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夏の嵐15


 私に背を押されて、二人はそれぞれに走っていく。二人を見送って、私も急ぎ、歩き出す。

本当はあの二人と同じ勢いで走れたらいいのだろうが、そこは流石に無理だ。

柵沿いに歩きながら、ついでに結界石の場所を確認だけはしておく。

今はやれないが、後で残り二個もどうにかしておきたいところ。

 門番のいる村の門までくれば、畑に行くために先に通ったジョイスが少し話をしたのだろう、お気を付けてと、割と本気で心配している声で言われた。

多分、門番のラムザも本当は自分が探しに行きたいと思っていたりするのだろう。

今日は彼も他を手伝って何度もこの持ち場を離れていた。もし門の外にいるのだとしたらと責任を感じているのかもしれない。


「大丈夫。きっと、すぐ見つかるよ。ここを頼むね」


 その言葉が気休めに過ぎないと知っていても、私は口に出して言う。

口に出した言葉は、想いは、力になる。

信じる者が多ければ多いほどに。

多分、こちらの意図が分かったのだろう。信じてます、という言葉と、いつもと同じ敬礼が返ってきた。

私も、行ってくるよ、と軽い口調で言って後にする。

無理のないギリギリの早足で、村の外れにある果樹園を目指す。


「トゥーレーー!! いたら返事をおしー!」


 風の音にかき消されないように、大きな通る声で名を呼ぶ。

まさかこんなことに、儀式などで使うために昔覚えた発声法が役に立つなんてね。

 雨はもうかなり強い。

風も着ているコートがバサバサ煽られるぐらいの強さがある。

こんな雨風の中、まだ祝福も貰っていないような小さな子が一人……。泣いていないと良いのだけども。きっと、相当心細い思いをしているはずだ。

出来れば、家のすみっことかで眠りこけていたなんて、オチが付いてくれるのが一番良い。


「トゥーレーー!!」


 門から延びる王都への街道。それをすぐに西へと折れる農作業道に入る。

村の東にある湖から流れ、街道を横切る川の橋の少し手前だ。

 モーゲンの村は、ある意味この川にも守られている。

村の正門がある南側は、この川を渡らないと村の敷地には入れない。

畑も、牧草地も果樹園もあるのは全てこの川の北側だ。

……トゥーレが門の外に出ていたとしても、一人で街道の橋より向こうには行っていないだろう。

村の子供たちは、大きくなるまでその橋は大人と一緒でなければ渡ってはダメだと教えられているから。


「トゥーーレーー!!」


 念のため、川の方も気にしながら先を急ぐ。周りを見回しながら何度も名を叫ぶ。

村を出たタイミングで発動させた探査の魔法には何も引っかかってないが、万が一と言うこともある。

視界に被さる無数の光点はどれも小さい。この辺りにいる鳥やウサギなどの小動物のものばかりだ。

 幸い、まだ暗くなってはいない。

時折、ざーーっと降ったりはしているし、風も強いけれど、まだ視野がしっかり確保できる。

……でも、この明るさもあと僅かな間だろう。

あと半刻もしたら日が落ちる。そしたら雨雲も相まって一気に暗くなってしまう。

そうなる前に何としても見つけなければならない。


 川は、まだいつもより少し水量が増えたぐらいで済んでいる。

普段は大人なら橋が無くても歩いて渡れるぐらいの小川だが、これから本格的に嵐が来て雨が降り続けば、簡単に人を押し流してしまうような濁流になるだろう。

村を興す時やその後の開墾で度々手を入れて、多少のことでは溢れないように治水工事はしてある。でも、それでも心配にはなる。

特にこんな、子供が一人行方不明なんて時は。

 川沿いの農作業道を辿っていけば、北から川へと流れ込む用水路に当たる。

普段ならこの上流で畑などに水を回している用水路だが、今日の作業で畑などへの水門は閉じたと言っていた。

その割にいつもと同じぐらいの水量……というよりやや少ないように見えるが……もしかしたら、用水路そのものの入り口もこちらに必要以上の水が流れないように調整したのかもしれない。

その用水路も気にしつつ、小走りに木製の橋を渡る。

この先が、果樹園だ。


「トゥーレーー!! いないかいーーっ!?」


 果樹園に植えられている木は、この土地に何が合うのかを試していたのもあって雑多だ。

手前には背の低いイチジクの木。

良く茂っている何種類もの柑橘類の木。

私は身をかがめて木の下に子どもが隠れていないか探す。

……最悪のことが起きていたら、探査の魔法に引っ掛からない。

隠れたままでそうなっていないことを祈りながら、木々を一本ずつ確認する。


 まだ色づいていないベリーが鈴なりになっている木。

それよりはやや小ぶりな茂みの木苺の木。

その向こうは、一昨日トゥーレがリンたちの手伝いをしていたサクランボの木だ。

ここに梯子をかけて頑張って実を取っていたと言っていた。

なのに……。


「……っ!!」


 そこまで来て……ふっと、探査の魔法を重ねた視界に、大き目な光点が現れた。

探査の範囲ギリギリ。果樹園の端の方。

私は慌ててそちらへと走り出す。

あの辺りは、確か林檎や枇杷、あんず、胡桃など、比較的背の高い果物の木を植えていたはずだ。

あんずも、確か昨日、トゥーレが収穫の手伝いをしていたと言っていた……。


「トゥーレーーー!!!」


 遠く、誰かの声が聞こえた気がした。



やっと村の周りの地図が頭の中にできてきました……

むしろ、今までちゃんと決まってなかったのかについては気がつかない方向で。(汗)

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