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画家な僕たち  作者: 田月
画家誕生編
1/6

1筆目

 ??「絵画の歴史は、古くは壁画に始まり、今も多種多様な広がりを見せ続けている。特にルネサンス時代には....」


 この冗長な話を僕は何回聞いたことだろう。

 先人に学ぶのはいいがそれを客から聞くのは変な話だ。

 それに説教がなければ今頃僕は家に帰って絵を描けていたのに…とどうしても思ってしまう。


 ??「....特に、あの時代の絵画に私は惹かれてね。分かったかね渡白(わたしろ)クン?」


 渡白「..ハッ、ハイ」


 急に話を振られ、反応が遅れてしまった。


 ??「キミの絵には独創性が足りないよ。肖像画何百枚も描いて、しかもどれも同じような表情を。まあ、飽きもせずにキミもよくやるよね」


 渡白「.…」


 何も言い返せなかった。言い返せるわけもない。

 今回の絵にだって込めた思いがあった、僕なりのこだわりもあった。あったはずだ。

 でも、この世界では絵を売れてなんぼだ。

 もちろん死後評価される画家もたくさんいるが、彼らと僕が同じ才を持っているなど口が裂けても言う気はない。


 まあいい、帰りにキャンバスパネルと絵の具を買い足そう。

 残った金で、コンビニで飯を買おう。3日ぶりの食事には何を選ぼうか。


 ??「今後に期待と言うことでね、今回のこの絵は2()0()0()()で買わせてもらおう」


 渡白「2()0()0()()!?!?!?」




 店員「ありがとうございました」


 帰り道、結局食欲には勝てずなけなしの200円で、売れ残りのおにぎりを買った。

 はあ、この後どうしよう。


 僕は 渡白(わたしろ)(ひろ) 画家の卵の22歳。

 唯一のお得意様を無くし、次の絵のキャンバス代すら稼げないダメ画家だ。

 こんな僕にも最初は夢があった。絵を描くのは昔から好きだった。みんなが笑ってくれたから。

 だからもっと笑ってほしくて笑顔の人の絵を描き続けた。

 でも限界かも知れない、次はお得意様に好かれそうな絵を、金の為の絵を描こう。

 まあ、あのお得意様との次はないだろうが....



 ふと目を開けると、なんだかふわふわした心地の良い空間にいた。

 すぐにこれは夢だと気付いた。

 いつの間にか寝てしまったのだろう。

 そしてあれは誰だろう。

 前に見える人影は、両親とも友人とも違っている。

 こういう時は、関係が深い人物が現れるのが相場だろうに全く知らない人が夢に現れているのだ。

 僕はその人の顔を見ようと近づいていった。夢だと分かってはいたが思わず


 渡白「すみません」


 と言いながら肩をたたいた。


 チュン、チュン、チュン


 朝になり目が覚めた。

 僕は、何をするより早く絵を描ける紙を探した。

 ノートの切れ端でも、チラシの裏紙でも何でもよかった。

 やっと見つけた画用紙に、僕は絵を描き始めた。一心不乱に描き続けた。

 何度日が昇り、日が暮れただろう。

 食欲など、僕にはなっから無かったように空腹は何処かへ行っていた。 

 あの笑顔を見た瞬間おそらく僕もつられて笑っていただろう。

 間違いなく、今まで見た中で一番の輝かしい笑顔だった。

 画用紙には、今まででとびっきりの出来の絵が完成していた。

 ただ夢の中の誰かの、溢れんばかりの()()には到底叶わなかった。

 それでもこの絵は、あの常連もコンビニの店員も、誰だって認めてくれるだろう。

 達成感で身体中の力が抜けていった。

 高揚の中僕は、もう一度あの夢を見れるかもしれないという。期待と共に深い眠りに落ちていった。



 ??「渡白様、渡白様、目を覚ましてください」


 誰かが呼んでいる。誰だろう。聞き覚えのない声だ。僕はまたあの夢に来られたのだろうか。


 渡白「誰ですか、あなた?」


 ??「私は、この世界の案内人を任されている者です。渡白様は、貴方が元いた世界とは全く違う世界、つまりは異世界に転生するのです。この世界は、魔王に支配され....」


