司祭の務め11
リドルフィに案内されて広場に戻ると、冒険者ギルドからほど近い老舗の宿に、部屋が取ってあった。
過去に何度も利用したことのある宿で、女将も私のことを覚えていてくれた。
ここは食事もだけど、朝出してくれる焼きたてのパンが美味しいんだ。
だけど、なんで毎回当たり前のようにシングル二部屋じゃなくツイン一部屋なのだろう。
じとーっとした目でリドルフィを見たがスルーされた。
そして、問い詰めるより、私の方がもう体力の限界だった。
「もうここまで来たら見栄を張らなくてもいいだろ。休め」
一階のカウンターで鍵と籠を受けとり、人目がなくなったところで、問答無用で抱き上げられた。
部屋は、建物の最上階。四階。
見晴らしはとてもいいけど、疲れている状態でそこまで階段を上るのは正直しんどい。
階数のある建物には昇降機が備えられているところもあるけれど、ここの宿は残念ながらない。伝統ある建物を弄るに弄れなかったため、つけることが出来なかったのだそうな。故に、部屋のある階までの移動は階段である。
深い赤色の絨毯が敷かれた階段を、片手で子どもにするみたいに私を抱き上げたリドルフィが上っていく。
「昔はもう少し動けたのに。……私だけ年寄りみたい。悔しい」
「こっちは普段から鍛えているからな。大丈夫。俺もしっかり歳とっている。あと、神殿で働いていたのはほとんどお前だけだっただろ」
部屋の前にくれば、彼は器用に片手でポケットから鍵を出して、借りた部屋の扉を開けた。
広場側の一室で、中々広い。
ツインなので大きめのベッドが二つ。書き物机に椅子。バルコニーの前にソファセット。
背の低いチェストの上に二人分の荷物がすでに届けられていた。
部屋の奥まで来て私をソファに下ろし、ついでのように身に着けていたローブの留め金を外す。
「自分でやれるから……!」
「はっはっはっ」
私からするりと脱がしたローブを、壁側の外套掛けに引っ掛けながら笑っている。
「少し出掛けてくる。夕飯時には戻る。それまで休んどけ」
「そうね。そうしておく」
「何か欲しいものはあるか?」
ううん、と首を横に振る。
そうか、といつものように返事が返る。
神聖力を行使し過ぎたせいで貧血にも似た倦怠感と頭痛がしている。正直なところ、今すぐにでもベッドに倒れこみたい。それぐらいに疲れきっている。
荷物から室内履きを出してきて近くに置けば、今履いている編み上げブーツの紐をほどきにかかる。
そうしている間に、リドルフィは先ほどカウンターで受け取った籠から飲料水の瓶を出し、コップに注いで、こちらの座るソファ近くのテーブルに置いてくれた。
「いい子に寝てろ。それじゃ、ちょっと行ってくる」
そう言うと、近くに来たついでに人の頭を一度、くしゃりと撫でて、出掛けて行った。
あの人の中では、私は会った頃の怖がりで泣き虫のちびすけのままなのかもしれない。
「いい子にって……もうこちらも四十半ばなんだけどねぇ……」
さっさと出ていったのは用事もあるのだろうが、こちらが早く休めるようにとの気遣いだろう。
その気持ちをありがたく受け取って、私は法衣から楽な姿になると、貰った水を飲み、そそくさとベッドに入る。
そういえば王都に来たのだから、食堂見習いの募集を出しにいこう、なんてふと思いついたけれども。
横になってしまえば自然と瞼が下り、意識を手放すまでほんの数分もかからなかった。
扉の閉まる音で、目が覚めた。
熟睡できたのか、頭がスッキリしている。
眠る前は石のように重くなっていた体も元に戻ったようだ。
これなら階段の上り下りも大丈夫だろう。
そういえば、お腹もすいた気がする。
もぞもぞと少し枕に懐いてからゆっくり体を起こせば、洗面室からリドルフィが出てきたところだった。騎士服から着替えたついでにシャワーでも浴びたのか、こざっぱりしている。
がしがしとタオルで髪を拭いているけれど、そんな乱暴なやり方だと髪が薄くならないのかね。
その様子を、ぼーっと眺めていれば、こちらが起きたことに気が付いたらしい。
「……あぁ、起きたか。少しは疲れがとれたか?」
「ん。かなり。ありがとう。……そっちは用事は済んだの?」
「え、あ、あぁ。それは終わった」
ベッドの上で伸びをする。つい、欠伸が出れば、よく眠れたみたいだなと笑われた。
いいじゃない、欠伸ぐらいしたって。
「しっかり寝たからか少しお腹が空いたかも。リド、夕食にどこか食べに行こう」
「……それは無理だな」
なんか微妙な顔をしている相手に断られれば、ふむ、と考える。
「あぁ、そういえばラン兄たちと飲む約束をしてたね」
「いや、そうではなく……」
珍しく曖昧に言う様子に首を傾げる。
もしかして、私は寝過ぎてしまってもう店も開いてないような深夜なのか。いや、王都だから夜通しやっている酒場もいくつかあるだろうし、私一人じゃ危なくてもリドルフィが同伴なら何も問題ないような。
部屋の奥の方へと男が歩いていって、いつの間にか閉められていたカーテンをさっと開けた。
窓から入り込んできた日光に室内が照らされる。
男の、こちらに向けている背中が小刻みに揺れている。
「……」
「夕飯はもう無理だな。朝食なら喜んでエスコートしよう」
笑いながら言うマッチョに、私は枕を投げつけた。
お約束展開(苦笑)




