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生活安全局妖二課  作者: 真中祢緒。
第一章 始
5/8


仕事終わりの一杯


飲み会の一番初め


それが何故ビールなのだろうとよくドラマや漫画を読んでて思ったものだ


実際見たことはないからフィクションかなと思ってたけどそれは本当で


だがしかし




「うぇぇ…苦い…」


「なんや自分ビール苦手なん?」




並々と注がれた金色の液体を少し傾けお決まりの泡を鼻下につけて一結は苦い顔をしてジョッキをテーブルに置いた。嫌々ながら付けられた"私が主役"のたすきは明らかに浮いており今すぐにでも外したいがそれよりも気になるものが目の前にあるからそちらを優先する




「(この人、ここの店員?だよね…普通にサラダ食べてる…)」



もしゃもしゃと取り分けられたサラダの一つを当たり前のように食べて宛てがわれたビールをぐびぐび飲みながら先程知り合ったばかりのせやが一結を見て言う



「料理も冷めてまうし食っとけや」


「いや、サラダは冷めないですよ…ていうかなんで食べて…」


「サラダも情熱込めて作っとんねん!冷めたらあかんやろ!」


「やっぱ店員なんだよね!なんで一緒になって食べてんすか!?」


「え?だって今日パーティやろ?貸切で他にもこおへんし」


「ここは僕らの行きつけのお店でね。新歓迎会とか忘年会とかは毎回貸切で皆で楽しむんだよ」


ジョッキ片手に綾戸がそう言って何故かせやとハイタッチをする。毎回と言うだけあって仲がいいのだろうなと思い辺りを見回す


「おい酉ぃ!前の飲み比べ勝負決着つけよぉや!」


「嫌ですよ、どうせうぇるさんが負けるんだから。そうしたら後片付け誰がやるんですか」


「逃げる気か!?負けを認めるか!」


「あーはいはいそれでいいですーわあーお肉美味しいなぁ」


「お!そやろ!せやと考えた新作や!」


「ハニーマスタードがいいアクセントになってるね。僕も好きだよ」


「はい!紫江さんにお墨付きいただきました!!商品化しまァす!!」



うぇると駿ケ崎は飲み仲間なのかただの絡み酒なのか分からないがそこそこに盛り上がっている。よくみたら駿ケ崎のビールはほとんど減っておらずそのすぐ隣にはウーロン茶らしきものが。うぇるが見てない間にうぇるのジョッキにビールを入れてる様子からして下戸なのだろうと一結は認識した



「さ!主役もちゃんと俺らが作った飯食べてな!マジで美味いから」



ずいっと差し出されたのはぷりぷりの厚焼き玉子。出汁と葱の香りが食欲をそそる。



「肉バルなのに和食っぽいものもあるんだね」


「ここは美味いものは何でも作るぜ!リクエストもらえばそっこーまさに5Gで!」


「5G??あ、提供が早いってこと?」


「ひゅー!理解度5Gいぇーい!!」


「(ノリについてけん!)」




両手を上げて全身で楽しいと表現するせや

うぇるも完全に酔っ払ってる様子だが輪に混じってあまり違和感のない様子に普段から交流があるのだなと一結は理解する。その賑やかさがと買いに来てようやく出逢えた団欒に少し安心感を抱いてしまう




「(実家では家族みんな揃っていつも食事してたっけ。たまに親戚も集まるから大所帯で…懐かしいな)」



並べられた料理もどれを食べてもおいしくて笑い声を聞きながら楽しんでいるとふと、目の端に何か動く気配を感じて背後を振り返る




「(あれ…)」



厨房の方

せやとうぇる以外にいるとは思わなかったが、そこから出てくる人影


俯いてるがツインテールで小柄なそれは女の子とすぐ分かりその子はふらりと体をふらつかせるとその場にうずくまってしまった。明らかに体調が悪そうで一結は素早く立ち上がってそちらに向かった



