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弟子の苦悩


 冒険者ギルド併設の酒場にて。


「しかたねぇなぁ、ちょっと行ってくる。イーブン、うちの弟子を頼んだ」

「はいよ」


 目の前でそんなやり取りをされて、自分はまだまだなのかと思う。

いや、多分、師匠の基準が可笑しいような気がしなくもないんだ。

だって俺、ジョイスは、もう二十代後半だからね。

師匠に頼まれたイーブンも苦笑している。

ついでに言えば、しかたねぇなぁなんて言っていた師匠はにやにや笑っていた。

あの様子は全然しかたなく思っていない。絶対好きでやってる。間違いない。


 俺たちは、冒険者ギルドのギルドマスターと肩組みし去っていく師匠のでっかい背中を見送る。その様子に、俺は小さく肩を竦めた。

一緒に歩いていくお偉方たちは、師匠と顔馴染みらしい。俺でも見て分かるような仕立てのいい服を着た上級官僚たち。彼らが何者なのかは、多分、知らない方がいいやつだ。

本当に、我が師匠ながら底が知れない。

師匠はこの後、会議をするらしい。

多分、俺を王都につれてくる原因になった会議だ。ここ最近増えている魔物たちについて。顔合わせや場数をこなすために参加しろと言われていたのだが。

しかし、どうやら俺が参加できるような席ではなくなってしまったようだ。あの様子からして、お偉方での密談に代わってしまったようにしか思えない。

師匠は、会議に食事は出るが宴会ではない、酒は飲まん、と、なぜか強く主張していた。

多分、村で待ってるおばちゃんに、師匠は飲んでなかったと俺に証言させたいとか、そんなだな。

……後で、飲んでたってきっちり報告しておこう。


「……俺、頼りないっすかね?」

「んー、普通じゃないか? リドさんは昔からあんな感じだしな」

「大丈夫、年相応だよ」


 横から元気づけるようにリリスが、ぱんぱんと背中を叩いてくれた。

結構容赦のない叩き方で、ちょっと痛い。

野生のネコ科動物めいた、小柄でしなやかな体を持つリリスは、その可愛らしい見た目に反して、腕の立つ冒険者だ。

どうも話からすると俺よりいくつか年上らしい。そうかと思って、一度、リリス姐さんって呼んだら怒られた。

微妙なお年頃、らしい。


「とりあえず、この三人でやれそうなの探すか。ジョイス、それでいいか?」

「うっす。お願いします。……俺、一緒に会議に出ろって言われたからこっちに来たはずなのに……いいんですかね」

「いいんじゃないか? それとも追いかけてってあれに混ざるか?」


 あれ。もちろん、師匠の行った会議という名のやばそうな宴会だ。

間違いなく、俺なんかが気軽に話しかけられる相手は一人もいない。

以前に、師匠がぽろっと陛下は酒が云々とか言っていたのを考えると、多分、普通に王族や貴族も混ざっているような場、だ。

冒険者ギルドのギルマスはじめ、騎士団長やら商工会のトップやら錚々たるメンバーが雁首揃えている会議という名の宴会、もとい密談。絶対に気疲れする。というか、とって食われそう。

イーブンの言葉に、俺は、ぶるぶると全力で首を横に振った。あんなのには混ざりたくない。


「俺、本当に師匠の後継げるんかねぇ……」


 遠い目になってついこぼれた言葉に、イーブンが言った。


「あの村の村長って意味なら大丈夫だろ」

「ジョイスは何気に弱気だよね。あんな規格外の人に認められてるんだからもっと自信持てばいいのに。冒険者としてもセンスある方だと思うよ」

「あとは場数だな」

「そうそう。五十歳ぐらいになったら、きっと、ジョイスもリドのおじさんみたいになってるよ」

「二人とも優しい……」


 わざとらしくも若干うなだれていた俺は、よし、と背を伸ばす。

師匠と比べて凹んでいる時間が勿体ないよな。さっさと場数とやらを踏む方が建設的だ。


「それじゃ、場数踏むために依頼選ぶの、俺やります!」

「なら任せるか。リリスもいいか?」

「はーい」


 気を取り直して言えばイーブンがいい顔で笑い、リリスもにっと笑顔で頷いてくれた。

三人ともあまり前衛向きじゃないことを考慮に入れて依頼を選んだ方が良いだろう。

本当はカイル辺りがいるとバランスが良かっただろうが、彼は駆け出し冒険者を二人引き連れて行ってしまった。

 去り際のカイルは、いつもの紳士な口ぶりで、鍛え直してきますね、と笑顔で言っていた。

でも、目が笑ってないってあぁいうのを言うんだと思う。

鍛え直すと言っているはずなのに、躾け直すって言ってるように聞こえたからなぁ。

確かに、あの二人はちゃんと躾けておかないと早死にしそうで危なっかしい。

カイルがどう鍛え直すのかも、多分、聞いたらいけないやつの気がする。

 駆け出し冒険者三人組の最後の一人、魔法使いクリスはシェリーに気に入られていた。

先日の熊退治関連で調べ物をしたいなんて話で、二人とは王都に入ったところで分かれた。

今頃、魔法学校の図書館で本に埋もれているはずだ。


 冒険者ギルドの壁に設置された依頼掲示板の前に立った。

今回一緒に行動する二人はどちらも俺より経験も実力もある冒険者だ。どうせなら少し難易度のある依頼を受けてみたい。それでいて前衛がいなくてもなんとかなりそうなものは……。

俺は、掲示板に貼られた以来のメモを見ながらじっくりと吟味する。

……つもりだったのだが。


「あ、イーブンさん、いいところに! ちょっとこれ! 至急行ってください!!」


 三人揃って掲示板の前に立って一分も経たないうちに、イーブンが受付嬢に声をかけられた。

俺たちは一度顔を見合わせる。が、至急行けなんて案件断れるわけもない。


「ジョイス、選ぶのはまた今度だね」


 ぱんぱんと、リリスがまた俺の背中を叩いた。

慰めの意味もあるのか、さっきより若干優しかった。


 その後、俺らは、三人だけでビックホーン討伐というおっそろしい依頼に翻弄されることになった。

敵の察知能力が高すぎて、居るのは分かっているのになかなか見つけられないまま、数日。

やっと見つけたと思ったらすごい勢いで向かってくるし!

鹿やばいよ、熊よりやばい。

なんだよ、あの機動力! 跳ねるんじゃねぇ……っ! 急に走るな!!

罠を張ったり無い知恵を絞ったりしてなんとか倒しきった後は、三人とも無言で地面に仰向けに倒れた。

これでも体力はある方だと自負していたのに。走り回り過ぎて俺もみんなも息が切れていた。

本当、きっつい討伐依頼だった……。


 そのきっつい討伐依頼をこなし終わって、村に帰った翌々日。

討伐したビックホーンの話をおばちゃんにしたり、村の嵐対策であちこち奔走したりで、俺もやる時はやる男だ、なんて自分で思っていたのだけども。

嵐前のギリギリのタイミングで帰ってきた師匠から、宴会の後に魔物を三体倒してきたなんて話を聞くことになり、俺はまた顔をひきつらせた。


 目標にする背中はまだまだ遠く、大きいらしい。

……俺、本当にいつか、この人に追いつけるんだろうか。




次期村長候補のジョイス視点です。

こんなの見てるからリリスがリドルフィは胡散臭いって言うんですよね。(汗)

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