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夏の嵐17


 泣きじゃくるトゥーレにしがみつかれながら、静かに去って行った白銀の獣を見送って。

私は、改めて、辺りを見渡す。

落ちている籠にはすでに十個ほど収穫されたスモモが入っていた。

持っていたトゥーレが木から落ちた拍子に転げたらしい実も、いくつか周りにある。

見上げれば、比較的赤くなった実がまばらになっていた。

昨日か一昨日、リンたちと一緒に回った時に、時間があればこれらの実も収穫しようなんて話が出ていたのかもしれない。

少年が親と離れてやっていた、ここ数日のお手伝い。

それは幼い少年に自信と責任感を芽生えさせ……、結果、判断を誤り、一人でここまで来てしまった、というところだろうか。


「トゥーレ、皆が心配している。……帰ろう」


 しくしくと首元で泣いている子の頭を撫でてやり、言う。

お説教は、家で心配している母親のノーラか、今も他のところでトゥーレを探しているだろう、父親のセアンの仕事だね。


「歩けるかい?」


 小さく頷いた幼子の様子を確認するように、その目を見て。

それから、膝の上からそうっと下ろした。

少年はしゃんと立ち上がって、さっきまで負傷していた腕を確認するように撫でたりしていたけれど、もう一度こちらを見て、しっかりと頷く。


「ぼく、あるけるよ」

「そう、よかった」


 そろそろ日が暮れる。暗くなる前に早く帰らねば。

それに半刻で戻るとジョイスたちに言っていたのに、これだと村までの間に過ぎてしまいそうだ。

折角見つけたのに、このままだとみんなを余計に心配させてしまう。

でも……。


「折角だからあの籠も持って帰ろう。私が持ってもいいかい?」

「うん……」


 トゥーレはまだ何度かしゃくりあげたりしながら、それでも自分で中身入りの籠を拾ってきて私に差し出してきた。

それを預かって、うん、と頷いて見せる。

やり方は間違えてしまったけれど、少年が頑張った証拠の品だ。

持って帰ってやりたい。


「それじゃあ、これはおばちゃんが預かったよ。このスモモはジャムにでもしようね」


 きっと美味しいよと笑って見せて、右手で籠を持ち、左手は少年と手を繋いだ。

小さな手はぽかぽかと温かく柔らかい。

 本当に、見つかってよかった。

無事でよかった、と、しみじみ思いながら小さな歩幅に合わせた速度で歩き出す。

出来るだけ自分の足で歩いて貰おう。

私の体力的なものもあるけれど、主に、トゥーレ自身のためにも。

まだ、ギリギリそれも叶うから。

頑張ってお手伝いをした少年は、ちゃんと収穫物を持って自分の足で歩いて帰るのだ。


 幼子に合わせるため、どうしてもゆっくりになる、歩調。

初めは手を繋いでいたが、時折吹く強い風から守るために、途中から小さな肩を抱くようにして歩く。

 次はみかんの木だね、とか、果樹園に植わっている植物の話など他愛もないことを話しているうちに、少年の涙も止まった。

雨に濡れながらも、どの果物が好きだ、なんて笑顔で話してくれる。

ここ数日のお手伝いでどんなことをしたのか、どんなことを言われたのか、たくさん話してくれる。

その一つ一つに相槌を打ちながら、私も自然の笑顔になっていた。

 本当に、本当に、見つけられて良かった。

悲しいことにならずに済んで、本当に、良かった……。




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