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夏の嵐26


 結果から言うと、収穫物の処理には丸一日かかった。


 リドルフィの方は、宣言通りに書類仕事をさっさと終わらせた。そのついでに嵐対策で広げてあった地図やらリストやらを確認し、天候回復後の作業リストやら今後の対策もまとめ終らせた。

そんなリドルフィが、野菜や果物の皮むきや、カットを手伝ってくれていたのだが、それでも丸一日、だ。

嵐が去った後に出掛けなければならないという話を聞いたから、私の方の作業量が増えたのも、もちろんあるが。

でも、直接的な原因は、持ち込まれていた食材の量があったことと、私自身の性格だろうね。

せっかく作るなら美味しく食べて欲しい。

どこまで手を掛けるか、何を作るか……。つい、気が付くと面倒な方ばかり選んでいた。

結局、作業が終わったのは夕方だった。

外は相変わらずざんざんと雨が降りまくっていたし、鎧戸が閉まっているから日暮れすらも分からなかったのだけども。


「これだけ並ぶと感慨深いものがあるなぁ」

「……そう、ねぇ」


 満足げに言うリドルフィに、私も頷く。

やり慣れない野菜を刻む作業を延々したせいで肩が凝ったのか、左手を自分の右肩において、右肩をぐりぐり回している。

かく言う私も首を横に倒してみたりしているが……あまり効果はない気がする。


 食堂のいくつかのテーブルには、瓶詰やら塩漬けの入った甕やらが種類ごとに並んでいる。

キュウリやパプリカを漬け込んだピクルス、葉物野菜のザワークラウト、ナスなどのオイル漬け、トマトと玉葱等でどっさり作ったトマトソース、ミニトマトははちみつ漬け。

さくらんぼや枇杷、すもものジャム、柑橘類の塩漬け、あんずの丸ごとシロップ煮、あんずは酒にも漬けた。

他にも細々と加工し、煮沸消毒した瓶に詰め込んである。

ジャムやピクルスはダグラスに売りに出してもらうことも考えて、一部は小さな瓶に綺麗に入れた。

今は使った食材と今日の日付を書いたメモがつけてあるが、出荷前にタグをつけるなどして整えてくれるだろう。

それ以外の、村の保存食になる瓶や甕は、後日外にある貯蔵庫にしまう予定だ。


「夕飯、適当にあまりものでいい?」

「あぁ、疲れてるだろうにすまない」

「ううん」


 瓶詰していて入りきらなかったピクルスなどが、厨房に残っている。

野菜と肉を炒め、残ったトマトソースを絡めれば、それらと合わせただけで充分に食べられそうだ。


「パンとパスタだったらどっちがいい?」

「パスタかな」

「了解。少し待ってて」


 パスタもトマトソースで炒めたものに絡めてしまえばいいか。

簡単に段取りを考えながら厨房に立つ。

鍋に湯を沸かして乾燥させてあったシェル型の手作りパスタを茹でつつ、ピクルスの残りを皿に盛り、肉を焼く。


「そういえば、村に来てくれそうなパン職人が一人いるんだが」

「あぁ、いいねぇ。小麦の生産量も安定しているし、人も増えたから助かると思う」

「そうか。なら次に王都に行った時に正式に声をかけてみるか」

「うん」


 フライパンで肉を、じゃっじゃと炒めたところに、オイル漬けのナスを加える。

ハーブとガーリックの匂いがふわんと香った。


「ハンナとダグラスが保存食についてあれこれ考えていたよ。カエルの干し肉はともかく、乾燥パスタをもっと作るって案は私も賛成だね。便利だし」

「パン作りとパスタ、どっちもできると良さげだな」

「まぁ、先にパンでいい気がするけどね。私としてはかなりありがたいし」


 トマトソースを絡めたところに、茹でたパスタを水切りして投下した。


「他には何か意見出ていたか?」

「んー、乾燥トマトの話ぐらいかな。……チーズもかける?」

「いや、いらん。代わりにエールだな。トマトの話は宴会の時に聞いたな」

「はいはい。酒は自分で用意してちょうだい」


 軽く味を調えれば出来上がりだ。残り物アレンジパスタ。まかない食だね。

カウンター席に、先に用意していたピクルス等の皿と一緒に並べる。

盛りはリドルフィに三、私に一ぐらいの割合。体格があまりに違うからね。


「お前は何か飲むか?」

「ううん、今日はいいや。ミルクがあるから、こっちを飲むよ」

「分かった」


 私がカラトリーを用意して席に座るのと、男が並々エールの注がれたジョッキを持ってきたのがほぼ同時だった。

……見れば口元に少し泡が付いている。さては注いですぐに一口飲んだね。

こちらの視線で何を考えたのか分かったらしく、にやっと男が笑う。


「休み、だからな」


 別にダメとは言っていないけどね。

私は軽く肩を竦めてみせた。




瓶詰がいっぱい並んでるの、ちょっと嬉しいですよね。

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