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見習いの少女と雷


このエピソードより2話目になります。


 ぴしゃん、と、カーテン越しに窓の向こうが眩く光った。

次いで、ほんの一瞬後に、ガラガラドシャーンと物凄い音が鳴り響く。

建物を揺らすほどの大音量。

もしかしたら、すぐ近くどころか、この建物のどこかに落ちたのかもしれない。


 少女は、二段ベッドの下の段で、布団を頭までひっかぶっていた。実家から連れて来たクマのぬいぐるみと一緒に、小さく丸まって、震えている。

頑丈な建物だから、きっと大丈夫、絶対大丈夫、と、自分に言い聞かせても震えは止まらない。

ぎゅぅと目をきつく瞑っていても、夏用の薄い掛け布は光を通してしまって、瞼越しに稲光に晒された。耳を両手で押さえていても雷の音は防ぎきれなかったし、何より鳴るたびに、地響きみたいな振動がくる。しかたないから、クマのお腹に顔を強く押し当てて、布団の中で小さくなっている。

せめて、誰か他にこの部屋の住人が居れば良かったのに。

そうしたら話すことで恐怖を紛らわせたり、一緒にくっついて眠れていたりしたかもしれない。

でも、残念ながら、この部屋には少女一人しかいない。

二段ベッドが二つもあり本来なら四人部屋だったはずのここ、見習い用の女子部屋には今現在、一人部屋状態だ。男子の方は二部屋あってどちらも満室なのに。

今、学校には女子は自分しかいないのだ。


「……ひっ」


 また、光った。

来る!!と、身構えるのと、落ちたのはほぼ同時だった。

ドドーーンと派手な音が響き渡る。


「もうやだぁぁぁ……おうち帰りたいよぉ……」


 つい、泣き言が零れた。


実家だったら、こんな時に一人じゃなかった。

毎晩のように妹たちとくっついて寝ていたし、こんなふうに雷が鳴る日や風の強い日は、必ず母さんも一緒に居てくれた。

大丈夫だよって三人まとめて抱きしめてくれた。

でも、ここには誰もいない。




 六歳の誕生日に、街の神殿で祝福を受けた。

他の子どもたちと同じように。

どんな祝福を貰えるのか、とても楽しみだったし、そんな歳になった自分が誇らしかった。

母さんが用意してくれた新しい服を身に纏い、父さんと母さんの二人に手を繋いでもらって、神殿に行った。

いつもなら妹たちがいるけど、今日だけは両親を独り占めだ。

両方の手を繋いでもらえるのが嬉しくて嬉しくて、手をいっぱい振りながら歩いた。

初めて来た神殿で綺麗な天井や壁のレリーフを見ながら待っていたら、あっという間に呼ばれて、奥の特別な部屋に通された。

そこは、子どもたちが祝福を受けるための部屋。

司祭様以外は祝福を受ける子しか入れない。

ドキドキしていたら、司祭様は大丈夫だよって笑って頭を撫でてくれた。

特別の呪文は私の知っている言葉ではなくて、意味はさっぱり分からなかったけれど、言われた通りに唱えた。ただただワクワクしながら、司祭様の前でお祈りをした……。


 ……その後は、あまりにも慌ただしかったから、よく覚えてない。

私が受けた祝福を見て、司祭様がものすごく慌てていた。

お祈りの部屋から出た後に知らされた父さんも母さんも、やっぱりめちゃくちゃ驚いていて。

一度は家に帰らせてもらったけど、その三日後は迎えが来た。たった一人、遠い街に行く馬車に乗せられた。

なんでも、私の貰った祝福は、私たちのいた街では誰も教えることができないぐらい珍しいものだったらしい。

貰った祝福を使いこなすためには、特別な神殿で修行しなきゃいけない、って。

周りの皆がすごい!って、私のことを褒めてくれた。

司祭様や父さんも親戚のおじさんたちも皆、ものすごく名誉なことだよって言ってくれた。


 ……でも。

夜、こっそり起きたら、母さんが泣いていた。

遠い神殿に修業になんて行かせたくないって。

泣いている母さんを、父さんが何度も慰めていた。

本当は私も行きたくなんてなくて、泣きたかったけれど……我慢した。

だって、私が泣いたら母さんもっと困ってしまうもの。

私は、おねえちゃんだから、泣かないんだ。


 父さんと母さんにいっぱい抱きしめて貰って、妹たちを、ぎゅーって抱きしめて。

祝福を受けた時の、お気に入りになった可愛い服を着て。

