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夏の嵐21


 私を食堂まで送って、「また後で」と言って、リドルフィは一度自宅に帰って行った。

……といっても、彼の自宅、村長屋敷はこの食堂のすぐ斜め裏なのだけども。


 食堂のドアを開けようとしたら、扉の前に見覚えがある籠が置いてあった。

中身はスモモ。トゥーレが収穫したものだ。

きっとジョイスが、ジャムにする約束の話を聞いて、トゥーレを送るついでにここに置いていったのだろう。

村の広場は正門の前。門から入って村の奥に行くなら、必ず通る場所だ。

そして、この食堂は、その広場に面して建っているからね。

嵐で引き籠っている間に、時間を作って煮ておこう。

たしか、他にも嵐の前に収穫した処理待ちの果物が何種類かあったはずだ。

天候が落ち着いたら、夏本番が来る。

果物のシロップを水で割ったジュースや、緩く作ったジャムをかけたかき氷は、きっと喜ばれるに違いない。


 籠をもって我が家に入ると室内に明かりをつけ、濡れた服やら髪やらから簡単に魔法で水気を飛ばした。

そのままでいたら家の中のあちこちに水たまりが出来てしまうからね。

こういう時、魔法が使えて良かったとしみじみ思う。

人によっては、この手のいわゆる生活魔法も苦手だったりする。

幸いなことに、私は、魔法全般は得意な部類だ。……代わりに運動は苦手だけども。

 スモモの籠は食堂のカウンターに置き、一度、室内を見渡した。

嵐対策のチェックリストや地図は、食堂を出た時のままの状態。

他も特に変わったところはない。

強風対策で窓という窓の鎧戸を閉めてしまっているから室内は暗いが、他はいつも通りだ。

ふと見れば、カウンターの目のつく位置に紙袋が置いてある。

「お疲れ様! 念の為、風邪薬と熱さましを置いておきます」なんてメモがついている。

中を見たら薬瓶と一緒に蜂蜜が一瓶、入っていた。

こういうことをしてくれるのはダグラスだね。

多分、私のところに置いてあるってことは、ノーラ達にも熱さまし等を渡してあるはずだ。

怪我をしたことや雨に長い時間濡れたこと、疲れなどでトゥーレが熱を出しても対処できるだろう。

一緒に入っていた蜂蜜は差し入れかな。綺麗な琥珀色で美味しそうだ。後で頂こう。


 雨避けコートを脱ぎながら、私室への扉を開け階段を上っていく。

階段を上がった先、すぐのところにある木製のフックに、脱いだ雨避けコートを掛け、防水加工されたブーツも脱いだ。

置いてあった室内履きに履き替えれば、ふぅと息を吐く。

ブーツの方が安全だが、室内履きの方がずっと楽だからね。

ついでに靴下も脱いでしまった。

水気は魔法で飛ばしたけれど、一度は雨で濡れたりしたものだ。

早く着替えて、さっぱりしたいところだけども……。


「……お風呂の時間はあるのかね。私は」


 後で来ると言われているが、どれぐらい後なのかがさっぱりわからない。

彼は王都から帰ってきてすぐに来たようだったから、適当に放り込んだだろう荷物を片付けてくるぐらいの時間はかかるのだろうが……。多分、彼の性格を考えると、適当に着替えだけ持ってさっさとこちらに来るような気もする。

仕方ない、お風呂は後の楽しみだ。

 私室とは違う扉を開ける。

一応はベッドもあるし、客間になるのだろうか。予備の部屋。

大きさ的には私が私室に使っている部屋の方が広いが、こちらは家具が少ないので広く感じる。

毛足の長いラグが敷いてあり、大きいベッド、書き物机と椅子、それに背の低いチェストが一つ。

軽く見渡して特に問題がないと判断すれば、チェストの一番下の段からシーツと枕カバーを出してベッドメイクする。

普段から風通しはしてあるし、簡単な掃除はしているから大丈夫だろう。

ぽふぽふと枕を整えて上掛けを置いたのと、階下から「邪魔するぞー」なんて声がかかったのは、ほぼ同じタイミングだった。リドルフィが来た。やっぱり早かったね。


「はーい。水気払ったら上がってきて」


 どうせ着替えなどの荷物を持ってきているはずだから、食事の前にこっちに来させた方がいいだろう。

ほどなくして、とんとんとんと階段を上がる足音が聞こえてきた。

年や体格を考えると軽い足音だ。

勝手知ったるなんとやらで、迷いもせずにこちらの部屋にくれば私の姿を見つけて、片手を上げた。


「それじゃ、嵐が治まるまで世話になる」

「はいはい。食事はもうちょい後でいいね? お風呂は?」

「あぁ。入ってない。お前もだろ」

「そんな時間はなかったからね」

「一緒に入るか?」

「入らないっ!!」


 なんで一緒に入らなきゃならないんだ。

……というか、なんでそんなに上機嫌なんだ、この人は。

こちらが噛みつくように返せば、そうか、残念だなとか笑っている。

なんなんだい、まったく。




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