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司祭の務め6


 私は、扉に手を当てて目を閉じた。

これだけであちらには終わったことが伝わるはずだ。

三つほど数えてから一度数歩下がって待っていると、外側から扉が開かれた。

今度は半開きではなく、完全に開いた扉をリドルフィと私は並んで歩いて通った。


「ご苦労様でした」


 前の間で待っていたセドリックが、恭しく頭を下げる。

それに合わせて、扉を開けてくれた司祭の二人も同じように首を垂れた。


「あれを運んだ人たちはどうしていますか?」

「神殿内に保護しています」

「わかりました。そちらに案内をお願いします」

「彼らのことも診て頂けるのですね。助かります」


 私がセドリックと話をしている間に、リドルフィが預けたローブを受け取っていてくれた。

では、こちらへ、と、笑みを浮かべて促すセドリックに、私は表情を殺したまま頷く。

 部屋を辞する前に、一度振り返った。

完全に開いた状態で置かれた扉の向こう。

さんさんとガラス張りの天井から光が降り注ぎ、中央に置かれた聖杯のレプリカを明るく照らしている。

壁のレリーフに埋め込まれた輝石はきらきらと光を跳ね返していて美しく幻想的な光景を作り出している。

もうそこに闇が凝っていた気配は残っていない。


振り返った私の視線を受けて、門番の司祭たちが左手を胸に当て、ゆっくりと腰を折った。


「ここを、よろしくお願いします」


 私は改めて彼らに告げると、廊下側の扉で待っていたセドリックの方へと歩き出した。

付き従うように、リドルフィが私の斜め後ろをゆっくりとついてきた。




 また長い廊下を歩いていく。

来る時に一度待たされた場所に戻り、回廊側の方でまた一度待たされた。

ほどなくしてセドリックが戻ってくれば、また大した会話もなく歩いていく。

一般人向けに公開されている区画を横切り、建物の反対側へと出れば、また非公開区画へと。

但し、こちらは司祭でなくても必要に応じて入れる区画で、そのためか先ほどの場所と違い廊下にも装飾が施されていた。

 奥まった場所まで来ればいくつも並んでいる扉の一つの前で立ち止まる。

先にセドリックが一人で中に入り、しばらくして戻ってくれば扉を開けて私たちを促す。


「こちらです。見習いを含め司祭が四名、冒険者が三名います」

「……」


 そんなに、と、思わず言いそうになり、口をつぐむ。


「私は別件で離れます。後は中の者に聞いてください。聖女グレンダ、聖騎士リドルフィ、本日はお越し頂き本当にありがとうございました。お二人に光の加護のあらんことを」


 上位司祭セドリックは、そう言うと恭しい態度で胸に左手を当て、腰を折る。


「セドリック司祭にも、光の加護のあらんことを」


 私も同じように胸に左手を当て、頭を下げた。

斜め後ろでリドルフィもお辞儀したらしい気配がした。

 セドリックが立ち去っていくのを見送り、開かれたままになっている扉を通って中に入る。

入れば……そこが救護室の一つだと一目でわかった。

目隠しの衝立の向こうに並べられた看護用のベッド。

お香が焚かれているのかやや癖がある香りがする。

カーテン越しに窓から光が入り込んでいる。

先にセドリックと話していたらしい、この部屋の担当看護員がこちらに気が付いて寄ってくる。


「浄化を施しに参りました。状況を教えて頂けますか?」

「……はい。この部屋には、欠片の運搬および安置のための準備を行った者たちを収容しています。奥から三名が司祭、一名が司祭見習い、手前三名が運搬を手伝ってくれた冒険者の方々です。重症度も奥から順になります。……一番奥の二名はもう二日ほど意識がありません」


 説明をしてくれた女性は、先ほどまで案内してきたセドリックと対照的に、感情で声が揺れていた。縋るような掠れた声は、それほどここにいる者たちを案じているということなのだろう。

私は落ち着けるように、ゆっくり頷いてみせる。


「わかりました。診てみましょう」


 安易に大丈夫だとは言えないが。

それでもこちらの表情に、彼女は少しほっとしたらしい様子に笑んでみせた。

背の高い衝立の向こうで小さな話し声が聞こえる。

どこか聞き覚えのある声に、一度リドルフィを見上げれば彼も気になっていたようだ。


「こちらです。お願いします……!」


 衝立の向こうへと案内されて……私は、目を疑った。


「カイル……! それに、バーンとアレフも……」

「やっぱりお前たちだったか」


 聞き覚えがあるはずだ。そこにいたのは、つい先日までモーゲンに来ていた冒険者たちだったのだから。


「あぁ、やっぱりグレンダさんが来てくれた」

「おばちゃん!!!」

「……って、もしかして、リドさんっ!?」


 ベッドから起き上がれない様子の長身の男が微笑む。

そのベッドの横に張り付くようにしていた駆け出し三人組のうちの二人が、縋るような目を向けてきた。

アレフの方は涙目になっている。男の子がそんなうるうるしてどうするんだい。

バーンの方は、リドルフィのいつもと違う姿に目を丸くしている。確かに、村での無精髭だらけの恰好とあまりに違うからね。


「……静かにおし。ここは救護室でしょう。積もる話は後でちゃんと聞くから、少し待っていて。……リド、こっちは任せた。私はあちらを先に診てくるわ」

「分かった。……お前たちは元気そうだな。カイル、手見せてみろ」

「分かりました。……動かないんで、アレフ、毛布をめくって」

「あ、はいっ」


 早速カイルの様子を確認し始めたリドルフィを置いて、私は看護職員について部屋の奥へと進んだ。



また長くなりそうなのでここで分割。

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