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司祭の務め10


 その後、看護職員に挨拶をすると、七人分の浄化と治癒に対して何度も重ねてお礼を言われた。

セドリックからの伝言があるか確認したところ、他にはもう頼むことはないので帰して良いと言われた、と。

私は一度リドルフィとの目を合わせて、……ゆっくりと首を横に振る。

離れて久しいとはいえ、神殿は勝手知ったる場所だ。後は好きにさせて貰おう。


 リドルフィと一緒に、奥の司祭向けの聖堂ではなく表の一般向けの聖堂に寄る。

私はなんとなくこちらの方が好きだ。

奥は奥で厳かで趣があるのだが、私は過去のあれやこれやのせいであまり近寄りたくない。

そちらに比べると、表の聖堂は出入りも多く常にさわさわと人の気配がする。静かに祈るには向かないが、表の方にはどんな人でも受け入れてくれそうな柔らかく優しい印象がある。

奥が穢れなき純白なら、こちらは乳白色、といった感じだ。

 礼拝用に並べられた木製のベンチの片隅に腰を下ろしていれば、今日祝福を受けるらしい小さな子が両親に手を引かれてやってきていた。

期待できらきらと輝いている目、今日の日が嬉しくてたまらないという笑顔が眩しい。

嵐の時に迷子になったトゥーレも、近いうちにここに来るはずだ。あの時見つけられて本当に良かった。

思わず見守っていれば、こちらの視線に気が付いたのか、その子がこちらを向いた。

きょとんとした目でこちらを見て……何を思ったのか、こちらに歩いてきた。


「司祭様、こんにちは!」

「あ、すみませんっ! ほら、祝福を受けるのはこっちよ……!」

「大丈夫ですよ。こんにちは。祝福を受けに来たのね。おめでとう」

「ありがとう!」


 どうやら人見知りしない子らしい。

白いシャツにベストと揃いのズボン姿の男の子に挨拶され、私は自分がローブを預けたまま法衣姿だった事を思い出した。

受付をしている間に男の子がいつの間にかこっちに来ている事に気が付いた母親が、慌てて寄ってくる。


「……司祭様もこっちでお祈りするの?」

「えぇ。私もここでお祈りをしていたんだよ」

「そっか。司祭様もみんなと同じなんだね」


 みんなと同じ、と言われて、私の方が一瞬目を丸くした。


「そうだよ。この人も、君と同じ人間だからね」


 私の隣に座っていたリドルフィが、ごく自然に肯定する。

その言葉に私は小さく笑って続ける。


「……みんなの為のお祈りは奥でするんだけど、私は今、自分の個人的なお祈りをしにきたからこっちなんだよ。……内緒だよ?」

「……へぇ、そうなんだ! うん、内緒!」

「ほら、お父さんとお母さんが待ってるよ。行っておいで」

「あ、はーい。えぇっと、司祭様たちに光の加護のあらんことを」

「はい、ありがとう。あなたにも光の加護のあらんことを」


 微妙に声を潜めて言えば、うん!と大きく頷いてくれた。

きっと親に教えられてきたのだろう、挨拶を言い男の子が両親のところに戻っていく。

途中まで迎えに来ていた母親が何度もこちらに頭を下げているのを見て、大丈夫だと笑顔でもう一度首を横に振ってみせた。


「……良い祝福が貰えると良いね」

「あぁ」


 見送りながら言えば、横からぬっと手が伸びてきていつものように頭を撫でる。


「……髪が乱れるからやめてちょうだい」

「ん。そろそろ行くか」

「そうね」


 では、お嬢さん、お手を、なんておどけて差し出された手を取って立ち上がる。

彼に預けたままだったローブを受け取れば、その場で羽織った。

これでその下が法衣だとはすぐに気づかれないようになっただろう。魔導士や冒険者など、夏場でもローブを羽織っている者は結構いる。


 立ち去り際、聖堂をもう一度振り返る。

アーチを描く高い天井、白を基調とした室内。正面に設えられた神話の神なる樹を模した彫刻。

それを優しい木漏れ日みたいな色のステンドグラスが照らしている。

さっきの男の子のように祝福を受けに来た親子連れや、何かを祈りに来たごく普通の人たちがそれぞれの都合に合わせて礼拝用のベンチに座ったり、司祭やここの職員と静かに話したりしていて、騒がしくはないけれど人の気配は多い。

こちらの聖堂はすべてを受け入れてくれるようで、どこか優しい。


「この後は宿だな。……他は明日でいいな?」


 リドルフィの言葉に頷く。

立ち上がる時に借りた手はそのままごく自然に相手の腕に導かれて、エスコートされる形で歩き出す。


「広場の方に部屋を取ってある。宿についたら一度休め。働き過ぎだ」

「……大丈夫だよ。かなり肩代わりして貰ったからね」

「それでも、だ」


 あれの処理の時、リドルフィが居なかったら私一人で魔物の相手をしながら浄化を行わねばならなかった。

それでもなんとか出来ただろうが、そうしていた場合はかなりの負担を強いられたはずだ。

そして、浄化に合わせて重症者を含め七人分の黒化の治癒。

重症者二人については、恐らく私でなければ無理であろう。

シエルやカイルについては、ある程度の浄化が出来る人であればなんとかなるだろうか。

ルカやバーン、アレフについては正直なぜ治癒せずに放っておかれていたのか、色々考えてしまうところではあるけれども。

おそらく、遅かれ早かれ私が来ることを見越してあの状態だったのではと思っている。

あれの浄化を行い、重症者を含めた治癒。それなりに行う者に負担がかかる。

同日内に全て行えるほどの力がある神聖魔法の使い手は王国内全域でも片手の指で足りるほどしかいない。

私もあともう一人重症者を診ろと言われたらかなり厳しい。

 そして。

私は司祭として籍を持ちながら、ここの場所には苦い思い出が多い。

用事は私一人で足りるものであったけれど、心的負担も考えると居てくれて本当に助かった。

でも……。


「……過保護だね」


 素直じゃない私は小さく肩を竦めて言う。


「見てないとすぐに無理するからだ。本当は今だって担いでいきたいぐらいなんだが」

「やめてちょうだい。まだ歩ける」

「……なんでここまで強がりに育ったかな。みんなで甘やかしたのに」

「あなたたちが甘やかしたから自制を覚えたのよ」

「ちびの頃はすぐ頼ってきて可愛かったのにな」

「……この年で可愛かったらこわいでしょうが」


 余計なことを言ったマッチョは私に手の甲をつねられた。


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