「大丈夫ですか…?」



追加の料理だろうトレーの上に置かれたそれを運ぼうとしたのか小柄な女の子が一人。恐らくはアルバイトか何かだろうその子。少し震えてる様子が見えて一結はその場にしゃがみこんで肩に触れる。伝わる熱はそこまで熱いものではないなと思いながらそれでもどこか悪いのかと優しく声をかけた



「熱はないようだけどどこか辛いところある?……君」


「……」



髪で上手く表情が見えないが、何かを呟いているようで一結はそっと耳を寄せてその声を聞こうとした





「……舐め、たい…」


「え?」




聞き間違いかと思ったその言葉、驚き固まった途端にがしりと肩を掴まれる



「(え、力強……!?)」



華奢なその見た目のどこにそんな力があるのだろうかと思うほどにギチギチと骨が軋みそうになる圧力

離してもらおうと腕を掴むもビクともしなくてそうして少し立ち上がった女の子の顔がようやく見えた





「……!」



瞳孔は開ききっており口も端から端が異様に開いていて、除く歯列はそこまで不自然ではない

だが、そこから出ている舌が有り得ないくらいに長く女の子の体を何周にも回っていた。至る所から涎が流れていてすぐにそれがまず一結の口元を覆った。ヌメヌメとした感触が気持ち悪いが声を上げることができなくなりそのまま少し厨房の奥に引きづりこまれそのまま体を拘束された




「(やばいやばいやばい…!)」



こんな場所しかもすぐ近くに曽良達がいるここで妖に出会うわけないと完全に油断していた。まだ余裕があるのか舌はゆらりと蠢いてその先を蛇のように揺らしてと頬を一舐めしてきた。ざりざりと肌を削るような音がした




「あぁ…おいしい…おいしい……舐め、もっと…舐め」


「……!」




___昔の文献にあるのだと"嘗女"が該当するかな。その名の通り嘗め回す奇癖のある妖。これは気に入った男の体を舐め回す。今回の被害も全員が男だから妖の仕業だとこれが濃厚だね。特徴としては……






したが猫の舌のようにざらざらした感触がすることから猫娘とも呼ばれてるよ














「(こいつだ…!)」




舌先がざらついていて僅かな痛みを感じつつ一結はじたばたともがいて舌から逃れようとする。しかしそれをさせまいとゆっくりと巻きついた舌は圧力をかけてきて掴む腕も見た目に反して強いく振りほどけない。何が美味しいのか満足そうに舐め続けるオンナは目を細め気持ち良さそうで、僅かに除く歯列が最悪の事態を想定して一結は顔を青ざめさせた



口が塞がれてるから声も出せない


すぐそばに仲間がいるのに助けを呼べない現状に


恐怖を感じた





「(もしかしてこのまま…し……)」





最悪を想像してどくりと心臓が嫌な音を立てた


人と妖は共存ができると知ったばかりなのに


共存はおろか死を連想させられてしまった


そして一結は思い出した


綾戸が車椅子姿なのを


あれは、妖にやられたのではなかったか…































「何をしている、痴れ者が」
















リン…と鈴の音が聞こえた気がした


一気に場が清らかさに包まれその次の瞬間には風が吹き荒んだように圧力がかかり、全身を拘束していた何もかもがなくなった





「誰のものに手を出してるのか、気付かぬとはの。貴様は鼻が効かんのか?」


「……」




ふわりと重力がないかのように目の前に降り立つは淡い金色の髪をもった少女だった

巫女装束のような服に綿毛のような金の尻尾が九つ。真っ直ぐこちらを見つめる瞳は澄んだ水のように綺麗だった



一結には初めて会うそれが何なのかはっきりとは分からなかった


なぜ助けてくれたのかどこから来たのかその何もかもが分からなかったのだが



「……ウィ、ル…?」




自然と口をついてでたその単語

いつも口にしていた相棒のような腐れ縁のようなその名前を紡いで




「……なんじゃ、一結。妾を呼んだか」




当たり前のように少し嬉しそうにそう答える目の前の天女のようなその人から目が離せなかった


一結の後ろで縮こまり土下座をするような嘗女の姿なんて全く見えてなくて、世界が目の前の存在と自分以外いなくなったような錯覚に陥ってしばらく





「!なんだぁ!!九尾じゃんかぁ!!!ひっさしぶりだなぁ!!」




吸い込まれそうになった矢先に、横から聞こえてきた間の抜けたようなその声で夢現から覚めたようにハッとして、ようやく周りに目を向けた。声の主であるせやは楽しそうな片手を上げて旧友を懐かし様に歩み寄ってきて、その後ろにいた駿ケ崎や曽良はしっかりと臨戦態勢を取っているのを見てようやく今がピンチなのではないかと思い至った





