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司祭の務め13


 クリスを見送った後、広場から市場方面へと、ゆっくり歩く。

市場は遠征後のお楽しみにとっておくとして、こっち方面の細かなお店を覗こうかな、と。

リドルフィと合流するのは夕方なので、ついでにお昼もこっちにある知り合いの店で食べるのだ。

久々に歩くと少しずつ店が変わっていて、月日を感じる。

食堂に見習いを入れて、ある程度任せられるようになったら、今より王都に遊びに来られるだろうか。

あの小さな食堂でも毎日一人で回していると出掛けるのは中々難しくて、せいぜい隙間時間に村の中を散歩したり収穫の手伝いをしたりできるかどうかだ。

そういう生活もそれなりに楽しく充実もしているけれど、時には街に出て買い物を楽しんだり、自分が作った物ではない食事を楽しんだりしたい気持ちもある。


「……ん?」


 こじんまりした商店やカフェの多い辺りまで来れば、なんだかスパイシーな香りがする。

あまり馴染みのない香りだが、夏前の暑さに合う感じの美味しそうな香りだ。

辺りを見渡して香りの元を探せば、どうやら目的地がその元のようだ。

石造りの壁に木の扉といくつかの窓。

窓からちょっと覗けば開店しているものの、まだ昼より少し早いということもありそこそこ空いている。

木目が素朴な扉を開ければ、扉につけられたベルが、ちりりんと鳴った。


「いらっしゃい、お一人様で……って、グレンダじゃないの!」


 愛想よく声をかけてくれた店主の女性が私の顔を見て、ぱぁっと嬉しそうに笑う。

こっちこっちと手招きでカウンター席を勧められた。


「アメリア、久しぶり。開いていて良かった。なんか美味しそうな香りがするね」

「本当に久しぶり。また何か厄介ごとでも押し付けられたの? ……あぁ、これね!最近始めたメニューよ。南のスパイスを扱ってる商人さんと仲良くなってね。話してて面白かったから現地までついてって料理習ってきちゃった」

「相変わらずだねぇ。そんな感じ。……その身軽さはちょっと羨ましい」

「ふふふ。美味しいもののためなら、ね。食べていく?」

「もちろん。一人分お願い」


 歳は私よりほんの少しだけ下。

ものすごく食いしん坊なのに、食べても太らない体質らしくて、ひょろっと細い。

ちょっと羨ましい。

褐色の肌に、癖の多い長い髪を頭の上でおだんごにして、シャツに細身のズボン姿でエプロンをしている。

エプロンが無い姿で街を歩いていたら、絶対料理人には見えない。

親が営んでいた料理店を受け継いでいるのだが、時々ふっと旅に出てしまって、長いと半年ぐらい帰ってこない。当然その間は店も開いてないし、いつ帰ってくるかもわからない。興味の赴くままに旅先で色んな料理を試して、現地の人に教わって満足したら帰ってくる。

そんな彼女は、私が村で食堂を開く時に料理を教えてくれた、言ってみれば料理の先生だ。


「グレンダ、辛いのも大丈夫よね?」

「えぇ。でも、めちゃくちゃ辛いのは無理よ?」

「大丈夫、ちょいピリぐらいだから」


 カウンターの中で何か揚げているらしく油の音がする。

外に漏れ出ていたスパイシーな香りと相まって期待が高まる。


「そういえば、旦那は?」

「旦那じゃないって。リドは用事で今は別行動」

「そう。これ、絶対、彼好きだと思うんだよね! ……あー、そうだ! 作り方教えてあげるから、村で作ってあげたら? スパイスもそっちの分回してもらえるよう頼めるし!」

「え、いいの? 門外不出とかじゃないの?」

「いい、いい! なんだったら村で気に入った人がいたら、ここ紹介して。……はい、お待たせ様!」

「それはもちろん。……ありがとう、ってこれはシチュー?」


 さらっとレシピを教えてくれるなんて話になれば慌てるものの、いつもの軽い口調で請け合ってくれて。そういえば、初めに料理を習うことになった時もこんな感じだったなぁと懐かしくなる。

カウンターから出されたのは大きなスープ皿。

ごろんと大きな鶏肉を揚げたものと何種類もの野菜、それらが茶色いスープに浸っている。

スパイシーな香りはこのスープか。

おまけのように薄黄色の、つぶつぶした穀物らしきものが盛られた皿が追加で置かれた。


「スープカレーって言うの。そっちのライスと一緒に食べてみて」

「スープカレー……」


 綺麗に彩りよく盛られた野菜は、いくつかは揚げてあり、他のは茹でたか蒸したかしてあるようだ。

香りに誘われるように、やや早口になりつつ食事前の祈りを捧げて……。


「いただきます」


 フォークで、よくスープに絡んだ揚げ茄子を口に運ぶ。


「……!」

「ふふふー、いいでしょう。いいでしょう?」

「……うん、いい。美味しい!」


 しっかり野菜や肉でだしを取ったらしいスープはスパイスで香ばしくて、しかも味が深い。

茄子をはじめ、入っている野菜と絡めると野菜の甘みと相まって次々食べられてしまう。

アメリアが言った通り、ほんの少しピリっと辛くてそれがいいアクセントになっている。

添えられたライスとやらもそれだけで食べても甘みがあって美味しく、更にスープに絡めると辛さをちょっと緩和してくれて、それも良い感じだ。

つい無言になってもぐもぐ食べていれば、満足そうな顔でアメリアが見ていた。


「教わっていく?」

「えぇ、是非。……あ、でも、一週間後ぐらいでも良い? これから少し遠征してこなきゃだから」

「やっぱり今回も厄介ごとに巻き込まれているのね」


 呆れたように肩を竦められて、苦笑を浮かべてみせる。

料理を教わっていた頃も、何かと呼び出されては働いていたのをアメリアは見ていたので、またかーと笑っている。


「そしたら帰ってきたらもう一度寄って。確かそろそろ商人さんが来る頃だから、グレンダの分のスパイスも確保しとくわ。レシピのメモも用意しとくよ。」

「嬉しい。ありがとう。絶対に寄るよ」

「うんうん。だから無事帰ってくるのよー」


 そう言って、とんと私の前にグラスを出してくれた。

ヨーグルトとフルーツを混ぜたらしい飲み物は、辛さの残った喉を爽やかに潤してくれた。



第3話のエピソード数がやばい事になりそうなのに、ごはん成分欲しさに無理矢理つっこんでみたり。

スープカレー美味しいですよね。時々すごく食べたくなります。

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