はこちら側からは見えないが、いったいどんな顔をしているのだろうか。

 僕は青年の心配をそこそこにし、この世界の紙を確認しようとさっきまで村人が居た方に歩いて行った。予想通り落ちていたのは、泥まみれになった紙だった。しかし予想通りでは無かったのは....


 渡白「これは絵だ」


 思わず声が出た。拾い上げた瞬間わかった。

 これは軍事用でも教育用でも無い。

 画家が意図を持って描いた絵画だ。


 ??「要りますか?泥だらけですけど」


 顔を上げると先ほどの青年が笑顔で立っていた。

 どこかで見かけたような顔だったがそんな訳も無いし、そんな事はどうでもいい。


 渡白「これは君が?」


 ??「ハイ。オレが描きました。」


 それ以降言葉が出なかった。

 この世界に絵を描く人間がいる事にうれしさを覚えた。それは紛れもない事実だ。

 でもそれより、僕の心の中で大きかったものは....


 渡白「なんでこんな笑ってる()()の絵を..バカじゃ....」


 フッと我に返ってその場を立ち去ろうとした。

 青年は少し曇った笑顔を今だこっちに向けていた。

 僕は急いでいることを悟られないギリギリの早歩きで、村の外れに向かった。



 日が暮れあたりは、村の中心から離れていることもあり真っ暗だった。

 僕は手ごろな廃墟を今日の寝床に決めた。

 頭の中では、日中あの青年に浴びせた言葉がエンドレスで流れてくる。

 しかも様々な声色で再生されるおまけつきだ。

 それもそのはずだ、あの言葉は僕の人生で何百回、何千回と言われてきた。

 学生時代は同級生やコンクールの審査員に、画家になってからは客や同業から。

 僕が一番嫌いな言葉だ....


 渡白「違う。青年(あいつ)の絵は僕よりも全然下手くそで。しかも青年(あいつ)はこんな描きがいあるものがたくさんな世界で。僕は..僕は僕をバカにしてきた奴らとは違う」


 空間に自分の声が微かに反響する。

 誰もいやしないのに、誰かに声を出して小学生みたいな言い訳をしている。

 持ってきてしまった彼の絵を見てみる。何度見てもいい絵だ。

 たしかに技術こそないが、込めたものがしっかり伝わる。

 それに何を描こうが作者の自由だ。

 僕があんな事を言ってしまった理由は僕が一番知っている。

 僕はこの世界に来てから、いやもっと前からだ、絵を金稼ぎの道具にしか見ていなかった。

 こだわりがあるとか自分を誤魔化して、画家として一番大切な見た人の感情を蔑ろにしていた。

 この絵にはちゃんと、みんなに笑顔になってほしいって思いがしっかりこもってる。

 そう、ただ、ただ....


 渡白「ただ悔しかったんだ」


 バサッ


 ??「そうなんですね。よかった~」


 渡白「うわっ、びっくりした。どっから出てきた?てっお前は昼間の...何しに来た、もしかして復讐か?」


 ??「違いますよ。」


 渡白「じゃあ何しに来たんだ?」


 ??「ゴホン、それでは言わせていただきます。誠に勝手ながら弟子にしてください、師匠」


 渡白「はああああっ?」



 渡白「待て待て。整理させてくれ」


 ??「はいっ、師匠」


 渡白「まずその師匠ってやつやめてくれる?」


 ??「はいっ、承知しました。巨匠」


 渡白「最悪だ。悪化した。名前で呼んでくれ名前で」


 ??「はいっ、師しょ....。でもオレ師しょ..の名前まだ伺っておりません」


 それもそうだ。こいつに名乗ってないのを忘れていた。しかもこいつの名前も知らないな。


 渡白「すまん。僕の名前は渡白 広だ。お前の名前は?」


 ??「オレはファンロード・クロです。渡白師匠」


 渡白「だから師匠はやめてくれ。渡白だけでいい。僕はクロって呼ぶから」


 クロ「クロいいっすね。じゃあオレはクロに合わせて白さんにします」


 渡白「まあ師匠と巨匠よりはマシだ。で次はなんでお前は僕に弟子入りしたいんだ?僕はお前の絵をけちょんけちょんに貶したんだぞ」


 クロ「んん~。まあ勘ですね」


 渡白「勘!?」


 こいつまじか。勘だけで僕の所まで来たのか。


 クロ「だからさっき白さんが『悔しかった』って言っててホッとしましたよ。オレの勘は間違ってなかったって。やっぱりあの目は本気で絵に向き合ってる人の目だったんだって」


 クソッ、こいつに聞かれてたのか。ちょっと恥ずかしいな。


 渡白「べっ、別に悔しかったってのはうそ....いやあれは本音だった。昼間はすまなかった」


 クロ「ちょっと頭下げるのはやめてくださいよ。それに絵を描きだしたここ数日で()()は言われ慣れました」


 渡白「僕が言うのもなんだが、言われ慣れるのはやめとけ。僕たちは画家だ。ちゃんと名前がある。」


 クロ「画家いい響きですね。じゃあこれから色々教えてください」


 渡白「いやまだ教えると....」


 リンリンリンリンリンリン


 村の中心からだ。村人が騒いでいる声も聞こえる。


 男村人「急げ急げ。魔王軍が来たぞ。迎え撃て」


 女村人「大丈夫よ。大丈夫よ。泣かないでいいのよ」


 子供の泣き声に、村人が声を張り上げて指揮をしている声。ただ事ではないようだ。


 渡白「なんだ。なんだ。あれは?」


 クロ「白さん。説明は後です。急ぎますよ」


 渡白「えっ、どこに?」


 クロ「村の方ですよ」


 僕はクロに手を引っ張られながら、案内人の説明をもうちょっとしっかり聞いとくんだったと後悔した。

 僕はこの世界でただ絵を描いてるだけではいられないらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