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司祭の務め21


 翌日、街道へと戻り南下し、昼少し前に宿泊地に到着した。

商業都市フォーストン。

王国内でも五本指に入る街で、週に二回、大きな市がたつ。

整備された街道を北上すれば王都に、そして南下すると国境があり、自由街へと至る。

 自由街は、国境になっている大河の中州に出来た新しい街だ。

あの戦乱期の後に魔族との国交もひらかれ……いや、人間も魔族も商人たちが勝手に交流を始めてしまったが正解だな。どちらにとっても中間地点にあたるそこに市がたつようになり、商魂逞しい連中が街を作ってしまった。

自由街は文字通り、自由で、どこの国、どこの陣営にも属することなく、今ではこの辺りで一番栄えている場所になっている。

魔族や人間をはじめ、獣人、ドワーフ、エルフ、その他諸々、行きかう人々も多種多様。

 ……そんな自由街から一番近い王国内の街が、商業都市フォーストンだ。

自由街から流れてくる品々や、王都内南部の産物で溢れていて、ここも活気に満ちている。

だが、人の出入りが多いということは、当然治安にも影響が出る。

また、南部には、あの戦いで人口が減ったことにより放棄されたままになった村や町も多いことから、自由街ほどではないとはいえ、ここフォーストンも王都に比べると治安はよくない。

貧困の差が大きく、路上生活している者もいる。商人を狙った野盗などの話もよく聞く。

街の綺麗にされている表側だけならば女性だけでも外出できるが、それでもスリや置き引きの心配はあるし、裏通りに至っては地元の人でも入らない場所があったりするそうだ。


 フォーストンの広場まで来たら、昼食まで別行動となった。

ライナスとウルガは騎士団支部に報告に行き、イーブンは連絡済みの宿に馬車や一部の荷物を預けに行った。ジークは神殿の支部へ、リドルフィは冒険者ギルドフォーストン支部の上の方に挨拶に行っている。

私とイリアス、それにロド、エルノは冒険者ギルド近くで待機。

その四人はこの街で単独行動させるのはちょっと危ない、と……。

全員一応いい大人ではあるんだけれどねぇ。確かにイリアスは、中身はともかく見た目は絶世の美女だ。エルノは単純にどこかへ行く必要がないからだが、ロドヴィックはそこはかとなくいい人オーラが漂っていて、確かにカモにされそうで危ない。

……私は、大丈夫だと思うんだけど、ダメだと全員に言い切られ待機組に入れられた。イリアスみたいに優れた容姿でもないし、ロドヴィックみたいないい人オーラも漂ってないはずなのに何故なのか。


 この先は、馬車は一旦預けて、馬での移動になる。

また、今日この後一カ所目の浄化に行き、終わったらここフォーストンに一度帰還。

明日はここから旧街道を辿って馬での移動になる。

ここより西、国境になっている大河の近くは戦乱期に被害が大きかったこともあり未だ瓦礫は多く残り、廃村などには野盗が潜んでいたり魔物も出現したりと物騒だ。

旧街道は、王都からここまでの街道とは違い、手入れされなくなって久しい。馬車はもう通れない。

今回の遠征はここを拠点にして本命である旧ヴェルデアリアの他、二カ所の浄化を行うことになっている。


「……あの、おひとついかがですか?」

「うん?」


 広場の一角、冒険者ギルドや騎士団事務所の近くはこの街でも比較的安全なエリアだ。

それ故に、その一角にあるカフェの外に出されているテーブルに待機組はいたのだけども。

どうやら自分に言われているらしいと気が付いてそちらを向けば、女の子が二人いた。

着ている服は古びていてサイズがあっていない。

それでもなんとか小綺麗でいようと頑張っているのか、どちらが着ている服もよく洗いこまれているし、髪もしっかり綺麗に編まれていた。


「おねえちゃんのおはな、かってください!」


 どうやら妹らしい方が、はい、と、姉の持つ籠から野で摘んだらしい素朴な花束を差し出してくる。

まだ祝福を貰うかどうかという年頃だ。

先ほどおそるおそるという風に私に声をかけてきた姉の方は十歳ぐらいか。

どちらもかなり痩せていて少し心配になる。

おそらく孤児か、親がいても満足に食べさせられるほど稼げていないのか。


「一つ、いくらだい?」

「……グレンダ?」


 隣に座っていたイリアスが、眉をひそめてこちらの名を呼ぶ。

いや、言いたいことは分かるんだけどね。

妹の方が無邪気に小コイン一枚だと告げる。固い小さなパンが一つやっと買えるような、そんな値段。

こいこいと、姉の方に手招きする。籠を見せて、と言えば野花がたくさん入ったそれを快く見せてくれた。


「……これは薬草、喉が痛い時にお茶にして飲むと少し楽になる。こっちは傷の手当に使われる薬草だ。花も綺麗だけど薬草を扱っているお店に持って行ってごらん。買い取ってくれるよ」

「……そうなの!!?」


 妹の方が、目をキラキラさせてこちらを見る。

姉の方は、幾分疑うような目でこちらを見ていた。

うん、それでいい。そうじゃないとこの街では生きていけないよね。


「ちょうど少し喉の調子が悪かったから、この花束を貰おうかな。あぁ、これとこっちにも同じ花が入っているね」


 そう言って紫色の花の入った花束を、ひょいひょいと三つほど選ぶ。


「こっちにもはいってるよ! あ、これもはいってた!」

「そしたらそれも貰おうね。……全部でいくつあった?」

「いつつ!」


 たくさんあった!と無邪気に笑って言う妹の方の頭を軽く撫でて、私は隠しから小銭入れを出す。

小銭入れの中身をちょっと探すような振りをして、中くらいのコインを一つ出した。


「おや、小コインが足らなかった、これで」


 はい、と、姉の方の掌に乗せる。

中コインは小コイン十枚分。言われた額の倍だ。


「あ、お釣りを……!」


 ゆっくり首を横に振って見せれば、びっくりした顔をされた。


「私は、薬草を買ったのだから、ね? 何もなかったら二日か三日後にまたここにいるようにするから、よかったら売りにおいで」

「……ありがとうございます!」

「ありがと、です!」


 慌てて大きく頭を下げる姉に、ワンテンポ遅れて妹の方もぶん、と勢いよく頭を下げた。


「……ほら、やっぱり待機で正解でしょ」


 受け取ったコインを大事そうにしまってから、何度も頭を下げつつ去っていく姉。

「今日はパンにスープつく?」とか無邪気にくるくる踊りながら姉についていく妹。

そんな様子に和みながら見送っていれば、イリアスに、ぽそっと言われた。


「正解ですね」

「えぇ」


 なんで、エルノやロドヴィックまで肯定してるんだい。

いや、子供が頑張っているのは応援したいものだろう?

イリアスがちょっと怖い顔で周りを見渡した。

……それを見て、なぜか私たちによってこようとしていた子供数人が、そーっと逃げて行った。

なんだろう、やっぱり釈然としないのだけども。

姉妹が置いていった花束がテーブルの上からふわりと優しい香りを漂わせていた。




ありがちエピソード、ですね。(苦笑)

薬草はハーブのヤロウとマローブルーをイメージしてみました。

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