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夏の嵐25


「グレンダ、お前の今日の予定は?」


 のんびり時間をかけて、作ってもらったパンケーキを堪能した後、そのままお茶を飲んでいた私は、顔を上げる。訊いてきたリドルフィの顔を見てから、少し目を閉じて考える。


「んー……急ぎは特にないね。貯蔵室の片付けとジャムを煮たりするぐらいかな」


 ここ数日の間に、嵐が来る前にと急いで収穫したものを簡単な処理だけで貯蔵室に仮置きしている。

今すぐ腐ってしまうようなものはなかったが、野菜は早めにピクルスにしたり塩漬けにしたりなどした方がいいだろう。果物も時間があるうちに加工しておいた方がいい。

ドライフルーツにするために干したりなどはこの天候ではできないが、加熱して瓶詰にしたりなどなら室内だけで済む。

むしろ、普段の食堂の仕事がない分、今の方がやりやすそうだ。


「リドは?」

「書類仕事が少し、ぐらいだな。後は、それを一応確認するぐらいか」


 それ、と、嵐対策に皆で使っていた地図とメモを視線で示す。


「こっちの方が先に終わるだろうから、そっちのもやり方を教えてくれたら手伝えるぞ」

「……そうねぇ。様子見て頼むかも」

「おぅ、任せとけ」


 頼むかも、と言ってから、ふと気が付く。


「でも、留守にしてた間、かなりの強行軍で討伐をこなしてきたんでしょう? 休まなくていいの?」


 隣でのんびりカップを傾けている男の横顔を見る。

年相応に増えた白髪と皺、数日ほったらかしたのだろう無精ひげも白いのがある。若い頃からよく知った顔もしっかり歳をとった。それ相応に疲れの回復も遅れてはいそうだが……。顔色は、悪くはなさそうか。


「昨晩、しっかり寝たから大丈夫だ。問題ない」

「タフだねぇ……」

「それが俺の取り得だからな」


 少し羨ましい、なんて言えば横から手が伸びてきた。

いつもと同じ仕草で頭を撫でられる。


「この天候だから、寝ていいって言われたらいくらでも眠れそうではあるがね」

「それはまぁそうね」

「どうせ外にも出られんし、今日明日しっかり食べて適当に寝れば遠征分の疲れは十分とれるさ。……そっちの作業もあるって言っても、嵐の間ずっとやり続けるほどじゃないんだろう?」

「んー、やろうと思えばあれこれあるけれど、絶対やらなきゃなことは今日半日頑張れば大体片付くはず」


 鍋でゆっくり時間煮続けることになるジャム作りなどは、何かと並行作業でもいい。

煮たり塩漬けして瓶に詰める前の、野菜や果物を洗って皮を剥いたり切る作業が終わってしまえば作業全体の八割は終わったようなもんだ。


「お互いさっさとやること終わらせてのんびりしよう。……あぁ、そうだ。詳細は後日話すが、嵐が去った後、少し王都などについて来て貰うぞ」

「今、聞かなくていいの?」

「聞いたらお前のことだからあれこれ考え始めて休めないだろ。今は休め」

「……過保護だね」

「そのために居るからな」


 しれっと言う相手に、肩を竦める。

思い返してみれば、この関係は昔から変わっていない。

共に学んだ仲間たちの中でも、この男は特に私に甘かった。常に気にかけ、こちらに過負荷がかからぬよう調整してくれていたりする。


「……もう何十年も前に成人しているんだけども。そんなに頼りないかねぇ」

「頼りにはしている。……ただ、そうだな。適材適所、だな。交渉事や周り片付けるのは俺にやらせとけばいい。お前はお前にしかできないことをしているんだから」

「……やっぱり、過保護だね」

「かもな」


 よし、やることをやるか、とリドルフィが立ち上がる。

私もつられて、立ち上がった。

思えば、並んだ時に頭一つ分以上違う身長差も、あの頃から変わってない。

なんとなく悔しくなって相手の脛を軽く蹴飛ばす。

リドルフィはこちらの動きなんて見えているに違いないのに素直に蹴られてから、くしゃくしゃっと人の頭を撫でる。私は、その手を払って、ふんと鼻息を荒くする。


「……後で、山盛り玉葱のみじん切りをやらせてあげるから、書類をさっさと片付けちゃってちょうだい!」

「はいはい」


 ……だから、どうしてそこで、にまにま笑っているんだい。

機嫌良さそうに笑いながら二階に書類を取りに行った男を見送って、私は洗い物を流しにもって行く。

しっかり洗ってから布巾で拭き、カラトリーは明かりに翳して汚れが残っていないのを確認する。


 そして食器棚に片付けてから気が付いた。

ご馳走様を言いそびれた。パンケーキを焼いて貰ったのに。


「……なんだか、ものすごく負けた気分になるのはなんでなのかね」


 小さくため息をつく。

とてもとても、悔しい。




少し前に話題になっていた、頭を撫でること。

結局は相手次第だと思うのですよね。

互いに信頼関係があって普段から触れ合う仲なら、自分を見てくれているという安心感を感じる素敵なふれ方かな、と。


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