食堂のおばちゃん31
目的地の少し手前でしょいこから降ろしてもらい、そこからは自分の足で歩く。
普段はこんな奥までは誰も来ないので、あるのは先にイーブンなどが往復した獣道のような跡だけ。
よくもまぁ、こんなところに魔素溜まりがあるなんて見つけたもんだ。
時折、先行するジョイスが木に登ったりして方角を確認してくれているから、迷わない。
本隊先頭のカイルが、邪魔な枝などは切り払って道を作ってくれている。
それでも躓きやすいところに木の根や大きな石があったり、ちょっとした段差をよじ登ることになったりで、ただ前に進むだけでも大変だ。
もっとも私以外の同行者は、現役冒険者やそれに等しい鍛え方をしている者ばかりだ。
私がもたもたしているうちに、少し離れてついてきていた三人組とリリスも追いついてきた。
リドルフィに段差は引っ張り上げて貰ったり、手を借りたりとかなり手伝ってもらったのに、ほんの五分ほど歩いただけで私は息が上がってる。
そう考えると、背負われてるのが正解だったと認めるしかない……。
「よし、着いた!」
転ばないように下ばかり見て歩いていたら、前からそんな声がかかった。
顔を上げれば少しばかり拓けていて、先ほどまでは木々に隠れていた空が見えた。
話に聞いていた通りに広場になった真ん中には、大きな倒木がある。
樹齢を重ねるうちに悪い虫にでもやられたのか、元は幹も太く背も高かっただろう針葉樹が横倒しになっている。
それに巻き込まれたらしい周りの細い木が、太い幹の下敷きになって折れたり割けたりしている。
その、根の辺り。
「……うーん」
つい声がこぼれた。
淀んでいる。
肌がピリピリするような、背筋が、ぞわりとするような、そんな違和感。
あそこには近づいてはいけないと、本能的に感じる。
倒木の根のあたりだけ、視界がどこか歪んでいる。
今日は晴れていて、問題の場所は青空の下だから明るいはずなのに、そこだけ暗く、見えづらい。
「なるほど、ね」
「……そういう、訳だ」
山道を歩いて乱れた法衣とローブを軽く手で払い、私は小さく深呼吸をする。
その様子を見てから、リドルフィが各自に声をかけた。
「そっちの三人はここで待機。……ひよっこたち、そこでよく見ておけ。あれが魔素溜まりだ。これからあれを祓う。お前たちはこれ以上絶対に近づくな。引きずられることもあるから、な」
「……引きずられる?」
「あぁ、自分の意思に関係なく引きずり込まれることがある。念のため三人で手をつないどけ。そしたら一人引きずられそうになっても他の二人が止められるだろ」
「……わかりました」
先日の後だからか、三人とも素直だ。
ある程度分かっているだろうクリスもだが、ほかの二人も神妙な顔で頷いている。
「ジョイス、お前もこっちだ。リリスと一緒にそこの三人守っとけ。大丈夫だと思うが二人とも臨戦態勢で待機」
「うっす」
「了解です」
「カイル、お前は俺とグレンダの護衛だ。」
「承知しました」
カイルの返事の後、皆より少し先に到着していたジョイスが口を開く。
「一応、今、着いてからざっと周りを確認したけど魔物の気配はなし。昨日イーブンと張った簡易結界も壊されてなかったよ」
「ん。確認ご苦労。……浄化だけで済むとは思うが、気は抜かないように」
「はい!」
一応来る前に役割などは割り振られていたが、改めてここで全員に指示が出た。
リドルフィはしょいこを下ろして近くに置く。彼自身も大剣を鞘から抜いて、いつでも戦える体勢になった。魔物は居ないとの報告だが、魔素溜まりでは何が起きるか分からない。警戒し過ぎだなんて言う人はここには一人もいなかった。
全員の目をしっかり確認するリドルフィの様子に、昔と変わってないなと私は苦笑する。
こちらが笑ったのに気が付いたのか、なんだ、という風に視線がきたので首を横に振った。
私も、一度姿勢を正し、目を閉じると両手を体の前で合わせる。
意識を集中し、小さく口の中で詠唱する。
合わせた手のひらをゆっくりとずらしていけば、そこに光が凝って錫杖が現れた。
次第に実体化して重さを帯びたそれを、確かめるように握り、瞼を上げる。
「さて、やりますか、ね」
私の言葉に、皆が頷いた。
今更ですが、そろそろキャラのまとめを作らねば(汗)
体格、髪や目の色、一人称に口調や誰を何と呼ぶか。
大体は決まっているのですが、曖昧にしてしまってる部分もあって書く時に、あれ?どうだったっけ?となります。
書いているうちにブレてしまうことも多くて、あぁ設定表作っとけばよかった……!となるのですが、書かないとイメージが固まらなくて書き出し前には設定表が上手く作れないという……
とりあえず、この章が終わったところで設定表を作って、一度全体の見直しをしようかな。
それまではなんか変なところがあってもご容赦を。




