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食堂の聖女  作者: あきみらい
第1章
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食堂のおばちゃん3



「グレンダさんー、今日の分もってきたよー」


 開店時間帯なので開けっ放しにしてある扉から、大きな箱を抱えた娘が入ってきた。

栗色の髪を一つにまとめて編み、働きやすさ重視のオーバーオール姿だ。

日々の畑仕事で肌はよく焼けていて、頬にはそばかすが浮いている。

くるりと大きな目は森を思わせる濃い緑色だ。


「……って、バーンたちもいたの。今日は随分早いじゃん」

「……ほっとけ!」


 朝一で仲間がカエル相手に気絶したから帰ってきたとは言いたくない剣士のバーンが、ぷいとそっぽを向く。

短剣使いのアレフは、ちーすと手を振り、魔法使いのクリスは、はははと苦笑いを浮かべていた。


「リン、そこにおいてちょうだい。……あぁ、良い色だね。美味しそうだ」


 厨房から顔を出して覗けば、箱に真っ赤なトマトがいくつも入っているのが目に入った。

カウンターの端を指定すれば、はいよ、と返事と共に野菜の入った箱が置かれる。

どれも今日、村の畑で収穫されたばかりの新鮮なものだ。


「今年はトマトの当たり年みたいだからねー。母さんが干しトマト多めに作って売りに出そうかなんて言ってたよ。ダグラスさん、今度相談にのってやって。母さん、ほっとくとすっごく適当な値段付けそうだから」

「干しトマト、良いですねぇ。しっかり日持ちするように加工して冬に売れば中々いい値に……」

「うん、そういうの言ってやって」


 二人のそんな会話を聞きながらそこそこ大きな箱の中身を確認する。

いつも思うのだが、これ、重くないのかね。リンは毎日運んできているけれども。

箱の中にはトマトにナス、芋、トウモロコシ、それと菜物が三種類ほど。

箱にのせられた小さな籠を確認すれば、一つには小ぶりな枇杷の実が、もう一つには赤黒く熟したヤマモモがいっぱいに詰まっていた。

まるで宝箱のようだね。採れたての野菜たちはぴかぴかでつやつやだ。私はそれを見ながら、どう調理して食べようか考え始める。リンたちが大事に育ててくれた野菜だ。みんなに美味しく食べてもらわねば。


「……ふむ、夜はトウモロコシのスープと、ナスのグラタンにでもするかね。枇杷は酒に漬け込んで、こっちのヤマモモはジャムでも作ろうかな」

「あ、美味しそう。ナスのグラタンいいなぁ」

「リン、後で届けようか?」

「いいの? 嬉しい……! あ、そうだ。グレンダさん、ついでだからその時にばあちゃん診てやって」

「ミリムさん、また腰かい?」

「うん、私やるからやめとけって言ったのに芋掘ってるんだもの」


 料理の配達に分かりやすく喜んだ後、リンは困ったもんだよね、と肩を竦めてみせる。


「そう言ってやりなさんな。やりたいようにやらせておやりよ」

「そうそう。腰ぐらいなら私が何とかしてやれるからねぇ」

「……俺らは治してくれないのに、リンとこのばあちゃんは治してやるのかよー」


 うんうんと中年同士で頷いていれば、しょうもない文句をこぼす若造が一人。

座っていた位置が近かったので、ごんとゲンコツをおとす。


「さっき見たけど怪我はかすり傷だったし、解毒方法も教えてやったでしょう? 甘えるんじゃないの」


 ピシャリと言えば、バーンが不貞腐れた顔をする。

その様子にやっと食べ終わったらしいダグラスがまぁまぁと宥めてきた。


「グレンダ、それじゃ言葉が足らないよ。何で治さないか言わないと誤解されてしまう」


 長年の付き合いでこちらが言わんとすることがわかる雑貨屋店主の苦笑顔に、私はふんと鼻を鳴らした。


「……駆け出しのころに安易に治癒魔法に頼ることを覚えた連中は大概早死にするんだよ。……ほら、こんなところでいつまでも油売ってないで、手が空いてるなら誰かの手伝いをするとか、そこのおじさんに薬草のことを教わるなりなんなりしてらっしゃい」


 こちらの言葉に少しびっくりしたような顔をしている三人組をほらほら、行った行ったと急き立てれば、その様子にダグラスが笑っていた。


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