夏の嵐9
翌朝。
少し眠かったがそれなりにスッキリと目覚めることが出来た。
あのタイミングで見回りをしていたセアンには感謝だ。
朝、スッキリ起きられるかどうかは、その日の気分や体調にも繋がるからね。
そういう意味では和む話題をくれたセアンの息子、トゥーレにも感謝だね。
上手く時間を確保できそうなら、今日も子どもたちにおやつを何か作ってもいいかもしれない。
今日もいつも通りの朝食の準備やら対応をして、その合間に自分も食事をとる。
午前中は、食堂に作業報告をしに来る人たちの相手をしながら、昨日納品された食料品などを世帯ごとにまとめたりした。
例年で考えれば、各自が自宅に引き籠ることになるだろう日数はせいぜい二、三日。
でも、物事には必ず例外があるものだし、過去には五日近く閉じ込められたこともあった。
それらを踏まえて、各世帯に大体五日分程度の食料を割り振る。
収穫時などに使う木箱に手書きのメモを貼り付ける。どこの世帯用か、何がどれだけ入っているか分かるように、ね。
木箱には現時点でもう入れることのできる固焼きパンや、話題に上っていたパスタ、瓶詰を詰める。
さらに、生食もできるような野菜や果物も入れていく。
村の全世帯分、二十個の木箱が少しずついっぱいになっていく。
こういう、分かりやすく作業成果が目に見える仕事は良いね。やってて安心感がある。
仕分け作業がほどよく進んだところで、今度は昼食の準備だ。
昨晩考えてメモした通りに、今日の昼食はサンドウィッチだ。
朝持ち込まれた卵を山盛り茹でて潰し、野菜とチーズ、それに塩コショウと酢を合わせてたまごサラダを作る。それを昨日買ってきてもらった柔らかいパンにたっぷり挟んでいく。
ボリュームしっかりのたまごサンドが、大皿いっぱいにできた。
他には、ハムとチーズのシンプルなサンドウィッチ、子供や女性用にジャムとクリームチーズのサンドウィッチ。そして昨日収穫されたサクランボをデザートに添えた。
我ながら美味しそうだと思う。
大体用意できた頃にはちらほらと昼食に人が集まり始め、大皿いっぱいにあったサンドウィッチはどんどん皆のお腹の中に消えていった。
これも分かりやすく作業成果が見えて、いい仕事だね。
しかも、みんなの笑顔まで見ることが出来る。
午後も半ばぐらいの時間になって、今日も子供たちにおやつを食べさせていたところに、ジョイスが帰ってきた。
前情報として聞いていた通り、イーブンとリリスも一緒だ。
「ただいまー、やーっと帰ってこれた…… おばちゃん、疲れたよー……」
開口一番ジョイスがわざとらしくそんな泣き言を言う。
「はいはい、おかえり。……イーブンとリリスもお疲れ様。ちょっと散らかってるけど適当に座って」
「ただいま、また数日世話になるよ」
「なんか、私までただいまって言いたくなるね」
「言えばいいんじゃないかい?」
「そしたら、ただいまです」
「おかえり」
ごく自然にただいまと言っているイーブンにつられて、リリスも笑っている。
いっそこのまま村に定着してくれたらありがたいのだけども。
座るなりテーブルに懐いているジョイスの肩を、とんとんと叩いて起こす。
それは行儀が悪い。横で良い子にババロアを食べているちびすけたちが、ジョイスを見て真似をしたら困る。
身を起こしたジョイスに、こら、と顔を顰めてみせれば、へらりと悪びれない笑みが返ってきた。
「討伐に駆り出されてたんだって?」
「うん。俺、初めてビックホーンと戦ったよ。熊より鹿のがえぐいわ」
先日の双頭の熊もやばかったけども、と、苦笑い。
横でリリスがうんうんと頷いている。
イーブンは、熊も人手が足りてないとかなりきついぞ、とか言っている。
その様子からして、どうやらギリギリの人数でやってきたようだ。
……もしかしてこの三人で倒してきた?
だとしたら……お疲れ様だよ、という視線をイーブンに向ければ、苦笑が返ってきた。
どうやら推測は当たったようだ。
「そういえば、嵐対策してるんだろ。何をやればいい?」
「疲れてるところをすまないね。ダグラスから身軽なのが三人帰ってくるって聞いてたから、高いところの作業が残ってる。頼めるかい?」
「ほい、きた」
「はーい」
「うっす」
三人とも、ダグラスから多少聞いていたのかもしれない。
村でも築年数が経っている建物の屋根の確認や、高いところにある窓の鎧戸を閉める作業を説明すれば、イーブンとジョイスが先に立ち上がった。
続いて立ち上がろうとしたリリスを、二人が止める。
「討伐きつかったからな。リリスは今日は休んでな」
「そうそう。どうせ今からじゃ今日中に全部終わらないから、明日手伝って」
「え……だ、大丈夫だよ?」
「いいから、いいから」
様子からして、到着前にイーブンとジョイスの間で決めていたらしい。
立ち上がりかけたリリスの両肩を後ろから下に押して、もう一度座らせたジョイスが言う。
「おばちゃんに討伐の方の話でもしてやって。何食わぬ顔してるけど気になってるはずだから。……おばちゃん、後よろしくー」
「はいはい。二人とも無理ない範囲で頼むね」
心得ている言う風に片手を上げて出ていく二人。
それを見ていた子供たちが、かっこいいーとか騒いでいる。
多分、ちびっ子たちからしたら魔物の討伐にいくのも屋根の修繕にいくのも、どっちもヒーローなのかもね。
「さて、リリスもおやつの時間にしたらいいよ。よく帰ってきたね」
一度厨房に戻っていた私は、子供たちにも出してやったサクランボの実がいっぱいのババロアを、リリスの前にとんと置いた。
2回分に分けるか、1回分にするか迷って1回分にまとめる方を選んでみました。
ババロア、この世界にゼラチンはあるかしらと考えた結果、普段から肉も食べてるのであるだろうと結論。って事はゼリーもきっと食べていますね。
海はそんなに近くないので寒天はあるか怪しいかも。
サクランボののった濃厚なババロア、私が食べたいです。(笑)