 どうやら今日は違う夢らしい。

 つい何日か前に長話を聞いたばかりだ。

 夢の中でまで聞くのなんて御免だ。

 眠りから覚めたら、あの絵を売りに行こう。画用紙に描いたとは言えあの絵は高く売れるだろう。


 案内人「渡白様起きてください。貴方は、元の世界には戻れませんよ。貴方はもう、元の世界では死んでいるのですから」


 その言葉に僕は目を開いた。


 渡白「僕が死んだだって?何を言ってるんです?じゃあ、死因でも言ってみてくださいよ」


 なんともリアルな質感のある夢だ。

 夢の中でここまでハッキリ会話が出来たことなんてない。

 もちろん信じる気なんて毛頭無かったが会話を続けることにした。


 案内人「ハイ、渡白様の死因は餓死となっています。正確に申しますと空腹に気が付かなかったことによる餓死です」


 やはり彼女はウソをついている。


 渡白「僕はコンビニでおにぎりを買ったんだ。おにぎり片手に腹が減ったことに気づかない奴がどこにいるんだよ」


 案内人「私共としても、見たことのない死因です。お気の毒でございます」


 腹が減るとこんな夢を見るようになるんだなと感心した。


 案内人「もうすぐ景色が見えてきますよ」


 辺りが電磁嵐の様になり思わず目を瞑った。



 ギャオー、ザザザザ、ガルル


 案内人「目をお開けください。転生に成功しました」


 目を開けた僕は、さっきまでの案内人の説明を信じるしか無かった。

 山の上を群れになって飛ぶドラゴンに、野原を跳ね回る一角のウサギに、三つ首の犬。

 僕にはこんなに現実離れしたものをこんなに正確に思い描くことは出来ない。

 何年も絵を描いてきた自分が一番よくわかっていた。


 渡白「僕は本当に転生したのか。元の世界に戻る事はできないのですか!?」


 案内人「はい。残った御家族や御友人など気掛かりな事は多いと思いますが、簡単には戻る事は出来ません」


 渡白「そんな事はどうでも良いんです。そんな事は…」


 僕は酷く絶望した、眼前の信じられない景色を描いた絵を、元の世界に持っていけない事に。

 こんな景色の絵なんて誰も描けない。

 過去の天才達の誰にだって描けない。

 そんな絵を描ければ金に困ることなんて一生ない。誰にもバカにされない。


 とにかく今は絵を描きたい。この世界には描きたいものが溢れている。


 渡白「この世界では、どうやって絵を描くんですか?油絵?それとも水彩画?どんなものでもいいので画材を持ってきてください。とにかく絵を描かなきゃ」


 今、今描かなければあのドラゴンが飛び去ってしまうかもしれない。


 案内人「絵でございますか?この世界では、絵は教育や軍事などのみに用いられます。現状絵を描く必要は無いと思われますが?」


 僕は、本日2度目の酷い絶望に叩き落とされ。

 こんな残酷なことがあるだろうか。

 この世界には、芸術としての絵が存在していないのだ。ジェネレーションギャップならぬ異世界ギャップで頭がおかしくなりそうだ。


 案内人「ここでは、渡白様すぐに死んでしまうので近くの村までお連れします。道中でこの世界における基本事項をお伝えしていきます」


 案内人の話を半分に、僕はドラゴンを少しでも正確に記憶しようと空を見上げ観察した。

 すると一匹のドラゴンがこちらに旋回し、瞬間目が合ったかと思うと


 渡白「う、うわぁぁぁ。ドラゴンが」


 口を開けたドラゴンがこっちをめがけて突っ込んで来る。


 案内人「大丈夫ですよ。現在私と渡白様の周囲にバリアを張っております。ドラゴンでさえこれ破る事は出来ません」


 口を開けたままのドラゴンが僕たちを噛み砕こうとするが、バリアとやらがそれを阻んでいるらしい。僕はものの数秒で、ドラゴンの歯生え方とこの世界の危険性を同時に学んだ。

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