「……相変わらず馴れ馴れしいの、座敷童子。ここは貴様の家ではなかろうに」


「いやいや、ここは俺ん家よ。大事な所なの。だからさ暴れないでもらっていいか?頼むよ」


「そこの醜女が手を出す相手を間違えたのじゃ、このまま許しとでも思っておるのか?」


「……やはり、九尾の狐だったか」


「ていうか、なんでこんな所に嘗女いるんですか、うぇる」


「えぇー確か今慣らし中で社会勉強って事でバイトに来てもらってたんだよねー、でもまだこっちの味に慣れなくて食欲落ちててさ」


「それで飢餓状態で暴走してたって事ですね…こっちに報告漏れてるってことは」



うぇるの話に綾戸はやれやれと手で頭を抑えた。呆れた様子を見せる姿が一結にも見えたがぐいっと腕を引かれたと思えばすぐにふわりとあたたかな金色に包まれてすぐ後ろで何かが床に刺さる音が聞こえた





「いやぁまさかこんな事になるなんてねー。申し訳ない」



「…え、誰」



背後から聞こえてきた第三者の声

唐突に聞こえたその声は優しそうでそれでいてどこか力強さを感じさせる男の声



「ごめんねー、まさかこんな所で出会すとは思ってなかったからさ。油断したよ。怪我ない?」


「……お前か」




男は厨房に蹲っている嘗女に手を差し伸べる。一結がさっき見た瞳孔が開ききった鋭い瞳とは違い華奢な見た目に違わぬ丸い瞳を涙で潤ませ男に泣いてすがりついていた。さっきまでのおどろおどろしさは全くなくて夢だったのかと思わせる程にどこにでもいそうな普通の女の子に見えた




「あ、ごめ…」


「一結は謝らなくてよい。あの醜女は妖じゃ。我を忘れてお前を食おうとした愚か者よ」


「食お……っていうかお前…!?」


ふわりと頬を撫でる金色の尾。九つあるそれを自在に操り一結を支えながら当然のようにそばにいる見たことないその姿に一結は焦り離れようともがくもビクともしない。その抵抗も楽しいというように優雅に口元を抑えコロコロ笑う姿は美しく思わず見惚れそうになるが横から近づいてくる気配に同時にそちらに目を向ける




「九尾の狐、妖玉藻前とお見受けするが間違いはないか」


「曽良さ…」



凛とした佇まいで全く隙のない曽良は真っ直ぐにウィルを見つめてそう言った。"九尾の狐"それは妖知識に詳しくない一結でも名前くらいは聞いたことのある有名な名前だった



「わざわざ確認せずとも貴様らは気づいておったろう?容認しておったのではないのか?」


「!?」



口元を抑えて話すその姿はどこか神々しく、その話口調は少し高飛車にも感じ上から目線のようにも聞こえるが、曽良はそれらに動じる様子も気を害した様子もなくただ静かに、向き合い再び口を開いた




「確信はなかった。それにあなたは一結に危害を加える様子もなかったから様子を見ていた」


「一結に危害?そんなことするわけなかろう」


「そうだな、あなたは一結を守っているように見える。あなたの加護のおかげで九字切りも意味を成していない」


「ふん、陰陽師の作った結界など当てにならん。そんなもの不要じゃ…妾を置いていくからこんな痴れ者に食われそうになるのじゃ!汚らわしい…一結を舐めるなど……万死に値する…!」


