司祭の務め3
グラーシア王国、王都の冒険者ギルドは中央広場の前にある。
王国内冒険者ギルドの本拠地でもあるので、大小さまざま八百万の依頼を発注する側と受注する側で、いつ来ても賑わっている。
三階建てのギルドの一階には、冒険者用のカウンターと依頼の張り出される大きな掲示板、それに待ち合わせなどに使われる酒場。二階は、依頼を発注する側用のカウンターや会議室、事務所などがある。三階は、ギルドマスターの執務室や貴族向けの応接室等。
ちなみに、魔物素材などの納品や冒険者が持ち込む様々な素材などは、城門近くの分室で捌かれている。
広場の真ん中まで毛皮やら肉やら持ち込まれてもちょっと困るからね。
私はあまりお世話になったことはないが、素材収拾等の依頼は分室の窓口で確認をしてもらい、伝票受け取ってギルド本部にもっていくと、依頼達成になるらしい。
分室の方で預かった素材や依頼品等はギルド側で処理し、依頼主に届けられたり商人や加工職人たちに納品されたりする。
その関係か、商人ギルドの方も城門近くの冒険者ギルド分室の隣に分室……というより卸し市場を持っていて、自然と民間の市場もそれらに寄り添うように立ち、その一帯が王都の商業地区になっている。ダグラスが私を広場で降ろした後に向かったのはそちらだ。
あそこも覗くと中々楽しいだけど、あまりに多くの物が売られているために見ているだけで時間が溶ける。
「やぁ、久しいな、グレンダ。よく来てくれた!」
リドルフィより少し身長が低いものの、似たような体格……マッチョな隻腕の男が笑顔で残った左手を広げてくれた。
私はそんな相手に同じように笑顔で歩み寄り、親愛の抱擁を交わす。
「……ラン兄ぃ! 元気そうで何より」
「おい、ランド、挨拶は三秒までだ」
「おぅ、リドもやるか?」
「やらん!」
再会を台無しに引っぺがしに来たのは、言うまでもなく壮年マッチョである。
いや、ここには壮年マッチョが二人いるか。
嫉妬深過ぎるのは見苦しいぞ、なんて笑うラン兄こと、ランドルフは、グラーシア王国騎士団の団長だ。
「相変わらず仲いいな。俺まで混ざりたくなるじゃないか」
「……男三人でやってください」
「それはやだ!」「勘弁してくれ!」「絶対嫌だ!」
綺麗に男三人分の声が重なった。
ここは冒険者ギルド三階、ギルドマスター執務室だ。
混ざりたいなんて言ってみたのはこの部屋の主、冒険者ギルドの長、ウォルター。
年齢はリドルフィたちと同じぐらい。体格は若干スリム、いわゆる細マッチョ。それでも今も現役で冒険者活動をしているに相応しい鍛え上げられた体をしている。
……壮年マッチョが三人で抱擁している様子を想像して私はちょっと遠い目になった。
嫌だと断ってくれて本当に良かった。
「感動の再会が終わったなら座ってくれ。どうせグレンダはこの後、神殿も行かなきゃいけないんだろう」
「えぇ。こっちに出てきて寄らないと、後で文句を言われるからね」
「人気者だな、聖女様は」
「その呼び方はやめてちょうだい」
ウォルターの言葉に私は顔を顰めた。
悪意も悪気もないのは表情を見れば分かるし、からかわれているのは百も承知ではいるのだけども。
それでも嫌なものは嫌なんだから、しっかり主張させてもらう。
すでにウォルターは応接セットの一人掛けのソファに腰を下ろしている。そのウォルターに勧められて、私たちはめいめいに腰を下ろす。
ウォルターから見て右側の一人掛けに騎士団長ランドルフ、その向かいの二人掛けにリドルフィが座り、私はリドルフィの隣だ。
荷物は執務室に入ってすぐにウォルターの補佐官が預かってくれている。
全員が席に着いた時点で、すっとメイドが入ってきて、各自の前に紅茶とお茶請けの菓子の盛り合わせを出し、入ってきた時同様すっと出て行った。
「さて、改めて。グレンダ、召集に応じてくれてありがとう。貴殿に依頼があることはすでに聞いているな?」
「えぇ。私の浄化が必要だと聞いています」
うむ、とウォルターが頷く。
ランドルフとリドルフィの二人は黙って聞いている。
「申し訳ないがこの件において拒否権はない。こちらでもできる限りの準備はする。頼めるな?」
「……拒否権はないんでしょう?」
ないと言っておきながら頼めるか確認する相手に、私は苦笑する。
ギルドマスターになるほど男が、こんな歯切れの悪い言い方をするのは、それだけ今回の件が危険で、そして、ここに居るのが気心知れたこのメンバーだからこそだ。
「……すまんな。あれは王都の司祭に雁首揃えさせても危うい。お前の力が必要だ」
「補助に神殿の司祭を二人確保してある。騎士団からも腕利きを護衛に出す」
「冒険者ギルドからも数人ベテランを出す予定だ」
「……ということは、浄化の前に討伐が必要だということね?」
私はウォルターとランドルフの顔を見て、それから横のリドルフィに視線を上げる。
こちらの視線を受けて、騎士服姿のリドルフィが頷いた。
いつものにやけ顔ではない。ごく真面目な顔だ。
私は視線を戻し、ウォルターの話の続きを待つ。
「王都南西、旧ヴェルデアリアにて高濃度の魔素溜まりが発見された。現在進行形で魔物を生み出している。小物が多いが大型も混ざっている。そこへと向かう途中にもいくつか処理しきれていない魔素溜まりが残っているから、それらも道中で処理することになる。グレンダにはその一行に、メインの浄化役として加わってもらう」
「ヴェルデアリア……」
「あぁ」
出された地名に反応して、つい太ももの上で握りしめた私の手に、横から大きな手が重なった。
「出発は……? リドからあれが見つかっていると聞いているの。処理する時間が欲しいのだけども」
「もちろん。その件についても把握している。神殿の方で保管しているから、あちらで確認して欲しい。二つあると聞いている」
「二つも……」
「出発はそれを処理してから。冒険者側の参加者を呼び集める関係で明後日だな。移動手段は馬と馬車。予定では一つの小規模魔素溜まりを経由して三日で旧ヴェルデアリア到着、帰還時にもう一つ処理で、全七日といったところだろう」
「……結構な旅程だね」
こちらがいつ王都に来るか読めなかった関係で、参加予定の冒険者たちが他の依頼を受けたりしているのだろう。明後日には揃うということは、事前に知らせ近場ですぐ終わる依頼をしているはずだ。
話を聞き、最低でも十日近く村に帰れないのかと、少し心配になる。
きっと食堂を預けたリンは上手くやってくれるだろうが。
多分、村が心配だと言うよりも、私自身が村からあまり離れたくないのだろう。
昔は、それこそ家も持たずに各地を放浪するようにして浄化や討伐に明け暮れていた頃もあったが、今ではあの村に落ち着いて久しい。人は、一度手に入れた安寧は中々手放し難いものだ。
分かった、と頷けば、ウォルターとランドルフの二人に申し訳なさそうな顔をされた。
そんな顔をされても困るのだけどもね。
その後の細かな旅程や報酬の話についてはリドルフィに任せて、私は出されていたお茶に手を伸ばす。
温くなってしまったお茶を飲みなら昔のことを思い出していたら、いつの間にか話は終わっていた。




