食堂のおばちゃん30
のんびりと朝食後のお茶を飲んでいれば、次第に人々が集まってきた。
宿に滞在している冒険者たちは皆ここで朝食を食べるし、村人も何人かは朝もここだから、自然な流れ、だね。
私の顔を見れば、それぞれに良かったとか心配したとか声をかけてくれた。
村人たちや古馴染みは、私が本気で術や奇跡を使えば反動で動けなくなったりすることを知っているが、それでも心配はするものらしい。
繰り返される気遣いや労りの言葉に少し居心地が悪くなって逃げ出そうとすれば、リンにすごい剣幕で怒られた。……いや、だってなんだか照れくさいじゃないか。
リンに怒られているのを皆に見られて不貞腐れていれば、諦めろとリドルフィに横から言われる。
なんとなく腹が立ったから、カウンターの下で彼の脛を蹴飛ばしておいた。それすらもどこか楽しそうに笑われたから、もう数回蹴飛ばした。
見つけたという魔物の発生源については、すでに周知され、どう対応するか検討をされていたらしい。
対処に行くメンバーも選抜済みで、後は浄化役の私が起きるのを待つばかりというところまで話が詰められていた。
魔物化してしまった熊の巣穴だっただろう洞窟より、さらに少しばかり森の奥。
倒木で少しばかり拓けた場所にできていた魔素溜まり。
恐らく、そこが今回の原因だ。
戦場に溜まった魔法の残滓や、呪いなどが原因で発生することの多い魔素溜まりだが、時折、何の脈絡もなく自然発生することもある。
そういうものは、今のところ人の知識で予見することは難しい。見つけ次第対処していくしかない。
魔素溜まりを放置しておくと、誤って入りこんでしまった獣などが魔物化してしまったりする。獣が入らなくても凝った魔素から魔物が発生したりなどで、周りに被害が出る。
また、魔素溜まりは時間の経過で、濃度を増したり広がったりすることもある。全く油断ならない。
溜まった魔素については、神聖魔法での浄化が一番推奨される対処法だ。
だが、神聖魔法の使い手は残念ながら元々あまり多くない。しかも、あの戦いでさらに減ってしまっている。
また、その澱み具合によっては、上位の使い手でないと対処しきれない。
溜まっている魔素の量にもよるが、神聖魔法の使い手を確保できなかった場合は、風魔法で強引に魔素を散らしたり、魔道具でそこの場所に結界を張り、一時的に隔離することで応急処置とすることも少なくはない。
その場合も、できるだけ早く神聖魔法での浄化をすることが好ましい。
皆が朝食を摂り終わり、暫くして。
魔素溜まりを対処するメンバーは、村から出発した。
一昨日背負われて通った森の中の道を、途中から横にそれて獣道へと入っていく。
先頭は、身軽なジョイス。
その後に魔物や獣が出てきてもすぐに対処できるカイル、そしてリドルフィと続く。
リドルフィから少しだけ距離を置いて駆け出し冒険者の三人組、そして最後尾にその保護者役でリリス。
後学のため魔素溜まりも見せておこうという話になったようで、現地に向かうのはそんなメンバーになっていた。
今回はイーブンとシェリーは留守番である。
イーブンは昨日現地で簡易結界を張る役割をしてくれたそうだ。その労いとして、今日はお疲れ休みだ。
シェリーの方は、双頭の熊と戦う時に沼地全体を凍らせていた関係で、魔力がまだ回復しきっていないらしい。確かにあれはかなり魔力を使っただろうからね。
本人は大丈夫だから来ると言っていたのだが、周りが休むように説き伏せた。
……で、私は隊列のどこにいるのかって?
「本当に現地まで寝てていいからな」
「……揺れて眠れないよ」
「そうか。はははっ」
壮年マッチョが背負う、しょいこで揺られてる。
確かにもう体力はないし、山登りはごめんだけどね。
なんとなく子ども扱いされているようで微妙な気分だ。
先日と同じ白の法衣姿で、男の背にくくられた椅子もどきに座って、後からついてくる若いの三人とリリスが離れすぎないように眺めながら、思う。
なんで、私はこんな目にあってるんだろう……。
しょいこ、背負子と書くそうです。文字そのままですね。
検索すると子供が背負われてるのばかり出てきました。
リドのおっちゃんとグレンダはかなり体格差があるので、現実でいうところの成人男性が10歳ぐらいを背負ってるぐらいのサイズ感かな、なんて思っています。
多分、自分の足で歩くと主張してたはずなのですが、グレンダは地味に圧しに弱いのでこんなことになったんじゃないかな、と。




