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司祭の務め16


 待ち合わせ場所と指定された騎士団事務所内、小会議室。

私は、そこで旧友との再会を果たした。


「グレンダ、やーっと会えたねぇ」


 すらっと女性にしては長身。真直ぐ腰近くまである青みがかった銀の髪からは、長い耳が覗いている。

私やリドルフィの元冒険仲間、細剣使いのエルフ。

実年齢は私よりずっとずっと上だが、見た目は人間でいうところの二十代前後だ。ずるい。


「……イリー!!」


 例年ならもっと早い時期に村に遊びに来て休暇を取るのに、今年は何時まで経ってもこなくて心配していた旧友が、並べられた椅子の一つに腰を下ろしてのんびり笑っていた。

そのまま、両手を広げてくれたので私は遠慮なく抱きつく。

ぎゅむぎゅむと確かめるように抱きしめる。


「ずっとこないし、手紙すらないから心配してたんだよ」

「あれ、手紙出してなかったっけ。色々調べるのにちょっと森に戻ったりしてたら時間かかっちゃった」


 ごめんね、とも言うが、多分あまり悪いとは思ってなさそうな、そんな緩い口調だ。

多分、手紙も書こうと思って、思ったまま忘れたとかそんな感じだろう。

らしいというか、なんというか。


「まったく、あなたは……! でも、また会えてよかった。……ここにいるってことは、しばらく一緒なのね」

「うん。一昨日帰ってきたところをウォルターにつかまったよ」

「本当にいいタイミングでの帰還だったよな」


 遠征の見送りに来たらしいギルドマスターのウォルターが、腕組して頷いている。

目的が目的なだけに討伐隊はそこそこの人数での編成になる。

もしかしたら、この後全員揃ってから簡単な挨拶や説明などもあるのかもしれない。


「良かったな。グレンダ」

「あ、リドもおひさ~」


 私に抱きつかれたまま、イリアスが私の後ろにいたリドルフィを見つければ、これまた緩い仕草で手を振っている。

その全く緊張感のない様子にリドルフィの方も笑っている。


「冒険者側は、後は弓使いのイーブンともう一人。イーブンは先に馬車の方に行っている。馬車移動の間は御者役も務めて貰う。もう一人は先発している。……本当はカイルにも頼むつもりだったんだが黒化直後だしな。他のベテラン連中は新たな魔素溜まりが出来てないか見回りに出している。本当は俺も行きたいところなんだが……」

「マスターはここで全体を見ていてもらわないと困ります」


 ウォルターの横にいた補佐官がきっぱり言い切る。

一昨日、執務室にいた方だ。よく見たら真っ黒でしなやかな尻尾が生えている。猫科の獣人のようだ。


「すまない、少し遅れた」


 ついその尻尾に目を奪われていたら、扉が開いてランドルフとその部下らしい数人が入ってきた。

身に着けているものから察するに、騎士が二人……片方は獣人、王宮魔導士が一人、それに補佐に確保したと話していた司祭二人、いずれも男性のようだ。


「これで全員揃ったか。とりあえず皆座ってくれ」


 ランドルフが黒板の前に移動し、ウォルターもそちらに並び立った。補佐官もついていく。

私はイリアスの左の席に落ち着いた。私の逆隣りにはリドルフィが座った。

後に入ってきた騎士たちもめいめいに腰を下ろしている。


「まずは集まってくれてありがとう。人数は少ないが精鋭ばかりであることはこの私が保証する。今回の遠征の目的はすでに説明した通り、旧ヴェルデアリア市街地に現れた大規模魔素溜まりの浄化、および、そこに出現しているであろう魔物の掃討である。すでに現段階で大型の魔物が出現しているとの報告が上がっている」


 ランドルフがまずは説明をし始め、その間にウォルターの補佐官が黒板に移動ルートが書かれた地図を張りだす。


「騎士団、王宮魔導士、司祭、冒険者の混合編成だが上手くやるように。なお、この遠征隊の指揮はリドルフィが執る」


 なんとなくそんな気はしていたが、聞いていなかったので名を挙げられた本人を見ると、うむ、と頷いていた。どうやら私が知らないうちに決まっていたようだ。

敢えて役職も職業も出さずに名前だけにしているところは、もしかしたらランドルフの気遣いなのかもしれない。

本来のリドルフィのもつ肩書、聖騎士は、あの戦乱期に途絶えてしまった役職だ。

ここでモーゲン村、村長と紹介しても意味はないし、それ故に名前だけでの紹介となったのだろう。

そんなことを考えているうちに、説明役はウォルターに替わり、移動ルートや現時点での魔物等の目撃情報などの説明に入っている。

 どうやら一日目の今日はひたすら移動のようだ。

普段から人が行き来する街道をいくし移動先も比較的大きめの街だから、今日のところは平和だろう。

明日以降は浄化をあり、復興していない地域に入るので戦闘も予想される。

騎士二人とリドルフィ、それに司祭の一人は騎乗。馬車は一台で御者はイーブン。残り四人は、今日明日は馬車の中。獣人種の騎士は徒歩だとのこと。種族的に馬に乗るより自分で走る方があっているらしい。

三日目以降は二泊目のところに馬車は預け、全員馬での移動になる。私はリドルフィかイリアスの馬に相乗りらしい。

王宮魔導士殿も乗馬はあまり得意ではないので、司祭のどちらかの馬に乗るそうだ。

……私も平たんな道で並足ぐらいまでなら一人でも乗っていられるのだが、駆け足とかになるとしがみついていることしかできないし、道が悪かったらもっと無理だ。

こんな遠征に出される馬だから、多分私が指示しなくても周りについてってくれるだろうが、安全を考えるなら、上手い人たちに乗せて貰う方が良いに違いない。


 騎士団側のメンバーもそれなりに実績のある人たちのようだ。

騎士団長と冒険者ギルドマスターの説明は必要最低限で終わり、最後にリドルフィが立ち上がった。

ランドルフとウォルターがあけた場所までゆったり歩けば、こちらを向く。


「本来なら俺からそれぞれの紹介や諸々説明をするんだろうが…… それは移動中の休憩時でもいいだろう。俺からは一つだけ」

 

そこで言葉を切って見渡す。多分、全員と目を合わせていたのだろう。

やがて満足そうな顔をすれば、


「何があっても死ぬな!」


怒声ではないのに、びりと、空気が震えるような圧のある声に、全員の顔つきが変わった。


「よし、いこうか。」


何の飾りもない言葉だったけれど、全員がその言葉に立ち上がった。

ウォルターがにまにまと笑っている。相変わらずの人誑しが、なんて、ぽそっと言っているのが聞こえた。


リドルフィ以下十名は、遠征へと出発した。




本当は冒険者側にもう3人、騎士団や魔導士がもう1人ずつぐらいいた方がらしいかなーとも思ったのですが……人数増えると私が混乱するのでこの人数で。

何時も便利に使われてしまうイーブンのおっちゃんは、さりげなくかなり強い人です。

全てなぎ倒す壮年マッチョのせいでかなり霞んでいますが……(合掌)

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