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司祭の務め12


 確認したらまだ早朝だったので、私もシャワーを浴びてしっかり身支度をした。

ちなみに、さっきリドルフィがこざっぱりしていたのは、騎士団にいって朝一の訓練に混ざってきていたからだそうな。本当、このマッチョの体力はどうなっているんだろうね。

そうこうしているうちに宿の食堂が開いている時間になったので、一階に下りて行って楽しみにしていた焼きたてパンを堪能してきた。

 朝食の間中、人の顔を見ては思い出し笑いをしているマッチョは何度か足を踏んでおいた。

まったく、そんなに笑うことないじゃないか。


 出発は明日なので、今夜も王都で宿泊だ。

せっかくだから市場でも見て回りたいところだが、村に帰れるのは浄化の旅が終わってからだ。それを考えると、今、荷物を増やすのは賢くない。

商人ギルドに村の食堂の見習い募集をかけに行くことも考えたが、募集に来てくれた人がいたとしても面談が出来るのは最低でも八日後。待たせてしまう。なので、こちらも旅から帰ってきてからにしようという話になった。

もし募集に複数来てくれたら、料理の上手い下手よりも人柄を優先して選びたいところだ。

なにせモーゲンは小さな村だからね。合わない人だと続かない。

あの村が好きだと言ってくれるような人に巡り合えたら良いなと思う。


 今日も神殿に行って、昨日意識が戻ってなかった二人の様子を見てくることも考えたのだが、それはリドルフィに止められた。

行けばまたこき使われる、明日確実に出発するために、お前は行くな、と。

過去のあれやこれやのせいでリドルフィは神殿の幹部たちとは距離を置きたがっている。

しかし、大丈夫なつもりで昨日行って、夕方から朝まで眠りこけた手前、大丈夫とは言えないけれど、昨日診た面々のことは、心配は心配なのだ。

こちらが困った顔をしていれば、彼らの容態について変化があれば知らせを貰えるように手配すると約束してくれた。

たぶんそこが妥協点だろう。私を心配して言っているリドルフィに駄々をこねても仕方がない。何より、こういう時のリドルフィは絶対に引いてくれない。

 残りは……冒険者ギルドは明日の朝行くから良いし、騎士団の方はすでにリドルフィが行って来ている。

他にやらなければならないことは……と考えても、せいぜい明日以降の旅の準備ぐらいだった。


 いくつか用事をこなしてくるというリドルフィと分かれて、雑貨屋や食料品店をいくつか覗く。

王都在住の知人たちを訪ねることも考えたけれど、なんだか気乗りしなかったからやめてしまった。

多分、明日以降の旅路のことで、自覚は薄くとも少し落ち着かないのだろう。

どうせ会うならのんびり笑える時の方が絶対いい。

法衣姿ではまた厄介ごとに合いそうな気がしたので、ごく普通のブラウスにロングスカートという姿で街を歩く。

 考えてみると王都でのんびり過ごすのは久しぶりだ。

リドルフィと違って、私は名指しで呼ばれたりでもない限り滅多に村から出ない。出ても市場で買い物をするぐらい。

村が出来る前はこちらに居たけれど、もう二十年近く前の話だ。

顔を見て私だと判別がつく人も多くはないだろう。

……と、思っていたのに。


「グレンダさん!」


 呼び止められた。

驚いて振り返ると、昨日あの場にいなかった駆け出し三人組の最後の一人、小柄な少年クリスが通りの反対側で手を振っていた。今日は魔法使いのローブは着けておらず、腕まくりした長袖シャツにズボン、帽子という街の若者らしい恰好だ。

馬車が通り過ぎるのを待って、クリスが道のこちら側に渡ってくる。


「クリス、久し振りだね。……買い物かい?」

「えぇ、冒険者ギルドに行ったついでに。……グレンダさん、バーンとアレフがお世話になったって聞きました。本当にありがとうございます」


 道の往来でいきなり頭を下げられて面食らう。

慌てて頭を上げるように促して、思わず注目を浴びてしまってないか周りを見渡した。……大丈夫そうかな。


「私は私の仕事をしただけだよ。そう言えば、あの二人は?」

「神殿の救護室からは出て来てて、今日はまだカイルさんと一緒です。僕もまだ魔法学校の手伝いですし。バーンたちと一緒に動くのは明後日から」

「そう。……少しはクリスの苦労が減るといいねぇ」


 思わずそんなことを言えば、ははっとクリスが苦笑している。

元気で冒険者としても伸びしろがありそうだけど、あの二人は少し勉強や考えが足らないところがあったからね。それをクリス一人で補っていたのは結構大変そうだった。


「そうなったらそうなったで、今度は少し寂しいのかも」

「そうかい」


 そんな子にはおばちゃんがこれをあげよう、なんて冗談めかして言って、先ほど買ったばかりの焼き菓子の包みを渡す。後で宿に戻ってから食べようと思ったものだ。


「わ、いいんですか。……眠る小鳩堂のじゃないですか!」


 紙袋に押された、二羽の小鳩がうとうとしている判を目ざとく見つけてクリスが喜びの声を上げる。

お店の看板にも描かれている焼き菓子店のマークだ。


「あ、知ってるんだね、ここのマドレーヌは昔から好きなんだ。後で友達と食べたらいいよ」

「何度かお使いで買ったことがあって。ありがとうございます。そしたらこの後研究室に戻るんで、シェリーさんと食べます」

「あぁ、シェリーの手伝いをしているんだったね。彼女も元気?」

「えぇ。色々教えて貰っています。……グレンダさん来てるならシェリーさんも会いたがりそう」

「それはうれしいね。でも、少し用があって明日には発ってしまうんだ。一週間ちょっとで村に戻るから、気が向いたら遊びにおいでって伝えて貰えるかい?」

「わかりました。……っと、休憩時間で来てるんだった」


 礼儀正しくぺこりと頭を下げた少年に、またね、と言えば、はい!といい声が返ってきた。

魔法学校の方に慌てて帰って行く様子を見送る。

なんとなく村に居た時よりちょっとしっかりしたように見えた。

若い子は成長が早いね。それが少し眩しかった。



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