第82話 家康の悩み
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1573年8月31日 20:00
三河国・岡崎城
徳川家康
「またか・・・目撃者への対応はどうなっておる。」
酒井忠次
「はい。その場に居合わせた家臣団が機転を効かし若から弓を取り上げた大岡弥四郎が、既に事切れるている農民に矢を射かけ、一向衆の残党だと大声で触れ回ったそうです。」
「三河一向一揆の残党か・・・幕府への言い訳にはちと苦しいが、天下統一を成された今、敵国の間者などと言う事も出来ぬ。で、あの馬鹿はいまどうしてる?」
「はい興奮冷めやらぬゆえ服部半蔵と手の者達により、地下牢にて眠らせております。」
「ああそれで良い。争乱状態で騒がれると、幕府の警護部隊に嗅ぎ付けられる恐れがある。」
「しかし人の口に戸は立てられませぬ。目撃者が数人でしたら口封じも可能ですが今回は盆踊りの場。
数百人以上おったうえに、三河衆以外の旅人や尾張の商人なども見物していたと聞いております・・・」
「尾張商人等に手を出したら即刻潰される・・・」
「はい織田幕府は商人や旅人などの行き先から、入出国管理に至るまで徹底しております。
遠江から出て三河に入る時点で記録は成されておるでしょう。
何時までも尾張に入らなければ直ぐに、幕府の警護APC9部隊の改め要請が出る事でしょう。」
「今回の犠牲者は何人だ?」
「男1人女1人の2人が死に、男の童2人が腕と足に矢が突き刺さる大怪我にて。。。」
「見舞金はたっぷり出せ。幕府の耳に入れば信康の廃嫡程度で済めば良いが、下手をすれば切腹、いや斬首や磔もあり得る。
何より儂の管理を問われるだろう。大日本皇国で完全に1国独立を許されてるのは三河のみ。その土台を揺らすには持って来いの大義名分だ・・・」
その時1人の小姓から最悪の報せがもたらされた。
「申し上げます。織田幕府諜報大臣・織田信時・中納言様の先触れが参り、三河領内にて今宵1泊の宿泊地を求めております。
総勢3千人ですが夜営用宿舎を持参しておる故、乙川河川敷で構わぬとの事。」
家康
「何だと!!"諜報中納言"だと!」
酒井
「殿!」小姓の手前、首を横に振りながら
「中納言様のご到着は?」
小姓
「四半刻(30分)後に挨拶に参られると。」
酒井
「分かった、無礼なきよう直ぐに客間へ通すのだ。行け!」
「はっ!」
再び家康と2人きりになり
「殿。まさかとは思いますが、その尾張商人の1団が幕府隠密だった場合、既に露見しておるかと・・・」
「それよ忠次、考えてもみろ尾張は目と鼻の先だ。それを矢作川も超えずわざわざ乙川河川敷で夜営などと、、、
見え透いた事をほざいておるが威圧しておるに違いない。」
廊下の外から
「半蔵ですが宜しいでしょうか?」
家康
「入れ!呼ぼうと思っておったとこだ!」
酒井
「乙川を見てきたのか?」
服部半蔵
「はい。3千と申しておりましたが、軽く5千は居ります。警備厳しく夜営宿舎に忍び込むのは不可能。
既に宿舎内にも多数の兵士がうごめいておる様子。総員7千近いのではないかと。
そのうえ例の新型アパッチも10機が降りたち、20機が上空を旋回中。」
家康
「7千だと!!アパッチも30機とは!仕掛けられたら一瞬で、この城と岡崎城下は火の海ではないか!」
酒井
「新型は無音で飛び回りカラクリは分かりませぬが、姿を消すことも可能だとか(汗)」
「半蔵、直ぐに信康を護送用の罪人籠に入れ、控えの間で待機しておれ。両手足に縄を打ち猿轡を忘れるな。」
「はっ!」
「忠次、重臣を集めろ。緊急だ!場内におる者と門前に屋敷を構えてる者だけでよい!」
「直ちに!」
家康
『此度だけは言い逃れは出来ぬぞ・・・あの気性の激しさに乱暴な振る舞い。
家臣が苦慮しておると何度耳に入ったか。その度に注意しても素行の悪さは改まらぬばかりか、最近は儂の言う事にまで不平不満を隠そうともせぬ。
そろそろ限界かも知れぬ、奴では家臣が付いてこない。潰される前に廃嫡するしか無いか?』
*****
織田信時・織田幕府情報諜報大臣・中納言
「急な夜間訪問にもかかわらず三河様、御自らのお出迎え恐縮しております。」
家康に勧められた上座の席を固辞し、丁寧に頭を下げる信時中納言。
家康
「とんでも御座いませぬ。幕府の御役目にて、全国飛び回っていると聞いておりますぞ。
只今、膳の支度をさせております故、どうぞ今宵は岡崎にて御ゆるりとお過ごし下さりませ。」
「忝ない。ですが某、夜営の地を御借りする挨拶に伺ったまで。夕餉はとうに済ませております故、どうぞお構い無く。
