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夏の嵐1


 これは嵐になるかもね、なんて話が出てきたのは、討伐の宴会をやった数日後のことだった。

空模様を読むのが得意なノーラによると、風が違うのだという。


 セアン・ノーラ夫妻は、穀物を専門に育てている農家だ。

十五年ほど前モーゲンに移住してきてくれた時には、村の皆でそれはもう熱烈に歓迎した。

小麦などの穀物を自給自足できるというのは、本当に安心できるからね。

以前はミリムの畑でも幾ばくか小麦を育てていたけれど、ノーラたちが移り住んできたのを機にやめた。穀物類はノーラたちに任せ、ミリム一家は扱う野菜を増やし、果物の栽培にも本格的に手を出し始めた。

その後にも、もう何世帯かの農家が移り住んでくれた。

酪農家のノトスが弟子をとって農場を大きくしたり、羊飼いの一家がやってきて羊毛の生産を始めてくれたりもした。小さな工房もできたりして、ゆっくりと人が増えていった。村の中で収穫できる物や作れる物も段々に増えていった。

おかげで、モーゲンは、その村の規模の割に、豊かだ。

 人が増えていっても、モーゲンは長閑なままだった。

村長リドルフィが、どっしり構えていることが大きいのかもしれない。

作物の収穫時期には、村人みんなで手伝い合った。

子どもたちも親に限らず皆で協力して世話をする。

誰かが困れば、あちこちから助けの手が差し伸べられた。

モーゲンは、そんな、穏やかで優しい村に育った。


「グレンダさん、どうしよう! 嵐が来るかもよ。それもちょっと大きなのが」


 ノーラは普段、午前中には食堂にあまり来ない。朝食は自分で作るし、午前中は畑の世話で忙しいからだ。そんなノーラが珍しく昼前にやってきたと思えば、開口一番慌てたように言ってきた。

彼女がなぜ私に言いに来たかというと、村長のリドルフィも次期村長のジョイスも不在だからだ。

宴会の翌日、リドルフィは冒険者たちと一緒に王都に向かった。

そして、その当日に馬を飛ばして帰ってきたと思ったら、弟子のジョイスを連れてまた行ってしまった。

魔素溜まり関連でかなり大きめの会議が開かれるから、経験を積ませるためにも同席させたい、とのことだった。

曰く「俺らが居なくてもグレンダが居れば、何とかなる」

……まったく、適当なことを言って投げっぱなしは勘弁して欲しい。

でも、まぁ、森に問題がありそうな魔物や獣はもういないのも確認済みだし、多少のならず者がやってきても、今のこの村なら、門番のラムザと私で確かに対処できる。

そもそも最近はそういう襲撃なども減って久しい。

多分、リドルフィの存在がそれなりに知れ渡ったからだろう。

何も、ならず者たちだって、そこらの冒険者よりも腕が立って、何かと噂に事欠かない恐ろしい村長のいる村なんて襲いたくはないだろうからね。


「嵐、かい。……いつ頃?」

「うーん、三日後ぐらいかなぁ。……多分、明後日ぐらいにはもう風が結構強くなってくると思う」

「……ふむ」


 朝の仕事をしようと思って畑に出た時に、気が付いたのだという。

とりあえずお飲みよ、と、先日作ったヤマモモのジャムをミルクで割ったものを出してやる。

受け取ったノーラは一口飲んで、甘くて美味しい、と笑顔になった。

それでも、不安そうに窓から空を見上げる。


「ちょっと強い雨ぐらいで済めばいいのだけど……それじゃ済まない気がするのよ」

「とりあえず、皆に知らせるかねぇ。……よりによってリド不在の時に」

「……グレンダさん、おはよー! 今日の持ってきた……って、ノーラさんもおはよう?」


 私が言いかけたところで、また扉が開いた。

野菜のたっぷり入った箱を持ったリンが元気な挨拶と共に入ってきて……珍しい、と、目を丸くする。


「リンちゃん、おはよう」

「おはよう~! あ、それ美味しそう。私も……」

「リン、来て早々悪いんだけど、それを置いてみんなを呼んできてくれるかい? 嵐が来そうだって」

「へ? はいっ うわー、嵐かー……」

「うん、ちょっと良くない風が吹いてるの」

「ジュースは後であげるから、頼んだよ」

「はーい。行ってきまーす!」


 リンは、すぐに野菜いっぱいの箱を置いて、素直に食堂から飛び出していった。

その若い背中を、私は見送る。

兄のジョイスに似て、リンもこういう時の行動は早い。頼もしい限りだ。


「私もノトスさんとことか、あちこち声をかけてきます。グレンダさん、これ、ご馳走様」

「どういたしまして。私は相談するための準備をしておくよ」

「えぇ、お願いします」


 彼女が飲み終わったグラスを受け取って、小走りに去っていく様子を、私は見送った。

グラスを洗って片付けながら、小さく息を吐く。

嵐、か。

酷くならないと良いのだけども。

それにしても、本当になんでこのタイミングなのやら。


「リドもジョイスも、さっさと帰ってきてくれないかしらねぇ……」


 なんだかんだと頼りになる村長とその弟子の不在に、ついそんな言葉がこぼれてしまうのだった。



2話目は1話目ラストシーンの数日後からとなりました。

初っ端から新キャラ登場です。


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