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食堂の聖女  作者: あきみらい
第1章
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食堂のおばちゃん7



 夜半より少し前、最後までだらだら話してる雑貨屋と村長、その他数人を追い出して食堂を閉めた。

放っておくと日付が変わるまでいたり、ひどいとそのまま寝てしまったりすることもあるからね。そうなる前にとっとと追い出した方が良いことは大昔に学習済みだ。

 モーゲンは娯楽もない小さな村だ。夜はせいぜい酒を飲むか話すか、ここでカードやチェスをするぐらいしかない。女たちのように編み物でも楽しめばいいのにと一瞬思ったりもするが、背を丸めちまちまと編み物をしているリドルフィや、にこにこ笑顔で刺繍をしているダグラスを想像してやっぱりなしだなと思う。不気味過ぎる。

最後まで居座る面子はいつもほぼ同じなので、特に深刻な話でもしてない限り時間が来たら容赦なく叩き出すことにしている。

ここでだらだらと無駄に夜更かしするぐらいならさっさと寝て、明日すっきり起きた方が良いに決まってるからね。


「ふぅ……」


 人気のなくなった食堂のテーブルを一つずつ丁寧に拭ききれば、私は体を起こしぐいと背を反らした。

そのまま軽く首を横に倒したりしながら布巾をもって厨房へと行き。

流しで布巾を洗いつつ、先に仕込んでおいた明日用の鍋などを眺め、やり残しがないか確認する。

朝食は予約を受けている数人分だけだ。他は夕食時にパンとスープなどを持って帰ったりしている。

若い頃は朝食に合わせてパンを焼いたりなんてしてた頃もあったが、それをやるには私も体力が落ちた。パンは何日かに一度まとめて多めに焼き、それ以外の日はその時に焼いたものを温めたりして賄っている。

なにせたった一人で回している食堂だ。

私一人で朝昼晩全力で回しきることなんて出来はしない。


「……そろそろ、うちも若いのを雇うことを考えるかなぁ」


 昼間にミリムと話したことを思い出せば、そんな言葉がこぼれていた。

まだ体は動くし多少の無理も利くが、動かなくなってから次の手を考えるのでは遅いのだ。

ある程度先を予測して備える。

ここがなくなったら困る人たちもそれなりに居るのだし、これをきっかけに本格的に考えるのもアリだろう。

雇うのではなく見習いとして育ててもいいかもしれない。

いずれは私も食堂の店主を引退してのんびりしたいし。

はじめは見習いとして入ってもらって、時が来たらこの食堂を丸ごと引き継いでもらうのなら、きっと相手にとっての条件も悪くない。

よし、次に王都に行く時に見習いの募集でも出すかと心のメモに書き込みつつ、前掛けを外した。

それをきっかけにしたようにふわりと欠伸が出る。


「今日もお疲れ様でした、と」


 食堂と厨房の明かりを落とし、扉の奥の階段から二階へとあがる。

そこから先は私の私室だ。

料理中に髪の毛を落とさぬようにとひっ詰めていた頭からピンと髪紐を取れば、幾分白いものの混ざった黒髪がばさりと背の半ばまで広がった。

楽になった頭を緩く振りながら階段を上がり、先の扉を開けた。小さな居室と衝立で仕切られたその奥にある寝室の明かりをつける。

少し迷ったが風呂を用意するのもめんどくさくなって、着替えながら浄化の魔法で髪や体を清めてしまう。風呂にゆっくり浸かった時のような解放感はないし、スッキリ感も足らないが、今はそれよりも早く布団に入りたい。緩い部屋着になってしまえば、まず窓際の机についた。

木製のしっかりした椅子の背に置かれたクッションに一度もたれかかる。天井を仰ぐようにして目を閉じ、しずかに息を吐きだす。

そうして数分。疲れを空気に溶かすように体から力を抜いて。

ゆっくりと体を起こし、日記帳に手を伸ばす。

使いかけのページを開きながら、何を書こうか思案する。

朝は駆け出し三人組とカエルのおかげで騒がしかったが、全体でみれば今日も穏やかで平和な一日だった。

ペンをとれば、いつもとあまり変わらない内容を書き綴る。


「……書くことに悩む、そんな平凡な日々のこの時間が愛おしいと思うのは、年をとったからかもしれないね」


 視界に入った髪の一割程度白くなった部分に目を止めれば、やれやれと苦笑する。

そう、年をとった。

若い頃はそれなりに褒めて貰えた黒髪もこの有様だし、体型も随分緩んだ。

でも、それが嫌かというとそうでもない。

ゆっくりとここで積み重ねていった時間の証でもあるのだから。

そのまま視線を窓の外へと向ければ、月明かりが湖の水面に映っていた。


「……」


 そうっと目を細め。

やがて瞼を閉じれば視線を日記帳に戻し。もう一行だけペンを走らせた。



更新がまばら&不定期になってしまい申し訳ないです。

作者の体調に合わせてののんびりペースになっていきそうですが、少しずつ更新していきますので良ければお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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