それと皇帝閣下よりこれを三河様へとお預かりしております。」
護衛の者に合図をし、マジックリュックから何やら取り出す信時。
家康
「これは!!!?」
「皇帝閣下秘蔵の名刀、へし切長谷部に御座ります。周りを織田直轄地に囲まれ、色々と苦労もおありでは?との気遣いで御座いましょう。
刀剣収集家の皇帝様が秘蔵品を贈答する等あり得ぬこと。それだけ三河様を盟友と思っている証拠で御座いましょう。」
家康の小姓にへし切長谷部を預けた信時。それを受け取り「失礼致します。」と一言断り、名刀の抜き身を目の当たりにし
「何という美しい波紋だ。素晴らしい。。。これを本当に頂けるのでしょうや?夢のように御座る。」
先程までの懸念事項を忘れ、ウットリと夢心地の家康を現実に引き戻す織田信時・中納言
「さて無事、へし切長谷部も手渡したゆえ夜営宿舎に戻りましょう。」
その場を後にしようと、そそくさと立ち上がりながら
「おおそうじゃ!姪の五徳は壮健ですかな?どうせなら一目だけお会い致し兄上、否、皇帝閣下に元気でしたとお伝えしたいのだが?」
一同
「「「・・・(汗)(汗)(汗)」」」
石川数正
「大変申し訳御座いませぬが姫君は毎晩、日没と同時にお休みになられます。今宵も然りかと。」
「左様ですか、それはそうですな。嫁いだとはいえまだ14の小娘。21:00前なら真夜中でしょう、致し方ない。またの機会としますか。」
一同
「「「ホッ。。。」」」
「おおならば、嫡男信康殿は居られますかな?石川殿は信康殿の後見人。
義理叔父が挨拶に来たと言うて是非会わせては貰えませぬか?」
その場がピーンと張り詰めた空気に支配された。さすがの家康も、へし切長谷部を眺めている場合では無くなる。
石川
「・・・・・・・」
「ん?どうされた後見人殿?今年元服を終えた若武者姿を一目見たいだけなのだが?
それとも何か!織田幕府大臣を勤める中納言ごときでは役不足、会わせられぬとでも申すか!!」
大汗を流し沈黙している石川数正にかわり家康が
「役不足などと滅相も御座いませぬ中納言殿。その~父親である某からは誠に言い難いのですが、あの2人には元服も済ませたゆえ早く子を作れと申しておりましてな・・・察して下され・・(汗)」
「ああ~そうで御座いましたか。これはとんでもない失礼を申しました。
石川殿、某の不躾な物言いどうかお許し下されませ。」
「許す等と、とんでもない事に御座います。どうかお気になさらずに・・(汗)」
「いやいやそれでは某の面目がたちませぬ。そうだ!」
マジックリュックから何やら書物を取り出し、数正の前に置く。
「石川殿ならもう原本を読んだかも知れぬが、孫子13篇を和訳した物でござる。
幕府の諜報大臣などやっておるゆえ、特に用間篇・間諜に関する重要性は勉強になっておる。
和訳だと何と言うかこう、すっと入ってくる気がしましてな、どうぞお納め下され。」
孫子13篇しかも和訳となるとこの時代、正に国宝級の代物。
それを惜し気もなく目の前に置かれ、何をどうすれば良いか分からなくなっている石川数正。
「あっ!いやその・・うむむ・・」
「先程の皇帝閣下からのへし切長谷部は三河様への贈り物。正に大日本皇国から三河国への贈呈品。
これは織田信時個人から石川数正個人への御詫びの品。誰憚ること無く受け取って貰いたい。
まあ某の謝罪を受けないという事であれば、致し方無いが・・・」
家康
「数正!中納言殿からの御詫びの品だ。快く謝罪を受け取るのじゃ!」
「はっ・・・この様な高価な品を頂くのは誠に恐ろしい事なのですが、我が家代々の家宝と致しまする。」
「そうか謝罪を受けてくれるか、ありがたい。では長々と失礼した。夜営宿舎へ戻るといたそう。
徳川家の皆様、御家の末永い繁栄を願っております。大日本皇国民や"三河国の民"が、いたずらに命を奪われる事なく、穏やかに暮らせるよう共に励んで参りましょう。」
一同
「「「はっ!(汗)(汗)(汗)」」」
「ああそうだ、三河様。
近々に皇帝閣下が尾張屋敷に赴くゆえ、その時は岡崎にも立ち寄るでしょう。
五徳は夜早いので朝の内に訪れる様伝えておきます。」
「・・・近々とは?いつ頃でしょうや・・・」
「さあ~御存じの様にあの気性ですからなあ。4,5日後か?まさかの明朝とか?分かりません。」
「明朝って・・・・・」
「では五徳にくれぐれも宜しく。」
去って行く織田信時・中納言の背中を、呆然と見つめる事しか出来ない徳川主従であった。
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第六天魔王がやって来る(大汗)
また明日。