夏の嵐5
午後、入れ代わり立ち代わりに来ていた村人たちの昼食も大体落ち着いて、しばらくした頃。
私は、やっと一息入れる事が出来た。
朝からやっていた村全体の夕食の準備もほとんど仕込み終わって、一安心だ。
本当は、今から明日に備えた方が良いのだろうが、今はとりあえず休憩。
厨房から離れ、地図が広げてある大テーブル近くの椅子に座れば、ふぅぅと深く息を吐いていた。
次の嵐の時は、もう少し楽に乗り切れるように炊き出し担当にもう一人割り振って貰うか、何か対策を考えよう。
ふと窓の外を見れば、まだ空は穏やかだ。
青い空に夏直前の強めの日差し。ぷかぷかと浮いている雲は呑気な感じがする。
窓の外からは、遊んでいる小さな子どもたちの、きゃいきゃいと賑やかな声も聞こえている。
その声を聞いていると、自然と頬が緩むのを感じた。和むね。
「あぁ、そうだ」
思いついた私は立ち上がる。
昼食のサンドウィッチに使ったパンの端っこ。何かを挟むには小さかった部分を、厨房にもって行き、それを一口サイズに切っていく。
残った部分だから多少形が歪になるが、気にしない。
要は食べられたらそれでいいからね。
フライパンに、ヘラでぽいと少し多めにバターを入れ、弱火で溶かす。そこに今切ったパンをばらばらと入れた。
後は火加減に気を付けながら、カリカリになるまで炒める。
厨房の中にふわっとバターのいい香りが満ちて、それだけでも美味しそうだ。
最後に砂糖を回しかけて馴染ませながら、美味しくなーれ、食べたちびっ子たちはみんな元気いっぱいになーれ、と祈りを込めておく。今、このタイミングでケガをしたり寝込まれたりしたら、それこそ大変だからね。
そうして、フライパンの中身をざらざらと木皿に盛った。
香ばしくて甘いラスクの出来上がりだ。
「ノーラ! 子どもたちを連れておいでー」
木皿をもって厨房から出て、広場で子ども達を遊ばせていたノーラを呼ぶ。
声をかければすぐに気が付いたようで、彼女は手を振ってくれた。
窓際の方のテーブルに木皿を置いてから、もう一度厨房に戻り、ミルクにヤマモモのジャムを入れたジュースをピッチャーに用意した。
朝同じものを出したノーラには、冷たいお茶にしておく。
「グレンダさん、連れてきたけれどどうしたのー?」
「おやつだよ」
「おやつーー!!!」
「やったぁぁ!」
おやつの言葉に、きゃーー!と子どもたちから歓声が上がった。
うん、いいね、なんだか本当に良いね。
ノーラのところの双子の娘たちに、他の農家の姉弟、酪農家のノトスの息子。全部で五人。
まだ発音も微妙に怪しいお年頃のちびっ子たちが、大喜びでテーブルに着こうとするのを慌てて止めて、先に手を洗わせる。
中には顔に泥や草の汁が付いている子も居たから、濡らした手拭いで拭ってやった。
「ノーラ、お疲れ様。少し休むといいよ」
「ありがとうございます」
見れば、朝からずっと子どもたちの相手をしていたノーラは汗まみれだ。
私はもごもごっと呪文を唱えて、ノーラと子どもたちに浄化の魔法をかけてやる。
ふわっと汗が取り除かれ、衣服が軽くなった気配を感じたらしいノーラから、もう一度お礼を言われた。
子どもたちは……食べるのに夢中だね。気づいてない。
……浄化の魔法を使うなら、手を洗うのもそれでよかったのではないか?って。
いやいや。習慣づけるのは大事だからね。
食べる前には必ず手を洗う、子どものうちからしっかり覚えて貰わないと。
「……皆はどんな感じです? 間に合いそう?」
ノーラは、嵐が来るかもと一番初めに気づいたものの、子守当番になったことで対策作業にはさっぱり手を出せなかった。それもあって心配していたらしい。
「うん。問題なく進んでいるよ。大丈夫」
「良かった……」
子どもたちの隣のテーブルに大人二人で座り、お茶のグラスを傾ける。
私もなかなか作業量が多かったが、一日中このパワフルなちびっ子たちに振り回されていたのだから、ノーラも相当疲れているはずだ。
ノーラは普段から子守をしていて慣れているとはいえ、いつもなら何人かで交代したり二人ぐらいで一緒に子どもたちをみたりしている。だが、今日は急遽の嵐対策で人手が足りず一人で丸一日だ。……あの元気が有り余っている子どもたちの相手を丸一日。私は出来る気がしない。
「そういえば、ハンナとダグラスが、この嵐が過ぎたらまた皆でパスタを作ろうなんて話をしていたよ。今年の小麦の出来は期待できそうかい?」
「えぇ、この嵐で酷い事にならなければ。……パスタ」
あぁ、あれね。と思い出してノーラが頷いた。
「あの蝶々の形、作るの楽しかったですよね。みんなで集まって賑やかだったし。茹でたのも美味しかった」
「あれを乾かして、今回みたいな時の非常食にしようって」
非常食以外にも、売りに出そうなんて話が出ていたと知らせれば、そしたら来年はもっとたくさん小麦を育てましょう!なんて笑っている。タフだね。
こんな風に笑っている人たちに支えられているから、うちの村は穏やかで豊かなのだろう。
ラスクに砂糖ではなく蜂蜜をかけようとして、おっといかんっとなった作者でした。
小さな子には蜂蜜NGですね。
娘が小さい頃はすごく気にしていたのに喉元過ぎたらどんどん忘れてしまう。
嵐の対策をしているはずなのに見通しがたっているからかみんな呑気です。
私自身はパスタの作り方、乾かし方まで調べてどんどん変な知識が増えていってます……。