「随分飼い犬番犬度が上がったようで玉藻ちゃん…でも今回ばかりは許してもらいたいんだよねぇ悪気があった訳じゃないんだよ」



一結の理解の追いつかない速度で話がどんどん進んでいく。玉藻前と曽良の間に第三者が割って入った。それは、嘗女を庇うように現れた白髪の男。長い髪は後ろでひとつに結われ、今どき珍しい和装姿のその男




「一応今観察期間中で座敷童子も言ったように慣らし中なんだよ。うちの子はさぁ」


「うぅ…ごめん、なさい…!」





男に抱きつき泣きながら謝罪をする嘗女

その必死な謝罪に嘘はないだろうなと一結は直感で思い泣かせてることにつきりと胸が痛んだ























「まぁ一先ず落ち着いてって事で!」



酔いが覚めきってないだろう頬の赤いうぇるが恐れ知らずで三つ巴のような状況の真ん中に割入ってあれよあれよという間に全員を一旦席に座らせた



今日は貸切のため他に無関係の人間は入ってこれないからと椅子をかきあつめて全員和になるように座らせる



「まぁ多分俺らも関わってるし誰かが進行しないと揉めかねないから家を守るためにも座敷童子であるせやが進行役をつとめさせていただきます!」


「よっ!せやかっこいい!!」


「うぇる、ちょっと黙れ」



ひゅーひゅーと鳴らぬ口笛を鳴らすうぇるを駿ケ崎が窘める様子を眺め一結は改めてぐるりと辺りを見回した


うぇるを隣に座らせる駿ケ崎とその横に綾人、紫江、曽良


少し空けて今回の中心人物であろう嘗女

その隣彼女を守るように肩を抱く和装の男


その隣に進行役と名乗り出たせや


そして皆から一番離れた所に一結と一結を離すまいと抱きついてくる美少女

九尾の狐玉藻前、一結から言わせれば飼い犬のウィル、だ





「(曽良さんたちは気づいてたって…言ってたっけ…)」



「じゃあ順を追って説明していくからまずはあんずちゃんと凪の事だね」


せやの言葉で全員の視線がそちらに向く。それに怯えて嘗女が俯くがそれを男は服の袖で隠して話し始める



「まずは自己紹介からね。俺は凪一郎。ちゃんと永章持ってる妖だ。一結だっけ?は知らないだろうから一応な」


「あ、はい」


「あ、永章とかの話は習ってんね。よかった。話が早い。んでこっちが嘗女のあんず。こっちはまだ申請中で人間社会に慣らすためにここで研修中だったんだけど…交番に報告するの忘れててさ」



てへへと恥ずかしそうにはにかみ笑いをするがそれに絆される人はここには誰もおらず


「ですねー、こうなるまで全く知らなかったので今とても驚いてます」


「綾戸さんっそのブリザードやめて…!怖いからさっ」


「被害報告も数件出てるんですよねー。事前にちゃんと報告してくれれば事前に対応もできたのに…」


「凪さんそういう所ありますよね、かわいそうに…」


「酉くん…追い討ち。言葉の刃で刺すのやめて?」



呆れた様に駿ケ崎も言葉を続け凪は痛たたと胸を抑えて縮こまる。その様子に怯えていたあんずは反対にナギを心配しておろおろとしており、その2人の関係性が悪いものでは無い事を一結は感じ取った



「まぁ報告漏れはあったみたいだけどうちは役所からの許可証はもらってたから預かってたわけ。今日は確認も兼ねてうち来たのかと思ってたんだよねー?曽良くん乾杯前に厨房出会わなかった?」


「会ってないな」


「…すみせん、びっくりして隠れちゃって……男の人の匂いを嗅いで興奮しちゃって…気づいたら…」


「すみませんで済むなら警察はいらんのじゃ…」


「まぁまぁ玉藻ちゃん。わざとじゃないんだよ。同郷のよしみで許してよ」


「馴れ馴れしく呼ぶな。それに何が同郷じゃ…そんな交じり物同じにされたくないの」


「えぇひどいなあ……俺は昔の事も覚えてるよ」


「……ふん、妾は忘れたわ」



どこか関わりのありそうな2人だが一結には知られたくないのか九つの尾がふるふると揺れる。それが一結の顔をペシペシと撫でて集中を削ごうとするので慌ててそれらを掴んで顔から離れさせる



