表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/250

司祭の務め17



 そんなわけで、馬車に揺られている。

今日は一泊目の宿場町までひたすら移動だけだ。おかげで皆、緩い。

御者をやっているイーブンと、司祭の一人は御者席でのんびり雑談をしているし、馬上のもう一人の司祭もその会話に混ざっている。どうやらイーブンは二人と面識があるようだ。

獣人の騎士は昼休憩の場所を確保するとのことで先に走って行ってしまったし、もう一人の騎士は、リドルフィと武器について語り合っている模様。

馬車の中にいる宮廷魔導士は、「仕事を残せなくて徹夜してきたんです」とのことで、荷物の合間の薄暗いところで器用に横になって寝ている。

 私とイリアスは、馬車の後部でのんびり景色を見ていた。

夏も近いので若干暑いが、風も穏やかで気持ちよいし、馬車の幌のおかげで直射日光も浴びずに済んでいる。

旧ヴェルデアリア方面への街道は明るい森の横を沿っているので、木漏れ日の中で小鳥の声まで聞こえて平和そのものだ。


 やがて、昼少し前に最初の休憩になった。

先行していた獣人騎士が案内してくれたのは、街道を挟んで森とは逆側。

小川のほとりにある少し拓けた場所だった。

どうやら街道を利用する人たちが休憩によく使う場所のようで、腰かけるのにちょうどよい丸太がいくつか置いてある。焚き火の後などもいくつか。

遠征慣れしているらしい騎士二人が、その辺の石で簡単な竈を作り、湯を沸かし始めた。

私と司祭の一人が、出発時に持たされた昼食を馬車から降ろし確認している間に、もう一人の司祭が魔導士を起こし、リドルフィとイーブンが周りの確認をして回った。

イリアスは何を思ったのか、女子用ね、なんて言って馬車から薄いマットを下ろしている。確かに座るところは柔らかい方がありがたいけども、もう女子って言うような歳じゃないような。


「よし、食べながら自己紹介ぐらいはするか」


 リドルフィがそう切り出したのは、全員に昼食が渡り、腰を落ち着けた時だった。

ちなみに、今日のお昼は王都内にある野ばらベーカリーのカスクルートだった。

固めのパンにどっさりパストラミビーフとチーズ、野菜が挟んである。

とても美味しそうだが……かなりボリュームがある。私は半分で足りそうなので、あらかじめ真ん中で切っておいた。後で片方はリドルフィに押し付けよう。

そのカスクルートに、騎士たちがお湯を沸かして淹れてくれたお茶がついた。


 コの字ならんだ丸太の縦棒部分、マット付きのところにイリアスと私、その隣にリドルフィ、上の棒線部分に、司祭二人と魔導士、下の棒線部分に、騎士二人とイーブンが腰を下ろしていた。


「まずは俺から。本遠征の長を務める、リドルフィ、だ。……俺は全員知った顔だから自己紹介はいらんだろ。今回は両手剣と長剣を持ってきている」


 自己紹介をすると言いながら、真っ先に省略している。

しかし、全員と面識があったのか。相変わらず顔が広い。

私自身は、冒険者二人は旧知の仲で、司祭の一人は顔と名前を知っているぐらい、他は初顔合わせだ。


「そしたら、ここから時計回りにいくか。イーブン」

「はいよ。冒険者ギルド所属のイーブンだ。獲物は弓。一応短剣も使える。先行しているオーガスタと共に戦闘時は遊撃に回らせてもらう予定だ。ついでに紹介すると、オーガスタは短剣の二刀流だな」


 よく焼けた肌にしわを寄せて、にっと笑う。

長い付き合いのイーブンは、村でも他でもリドルフィに便利にこき使われているような気がする。本人は楽しそうにやっているようだから問題はなさそうだけども。

これまでも何かと一緒することも多かったから、私にとっても気安い相手だ。


「お次、どうぞ」

「どうも。騎士団所属のライナスと申します。戦闘時は剣と盾を使用。魔法はお恥ずかしながら自己ブーストのみです。一応フルプレートを持ってきているので最前線においていただければ」


 実直そうな男性だ。今はズボンにシャツ、マントと旅装姿だ。

そういえば馬車の中に、ごついプレートアーマーが置いてあった。

あれは彼の物らしい。

よろしくお願いします、と、丁寧に頭を下げていた。


「騎士、ウルガ。槍を使っている」


 ライナスの挨拶が終われば、横にいた獣人が言う。

立ち姿は人に近いが、全身がふさふさの茶色い毛で覆われていて、特に胸元と尻尾の毛はたっぷりだ。

顔立ちは狼そのものなので、狼系の獣人なのだろう。


「野菜の一部と酒は無理だ。皆と違う食事するが、気にしないで欲しい」


 過去経験からの付け足しだろう。なるほど、と、心のメモに書き込んでおく。

よく見れば彼の持っているカスクルートは野菜なしの肉とチーズのみだ。

多分、野営の時に炊事は私がやるだろうからね。やっぱり肉がいいのか後で聞いておこう。

横でイリアスが、もふもふ触りたいとか呟いている。

……確かにちょっと触ってみたいかもしれない。尻尾とか、ふさふさだ。


「次はジーク、お前さんだ」


 コの字左下まで終わったので、リドルフィが次を促す。

コの字の左上に座っていた司祭が分かったと頷き、皆を一度見渡す。

それから左手を己の胸元に当て、司祭の礼をした。


「司祭のジークハルトです。よろしくお願いします。基本の神聖魔法は一通り習得していますが、どちらかというと自分は僧兵に近いですね。治癒や防御より、自己強化や退魔の方が得意です」


