司祭の務め15
旅支度や気分転換を含めた街歩きの後、私は早めに宿に帰った。
明日からはしばらく移動だからね。
今日疲れるわけにはいかない。
村から持ってきた荷物に買ったものを合わせて簡単に荷造りを済ませてしまう。
不要なものは冒険者ギルドに預けてしまうことも出来るけれど、事前にリドルフィから予定を簡単に訊いてはいたので、持ってきている荷物は最小限にしてある。
神聖魔法の使い手として参加だから移動中も法衣着用で、持ってきている着替えも多くない。
自分のベッドの上に荷物を出してまとめ直し、鞄に詰めていく。
今日買い足した物も旅に持って行くつもりの物だけなので、小ぶりな旅鞄一つにまとめきれた。
移動は途中まで馬車。最後の方も馬なのでこれぐらいの荷物なら問題ないだろう。
荷物を片付けてしまった後、さきほど羊のおばあちゃんの店で買った物を出してみる。
耳栓にできる髪紐を頂いてしまうだけではなんだか申し訳なくて、少しだけ買い物をさせて貰ったのだ。
染めてない白いレース糸とそれに合ったかぎ針が一本。
旅の途中や帰った後の隙間時間にちまちま編むのもありかな、と。
幸い編み方も多少は知っているし、編み図もお店で簡単なものを教えて貰ってきた。
最終的にストールが出来たらいいなと思っているけれど、どこまで編めるかは謎だ。
「……よし、編んでみますかね」
窓際のソファに腰を下ろして、のんびり編み始める。
始めのうちは久しぶり過ぎて目が揃わなかったが、何度かほどいては編み直して、を、繰り返すうちに安定した。
元々細かな仕事は好きな性分だ。楽しくなって私はそのまま編み進めていった。
「グレンダ、夕食にいこう」
「……ちょっとだけ待って。ここまで編んじゃうから」
「また、細かいのを頑張るなぁ」
夕方になって部屋に帰ってきたリドルフィが、しげしげと私の手元を見る。
ハンカチサイズぐらいになったレースの端まで編み切って私は手を止めた。
「お待たせ様。……どこに食べに行く?」
「三つ、選択肢がある」
「ん?」
私の前で指を三つ立てて言う相手に、編みかけのレースをしまって顔を上げる。
「一つは簡単に下の食堂。一番気楽ではあるな。今日の日替わりは白身魚のムニエルだそうだ」
「二つ目は?」
「ランドから。屋敷でディナーはどうかと言われた」
騎士団長のランドルフは貴族で、王都内に立派な屋敷を持っている。
そこでの食事にお呼ばれなら、おそらくフルコースかそれに近い。
ランドルフは私にとっても幼馴染で気安く話せる仲だが、それでも屋敷に呼ばれるとなったらそれなりの恰好をする必要があるし、食事もそれなりに格式高いものになる。
「……フォーマルな服なんて持ってきていないよ」
「そこはなんとでもなるから問題ない」
「三つ目は?」
「街に出て、目についた店か屋台で適当に食べる」
「……んー、断れるなら二つ目はパスで。旅から帰ってきてからとかにして貰おう」
フォーマルな服……ドレスは着ているだけで肩が凝るからね。
明日確実に出発するためには今夜あまり疲れたくない。
「そう言うだろうと思って、実はすでに断ってある」
「……それは選択肢に出す方が間違ってない?」
「まあ、一応、だな」
「一つ目と三つ目だったら、おススメは?」
「三つ目だな。帰ってくる時に美味そうな串焼きの店を見た」
「なら、それにしよう」
「了解。美味いエールもあると良いな」
「ほどほどにしておくのよ?」
リドルフィが連れて行ってくれた串焼きや屋は広場の一角にあり、大きく開いた窓から美味しそうな匂いを漂わせていた。外にも高いテーブルが出され立ち飲みもできるような店だったが、店内に案内してもらえば、しっかり座れた。
奥の方の落ち着いたカウンター席で、肉やら野菜やら魚介類の串を何種類も目の前で焼いて貰い、たらふく堪能した。おまけにデザートだという生のフルーツが刺さった串も食べたらお腹がいっぱいになった。
こういう店はあまり経験がなかったけれど、中々良いものだね。
カウンターで目の前で串を焼いて貰うのを見ながらの食事は楽しかった。
村で次に祭りや宴会がある時には、こういう串焼きを出してみるのもありかもしれない。
店主に美味しかったと礼を言って、のんびり宿に帰れば、後はすることもあまりなくて。
翌日を考えて、私は早々にベッドに入った。
考えてみると、今日みたいなのも休日って言うんだろうね。
好きに店を見て回って、美味しいものを食べて、のんびりしたいことをして過ごした。
……よし、しっかり休んだから、明日からは頑張ろう。