「じゃあ最後はこっちね、まぁ見ればわかるけど日本三大妖とかにも名を連ねるけっこー存在感ある九尾の狐、玉藻前ちゃん」


「今はウィルじゃ。三大なんちゃらも興味はない」


「じゃあ何にならあるのかな?」



凪の態とらしい言い方に舌打ちを零す

しかし、隠しても意味もないことだろうとウィルはぐいっと尾で一結を持ち上げた



「俵の者は妾九尾のものじゃ。誰にも渡さん。人だろうがあやかしだろうが勝手に手を出すものは皆妾が食らう」


「ちょっ……ウィル!」


「玉藻ちゃんはそう言ってるけどじゃあ"本日の主役"は?」


「へ?」




ほいと、マイクを向けられるように見られ皆の視線が一気に一結に向かった

突然妖達の真ん中に投げ出された気分になった


一結自身、どうと言われても理解が追いついていないのだ


そもそもウィルが妖だったこともそれが九尾の狐だったことも今知ったこと


そして守られてるだなんて感じたことすらなかったのだ


皆の視線が痛い


処刑台の上に立たされてるような居心地の悪さに申し訳なさに俯くとふらりと頬を金色の尾が撫でていった



「ウィル……」


「一結を爪弾きにしようものなら皆この場で食ろうてやるわ」


「ウィル!?」


「そう威嚇せずともそんな気はない。私達はあなたの真意を知りたい。何故三大妖と謳われるあなたが子供一人に固執してるのかを」


「子供一人……のぉ」




曽良の言葉にちらりと一結を見てから考える素振りを見せる。何かを隠してるのは明らかだと曽良達が思った矢先





「それはあれだよ。米を守ってるんだよねー」


「え?」


「貴様!!」




悪びれなくどこから取りだしたのか扇子で口元を隠しそう話す凪に一結を始め他の面々は思わずと開いた口が塞がらない


ただ玉藻前だけが憤慨した様子で凪を睨みつけていた



「玉藻ちゃんご愛用の神米は狐界じゃ有名だよー。妖LINEとかあったらもっと広まってるかもね。妖界は何百年経ってもアナログだから」


「アナログと言うより繋がりが希薄だもんねー。それは俺も初耳何それ何それー」


「えーどうしよっかなー」


「ここで出し渋るとは狐に化かされた気分になっちゃうよー。それは二課の面子に関わるし、話そっか」


「綾戸さん圧怖いって!神米は文字通り米だよお米!」


「米……ってうちで作ってる?」




俵家は米農家だ

広大な永平寺の一角を持ち、そこで俵家オリジナルの米を作っている

少しほかと違うのが俵家の米は一般市場に出回っていないことだ




「俵の家の米はただの米じゃない。神に捧げるための御神酒と同じ。神喜米(みきまい)と呼ばれてる」


神喜米(みきまい)……」


一結も初耳と言った様子を曽良は横目で見つつ九尾の狐に目を向ける。知られたくなかったのか少し複雑そうな顔をしているが凪の言ってることに偽りはなさそうに見える



「狐は稲荷とも言われるでしょ?稲荷は稲を象徴する穀霊神であり農耕神。有名なのは五穀を司る御食津神(ウカノミタマ)とか?元は神で狐は化身みたいなものだけど人によって神格化されたんだよね」


「ふん、神など妾は知らぬわ」


「ま、そこら辺は狐界も色々あるから。俺らは野狐から力を勝ち取ってった側だからねー。でも米は好きよ。中でも神喜米(みきまい)は別格」


凪は今回の騒動、東京に九尾の狐が来ているからというのを察知してわざと起こしたものなのだとあっけらかんと話した。それには曽良もやれやれと呆れ顔を示しせやとうぇるは可笑しそうに腹を抱えて笑った



