表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/250

食堂のおばちゃん5


 夕方近く。

私は、約束した料理を持って、畑近くの農家、リンの家を訪ねていた。


「こんな感じかねぇ。ミリムさん、どう?」


 モーゲン村最年長のミリムの背にあてていた手をそっと離し問う。

痩せた背は骨ばっていて肉はほとんどない。

長年の農作業で腰も曲がり始めている。

それでも毎日きちんと自分のことは自分でし、おまけに畑仕事までやってのけたりする。

 村を再建してすぐの頃に戻ってきて、真っ先に農業を再開してくれた人。

女手で娘と幼い孫たちを守りながら、あの戦乱で荒れてしまった土地を開墾し、豊かで実り多き場所にしてくれた人。

 今でこそ村には他にも農家があり、収穫量もそれなりに安定している。

でも、立て直したばかりの頃は、村で野菜と言えばほぼ全てミリムが育てたものだった。鶏や鴨も飼って育て、卵や特別な日のための鶏肉を用意してくれたのもミリムだった。

暑い夏の日も、凍えるような冬の日も、毎日毎日畑を守り続けてくれた人。

この村をずっと支えてきてくれた、そんな背中は小さいのにしっかりと存在感がある。


「あぁ、いいねぇ。痛いのがおさまった。ありがとう、グレンダ」

「無理しちゃダメだよ。痛みを散らすことは出来ても、こういうのは治せないんだから」

「はいはい。……芋が呼んでたから、つい、ねぇ」

「そういう時はリンに知らせなさいな。なんだったら他の若いのに手伝わせてもいいんだし。……今きてる若い子たちだって、ごはんとオマケぐらいで雇われてくれるよ、きっと」

「そうだねぇ」


 次はそうするかねぇ、なんて笑っているけれど、きっとまた自分で芋掘りをしてみようとするのだろう。

なので、本当にそうだよ、せめてトマトやキュウリの収穫ぐらいにしておきなよ、なんて念を押してみたりする。多分効果はないだろうけれども。


「そうだねぇ、若い冒険者には……」

「うん?」


 何か違うことを思いついたらしい様子に、促すように相槌を打てば。


「芋掘りもだけど……リンの婿もやって欲しいところなんだけどねぇ」

「……ばあちゃんっ!!」

「婿、ねぇ」

「うん、婿がねぇ」


 出てきたのはそんな話。

隣の部屋で繕い物をしていたリン本人にも聞こえていたらしい。

即座に悲鳴めいたリンの声が飛んできた。

その様子が可笑しくて、私もミリムも笑う。


「私はまだいいの! 畑大きくする方を今はやりたいし!! 兄さんの世話もみなきゃだし!」

「確かに先にどうにかしなきゃはジョイスだね」

「バーンたちじゃ、ちと若過ぎるしねぇ。……そういや、今日はジョイスとハンナはどうしたの?」

「……若いのをじっくり育てるのも案外アリかもしれないよ?」

「兄さんは柵の修繕が必要だってリドおじさんのところに行ってる。母さんはトマトの加工かな。……ばあちゃん!!」

「なるほど、それはたしかに……」

「はいはい、そんな大きな声を出さなくても聞こえているよ」


 二十歳過ぎのリンに、十代後半のバーンたちでは少し幼過ぎるなんて言えば、楽しげに老婆が笑っていた。

腰の痛みがひいたことで気分もいいのだろう。孫をからかう様子に面白がってこちらものってみせれば、その孫からジト目で見られた。

おぉこわい、と大げさに首を竦めるミリムに合わせてこちらも笑う。

ただまぁ、リンとジョイスの伴侶問題は確かに気になるところではある。

 彼らの生まれた頃はあの戦いの真っただ中。

子育てなんてできるような場所は限られていたから、リンたちの世代は極端に人数が少ない。

中々悩ましいところではある。

 とはいえ、あまりからかっているとリンが本気で怒りだしそうなので、そろそろ話題を変えようか。


「……柵ねぇ。子育て中の獣でも来たかねぇ」

「かも? 柵の下を掘ろうとした形跡があったって言ってたから、イノシシとかじゃないかなー」

「掘ってるならイノシシかもしれないね。ウサギか……」

「ウサギってサイズじゃないみたい」

「カエルもだけど、最近少し増え過ぎてきてるみたいだからねぇ」


 あの戦いでめちゃくちゃになったのは人が住む場所だけではなくて。

森が焼けたり土地が汚染されたり、地形が変わってしまったところもある。

本来いなかったはずの魔物によって生態系も随分ダメージを負った。

それがやっと回復してきて……やや回復し過ぎてる動植物も出てきていて。


「……そういえば、あのカエルも干し肉にしたら売れないかって母さんが言ってたよ」


 どうやらハンナはトマト以外にカエルも干したいようだ。


「……商魂たくましいねぇ」


 カエルの干し肉。

確かに大きなものは中型犬ほどのサイズになるイエローフロッグは大きくて可食部も多い。

カエルが多く発生して冒険者に討伐依頼を出すこの時期は、倒したカエルをしっかり回収してきてもらい、村のタンパク源にもなってる。

味は他のカエルと同じで淡泊な鶏肉みたいな感じだからやれなくはないだろうが。

果たしてカエル肉にそこまで需要があるものだろうか、と、私は首を傾げるのだった。



回を追うごとに出てくる村人が増えてきました。

こっそり名づけに困ってるわたくしです。

諦めて村人全員分、先に設定を作ってしまおうかどうしようか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