腕には大事なクマのぬいぐるみを抱いて、鞄には沢山好きなものを入れて貰って。

そうして、神殿に行く馬車の窓から、私は、笑顔で皆に手を振った。




「……っ」


 自分の言ってしまった言葉にびっくりして、少女は息をのんだ。

帰りたいなんて言ったら、皆を困らせてしまう。

……でも、雷はまだまだ止みそうになくて、強い雨や風で窓ガラスもガタガタ鳴っていて。

怖くて、怖くて、涙が出た。

掛け布の中でぎゅぅとクマを抱きしめる。


「おーい、ちびすけ、大丈夫かー?」


 ひょいと掛け布の一部が外されて、覗き込まれた。


「……っ!!!?」

「あー、やっぱり泣いてたか」


 そうだよなー、雷すごいもんなー、と呑気な声。

吃驚して少女が顔を上げた先、あの日以来何かと構ってくる少年が笑っていた。


「女子は一人だもんなぁ。俺の部屋なんて、今、先輩たちがみんな集まっててさ。これなら教官に起きてるのバレないって、みんなでゲームしたりお菓子食ったりしてるぜ」

「……そ、なの?」

「うん、そう」


 神殿には見習いの子どもたちがいるけれど、その中でも少女は一番小さくて、目の前の少年はそのすぐ上。

彼が先輩と呼んでいる男子たちは、もう十二歳とか、一番上は十八歳とか、少女にとってはかなり上だ。

彼らは、雷に怯えることもなく、大人たちは忙しそうだからと、ここぞとばかりに夜更かしをして遊んでいるらしい。


「ほら、おいで。今行けばお菓子分けて貰えるぜ、きっと」


 差し出された手を掴めば引っ張られて、よたよたと二段ベッドから転げそうになれば、ひょいと抱き上げられた。

二人の年の差は、四つほど。

まだ小さく軽い少女を抱き上げて、少年は笑う。


「顔、べしょべしょじゃないか。……もっと早く来てやれば良かった、ごめんな」


 ほら、拭いて、と、くしゃくしゃのハンカチで拭われ、少女は慌てて顔を隠す。


「……べしょべしょじゃないもん」

「いーや、べしょべしょだったな!」


 泣いていたのは本当だから反論に困って、手の近くにあった少年の髪の毛を軽く引っ張った。

少年は怒るでもなく、わははと楽しそうに笑う。


「ほら、友達も持って行こう。早くいかないとお菓子食べきられちまう」


 そう言って、掛け布からはみ出ていたクマのぬいぐるみを持たせてくれた。




 その後は、雷なんて気にならなかった。

連れて行ってもらった男子部屋には、もう片方の部屋の男子たちも集まっていて。

そこで少女はお菓子をわけて貰ったり、分からないなりにゲームに混ぜて貰ったり。

皆に構ってもらい、たくさん甘やかしてもらった。

 皆、親元を幼い時に離されて、厳しい訓練を一緒に過ごしている仲間だ。

六歳から十八歳ぐらいまで。歳の差はかなりあるけれど、仲間意識もあるし連帯感も強い。

少女は学校に慣れるのに必死で気が付いていなかったが、一人だけ少し年が離れていてしかも女の子の少女を、気にかけ、心配していた者も多かったらしい。

少女は、迎えに来てくれた少年共々寝落ちする直前までたくさん笑って、嵐の夜を楽しく過ごした。


……翌朝、全員まとめてお説教を食らったことまで含めて、とても楽しい想い出となった。






予定していたキャラ設定の見直しが終わりまして、前エピソードまでの調整を行っている最中ですが、2話目を開始することにしました。

書け!と何かが囁いてるので、素直に書きます。(笑)

そんなわけで2話目です。

リアルでもここ最近雷が鳴っていることが多くて、そうかと思いネタにすることにしました。

初っ端は懐古シーンからです。(……ってばれてますよね?)


1話目の調整の方は終わりましたらまた後書きスペースでお知らせしますね。

口調や呼び方の整合性とってみたり、説明などを足したりとちょいちょい直していたら2割ずつぐらい文字数が増えたりしています。

もしご興味がある方いましたら、調整が終わった頃に読み直してみてください。


では、2話目も引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
もしかしてこの少女は…ふふふじゃ、もう少し読み進めてから結論を出した方がいいかもしれんのう!祝福はきっと、のう?そうじゃろ?ふふふじゃ。
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