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夏の嵐13


 昼少し前。

雨が、降り始めた。

……といっても、まだ時折、さーっと降ってはすぐに止む。通り雨のような感じだ。

空を見上げれば、雲の流れが速い。

窓から見える木々の様子からすると、少し風も強くなってきたか。

でも、まだ、大丈夫だ。

普段も、これぐらいなら畑仕事などをしている。それぐらいの風の強さだ。

村人たちも雨除けの薄手のコートを着たりして、通り雨をしのぎながら作業を続けている。

 作業リストには、もうほとんどの欄に作業済みの印が付いた。

後は念のための補強だったり、外に風で飛びそうな物が残っていないかの見回りだったり。

酪農家たちは、外に出していた家畜たちを呼び寄せ、小屋へと避難させ終わったそうだ。

畑仕事組は、防風ネットの設置等は終わったものの、もうちょっとだけ粘ると言って追加の収穫をしている。

この後、嵐前最後の収穫をここ、食堂に持ってきてくれるらしい。

「何か美味しいものを作って!」とはリンの言葉だ。

どうやら私は引き籠る期間も、完全な休みではないらしい。


 雨が降り始める前に、村の男たち何人かで手分けをして、食料品などの箱を各世帯に運んで行った。

少し予定より早かったがなんとか用意しきって、今夜の夕食用に作った野菜と肉の煮込みやベイクドポテト等も、箱に入れ、まとめて持って行ってもらった。

夜には皆がもう家から出ないで済むように、ね。

 普段は食堂で食べている人たちのためには、配布した食料をどうやれば美味しく食べられるかのメモまでつけた。例のパスタの茹で方なんかも、だ。

我ながらすごく分かりやすく、それでいて細かなメモだと思う。

これで、ダグラスをはじめとした料理しない人たちも大丈夫なはずだ。作れなかったとは言わせないよ。


 そんなこんなで、昨日までに比べると村全体のバタバタ加減も上がっていたから、昼食時間はかなりばらけた。

作業の合間に早めに食べにくる者。

雨が降っている間に雨宿りを兼ねてくる者。

逆にかなり後になってから思い出したようにくる者。

みんな残り作業を気にしながらの食事なので、自然と滞在時間も短い。

 中にはお行儀悪く作業リストを眺めながら、立ったまま食べている人も居た。……ジョイスとイーブンだ。

その場に子どもたちが居なかったので見なかったことにしたけど、普段だったらお説教だね。

 私の方も、カウンターにホットドックやら玉子サンドなどと飲み物を大量に並べておいて、食べる人は好きに食べるようにとほったらかしスタイルだ。

そうすることで隙間時間を見つけては、この食堂や裏にあるリドルフィの家の鎧戸を閉めてきたり、この食堂の外に飾っていた植木鉢の退避や、新たに持ち込まれた農作物や今日絞られたミルク等を受け取って貯蔵庫に運んでみたり、なんてことをしていた。

ここも嵐対策しなければだからね。


 昼食が粗方片付いた頃、ジョイスを伴って、村全体を囲む柵を回り始めた。

本当は、もういっそ嵐の間、この村全体に守護盾や強化魔法でも展開したいところだが、流石にそこまでは魔力の多い私でも無理だ。

その代わりに、柵に沿って一定間隔に配置された魔除けの結界石の確認作業をする。

雨風は防げないが、少なくとも嵐に紛れて迷い込もうとする魔物はこれで退けられる。

放牧地や畑の大半は含まれていない、人の住んでいる区画だけを囲んだ柵だが、それでもそれなりの長さがある。


「おばちゃん、あとちょっと。三つぐらいかな」

「はいはい」


 よっこらしょ、と、立ち上がろうとすれば、ジョイスが手を貸してくれた。

地に膝をついて祈りの言葉を呟き、結界石に魔除けの術を再度重ねて施す。

ひたすらそんな作業を繰り返し、ぐるっと村を一周。二時間ぐらい。

地道で時間のかかる作業も、そろそろ終わりが見えてきた。

門番のいる村の門ももう見えている。あそこまで行けばおしまいだ。

 本当は私一人でもできる作業なのだが、ジョイスは念のための付き添いだ。

今日はどこの作業も皆、二人以上で行っている。

午後に入って風も強くなってきたし、勢いよく雨が降っている時も増えてきた。

そろそろ皆、自宅に帰さないと本格的にまずそうだ。


「……そろそろこれの後継者も考えなきゃだね」

「……何言ってるの。おばちゃん、あと五十年は生きててよ」

「無茶言うんじゃないよっ」

「……後継者、ねぇ。確かに神聖魔法の使い手さん少ないからなぁ」


 元々光属性はかなり珍しい類の祝福だが、神聖魔法の使い手まではいかない微弱な祝福であれば、まだ少しは居る。

結界石を発動させるぐらいのことであれば、実はリドルフィも出来たりするぐらいだからね。


「村に光の祝福を貰う子がいたら助かるんだけどね。うちは師匠とおばちゃんだけだからなぁ」

「意外と今度トゥーレが貰ってくるかもしれないよ」

「あはは、トゥーレが師匠みたいになっちゃったりして」

「それはノーラが泣くんじゃないかい?」


 今度六歳になる男の子を思い出して言えば、ジョイスがとんでもない想像をしている。

まだあどけなく愛くるしいあの子が、リドルフィみたいなゴリマッチョになるのはあまり見たくない。

げんなりした顔で言えば、雨除けのコートを風でバタバタさせながら、ジョイスが楽しそうに笑っている。


「ほら、次のあった。お願い」

「はいよ」


 柵の前でジョイスが指を差した時……。


「…………誰かっ!!!!」


 緊迫した声に、ジョイスが振り返る。

次の結界石の前で片膝をついたまま、私は走ってくる人を見ることになった。


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