「いや、ほんま凪くん突飛な行動ばっかでばかおもろいんやけど!」


「天才!発想の転換が5G!」


「いや、それ程でも」



凪の思いとしては、健全に早期に人間社会に妖を馴染ませるために神喜米(みきまい)を貰いたいがために一騒動起こしたのだと言う



神喜米(みきまい)は別格と言ったように、妖にとって強い加護を与えてくれるもの。人の手で愛情込めて作られたそれは、妖の本来の性質を打ち消してくれる浄化作用があるんだよ」


妖は本来、人の恐怖や恐れといったマイナスの感情から生まれるもの

その思いが具現化されその思いに準じた行動をとることが一般的だ。だから、人を脅かし怖がらせ人と相容れないものであった



「でも時代の発展とともに人が恐れにくくなった。妖が生まれる頻度も減ったし、あやかしが存在するための環境も激減した。夜でも世界は明るいし病は完治できるように、スマホがあれば未知の生き物も簡単に検索して招待がわかる。恐れられなくなった妖は飢えに苦しみそのまま消えてなくなるか人を襲う害悪に成り果てるだけ」



凪はそうなる妖を少しでも減らしたいのだと言う。その活路として食事があり、妖課に出会い、人間社会の市民権を得られるようにまで変化してきた今がある



「土台はできてありがたいんだけどね、今その食事に問題がね!」


「あぁ、そうね」


「問題って何です?」



納得言ったというせやに駿ケ崎は首を傾げる



「人間の食べ物の人工化だよ」


「人工化……と言うと人工甘味料とかって話かな?」


「そうそう、冷凍食品とかコンビニ商品、あとはレトルトとかまあようは化学調味料の発達なんだけどね。あれ一応は元は自然食品なんだけど機械的に作られてるでしょ。そういうの妖には合わないんだよね」


「まぁ俺ら妖が食事するのも人の思いや情を食べるためやしなぁ……確かに美味いか美味くないかで言ったら」


「不味い……です」



今まで凪に隠れてうずくまってあたあんずがぽつりと言葉を漏らした。皆の視線を浴びて再び縮こまり、目には涙をうかべてる。けれどたった一言、その訴えは心に響くものがあった



人に恐れられなくなって居場所をなくし、死ぬか生きるかの選択をきっと強いられているあやかしは沢山いるのだろう

人知れずという言葉の通り、誰にも知られず風化してくように消えてく妖もきっといて、生きようともがく妖も耐えられず暴走する妖もいるのだろう



あんずは生きようともがく妖で


苦しい飢餓の中で不味いものを食べなくてはいけない


食べることが好きな一結は、その苦しみがどんなものかは想像がつかない

けれど嫌だろうなと浅はかな感想にしかならないがそれくらいは浮かんだ


「(きっと、優しい子なんだろうな……人を襲って満足できるならきっと僕はもうどうにかなってただろうし…共存したいと思ってくれてるんだろうな)」


震える小さな体は今を必死に生きようとしてるように見えた



「ふん、弱いからそうやって苦しむのだろう。とっとと消えればいいものを、だから妾が消してやろうと…」


「ウィル。それはダメだよ」


「……」



柔らかな金の尾を退けて一結は立ち上がる。ウィルと九尾の狐がイコールなんてまだ納得がいかないけれど、今の言葉には反論したくなった。そんなことはダメだと叱りつけるようにすれば大妖と呼ばれる彼女はおずおずと押し黙った




「凪さん、確かに俺は俵の米屋の息子だけど今は持ってない。それでもなにか役に立つのかな」



さっきは襲われて舐め回されて怖かったけれど、今はもう怖いとは思えなかった



「あんずちゃんの助けに、俺はなれる?」


「良い目だ。もちろんあるよ。ていうかもうなってる」


「え?」



凪の言葉にウィルはあからさまに不貞腐れたような表現を浮かべた。凪の懐からおずおずと顔を出したあんずは涙目ではあるがまっすぐ一結を見上げた



「とても美味しかった」


「へ?」



涙混じりに伝えられた言葉に一同驚きにフリーズ


そのすぐ後にせやとうぇるのバカ笑いが響き渡ったのだった











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