 歳は私と同じぐらいだろうか。

鈍色の短髪に意志の強そうな顔立ちの男性で、司祭でも私のような法衣ではなく、同色系統のズボンに長い上着を合わせた司祭装束を纏っている。

本人が言った僧兵なんて言葉を裏付けるように、しっかり鍛えられている感じの体格だ。

にっこりと笑って……なんだろう、ちょっと歯がきらりんってしたような。

 ジークハルトはもう一度よろしくと言ってから、隣の同僚を促すように見た。

その視線を受けて、二人目の司祭も左手を胸に当てて礼をする。

彼は私が着ているのに似た法衣姿だ。柔らかそうなこげ茶の髪に優し気な印象。

ジークハルトより少し若そうかな。


「同じく司祭でエルノと申します。私はジークとは逆で、主にバフ系の後方支援が得意です」


 そこまで言ってから、ふと私の方を見て。改めてもう一度、私に対してだけ礼をしてきた。


「グレンダさん……! 先日はマルティンとウィリアムを助けてくださり、本当にありがとうございました。私も彼らの治癒を何度か担当していたのですが力及ばず…… グレンダさんが診てくれなかったら彼らは……」


 悔しさを思い出したように、くしゃりと顔が歪み、そこで一度言葉を切って、息を吐きだす。

私はその様子を見つめ、次の言葉を待った。


「……マルティンは昨夜遅くに、ウィリアムも今朝、意識が戻りました。本当に、本当にありがとうございました」

「……ううん。そう、二人とも意識が戻ったのね。本当に良かった」


 気になっていた司祭たちの回復を知って、思わずこちらも絞り出すような声になってしまった。

横から大きな手が伸びてきて、いつものように人の頭を撫でて……うん、良かったなって意味なのはわかるけれど、このタイミングで子ども扱いはやめて欲しい。


「っと、すみません。次の方、どうぞ」


 エルノが隣にはい、と、バトンを渡すようにして促す。

次は、さっきまで馬車の中で器用に眠りこけていた魔導士殿だ。


「王宮魔導士ロドヴィックです。ロドとお呼びください」


 ローブの上からも分かるほど痩せていて、書類に埋もれているのが似合いそうな風貌の青年だ。丸い眼鏡をしてい、て少し気弱そうな気配を漂わせている。


「……魔導士団の中では一応副長を務めていますが、席次でいうと五番目です。うちは皆好き勝手生きてる人たちばかりなんで、気が付いたらなぜか僕が副長に…… 魔法は器用貧乏なんでどれも超級は無理ですが、四元素どれでもいけますよ」


 ……ってことは、徹夜仕事の内容は書類整理とかだったのかもしれない。

魔導士にしてはお人好しオーラが出ているので仕事を押し付けられたのだろう

本人は器用貧乏なんて言っているが、攻撃などもできるレベルでの魔法を四元素全て扱えるというのはかなり稀で優秀だ。普通は得意な属性一~二種類の攻撃魔法と、後は生活で使うようなコンロに火をつけるとか、顔を洗う水を出すとか、それぐらいが限界である。

ちなみに、超級は周り一帯が荒野になるレベルの魔法だ。そんなのが使えるのは本当に一握りの魔導士だけだし、そういう人たちは大抵その属性しか使えない。


「……申し訳ないのですが、今日は残りの移動中も寝てると思います。すみません」

「あぁ、何かあったら起こすかもしれんが、今日はそれで大丈夫だ」


 リドルフィが請け合った。

次は自分、と、イリアスが手を挙げる。


「冒険者で、細剣使いのイリアスだよ! 見ての通りエルフで魔法は風と植物系。このパーティは前衛多いみたいだから、私はグレンダたちの護衛役にまわろうかな。リド、おーけー?」

「あぁ、頼んだ。もとよりそのつもりだった」

「りょーかい。任せて!」


 イリアスはいつも通りの軽いノリだ。

青みがかった銀髪のエルフは黙っていれば近寄りがたいほどに見目麗しいのに、やたらと軽い仕草や口調が、麗しさを見事に打ち消している。

残念なような、あえて、これが正解な気がしなくもないような。

 次!とそのイリアスから横腹をつつかれた。……微妙に痛い。

イリアスに非難の目を向けてから、向き直り左手を胸に当て軽く会釈する。


「グレンダです。今回の浄化役です。私も神聖魔法は一通り使えるけれど、戦場はかなりブランクがあるのでフォローをお願いします」

「はーい。いざって時は何とかするわ~」

「おう、頼んだ」


 横でイリアスが返事をした。本当にノリが軽い。それに合いの手を入れたリドルフィもどうなの。

真面目に挨拶したつもりが、とても緩い感じになってしまったじゃないか。




同行者全員分の名前と特徴を考えるのにかなり手間取ってしまいました……(汗)

男ばかりにしたのは、戦うなら男性の方が……なんて私の好みから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