司祭の務め25
その後は、のんびりしたものだった。
今日はもう食事をして宿で休むだけだからね。急ぐ必要がない。
帰りはイリアスの馬に乗せて貰おうと思ったのに、言い出す前にリドルフィの馬に乗せられていた。
でも、それで良かったみたいだ。
疲れていた自覚はなかったのだけど、のんびりした歩調の馬に揺られていつの間にか、うとうとしてしまっていて。
馬上でどこまでも続く草原を、ぼーっと眺めていたと思ったら意識が飛んで、次に目を開けたらもうフォーストンのすぐ手前だった。
イリアスの後ろに乗っていたなら、自分でしっかり捕まっていなかったら落馬してしまうけれど、リドルフィの前なら、多分熟睡してしまっても問題なく運んでもらえる。
眠りこけていたのはしっかりばれていたようで、まだ寝ていていいぞとまで言われた。
いや、馬から降りた時にどうするのよ、と思ったけれど……多分この人はごく自然に背負うか担ぐかして運ぶのだろうと想像がついてしまった。やっぱり過保護だ。
ちなみにイリアスは出発前に念のため、浄化しておいた。
彼女も多少は耐性があるとはいえ、あれは近すぎだったからね。
特に影響は受けてなさそうだったが、こういうことはしっかりやっておいた方が良い。
今夜の食事は、特に全員で集まることもなく適当だった。
私は、イリアスとエルノ、ロドヴィックと一緒に宿併設の食堂で軽く済ませた。
考えてみたらこの組み合わせは、昼のお留守番のメンバーそのままだね。
ここの土地勘もなく、ついでに何かと厄介ごとに巻き込まれそうな面々が、一番安全なところで食べていた感じだ。
それでも王都よりも海に近いことから新鮮な魚介類を使った料理が多く、あちらではあまり食べられないものを食べることが出来て満足だった。
明後日、この街に戻ってきた時は、リドルフィにどこか連れて行ってもらうのもいいかもしれない。
この街は美味しいものが多そうだ。彼がいれば裏路地の危なそうな辺りの店でも問題なく行けるだろう。あの容姿だし、多分、彼はここの街の裏側も知っている。長年一緒にいた割に未だに底が知れないけれど、頼りになることだけは間違いない。
その保護者めいた壮年マッチョはというと、ここでもお偉いさんと飲んでいたらしい。
顔が広いのもなかなか大変だね。
翌朝、集合がかかっていた時間の少し前に全員が揃った。
全員しっかり武装した状態で預けていた馬を受け取る。
それぞれの馬の背に荷物を固定し、出立の準備をしているのを私は見守った。
私の荷物はリドルフィが馬に積んでくれた。
「……念のため、かけておこうか」
「あぁ、頼む」
全員が準備を終えたところで言えば、リドルフィが頷いた。
イーブンが、そうだな、と笑い、今回初めて一緒になった面々は何を?とこちらを見た。
イリアスはにんまりと笑っている。……なんで、そう楽しそうなのか。
「ちょっとこっちに。すぐに終わるからね」
今回は馬たちにもかけておこう。彼らも立派な旅の仲間だから。
知っているリドルフィたちが軽く並んだのに合わせ、他の面々も近くに寄り、並ぶ。
私はその前に立ち、一度ぱっぱと己の法衣を払ってから姿勢を正した。
全員の顔を順に見つめ、一つ頷き。
右手を胸に当て、左手は軽く体の前、手のひらを天へと向ける。
古い言葉の呪文の前の句を朗々と謡うように唱える。
そこで司祭のエルノたちには何かわかったらしい。厳かに首を垂れる。
何かを感じ取った馬たちもまた、同じように首を垂れていた。
「正しき者たちに光の加護を。戦いに臨む者たちに良き風が吹きますように――……」
韻をふむ。古い言葉の呪文を謡うように唱える。
そうして、力ある言葉を口にすれば、天へと向けた手のひらの上に淡い光が生まれる。
ふわり、と、清い風が吹く。
球体の形をとった光は、その風を受けて一気に広がり……全員を包んだ。
「さて、行きましょうか」
今日は野営地までの移動だけだ。他には特に何も予定していない。
途中までは自由街までの街道だし、その後も朽ちているとは言え、旧街道を辿る道中だ。
多少野良の魔物や野党が出たとしても、この面々だったら余裕を持って制圧するだろう。
……ってことは、今日の私の仕事はこれでおしまいかな。
野営地で作る料理のことでも考えながら行こうかね。
おばちゃん、朝イチで本日任務終了。(笑)




