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食堂の聖女  作者: あきみらい
第1章
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食堂のおばちゃん2


 数時間後。


「それで床がピカピカなのか。グレンダ、良かったですね。少し前からワックス掛けをしたいって言ってたし」


 そう言いながらカウンター席で可笑しそうに笑っているのは雑貨屋の店主ダグラスだ。

ひょろりと背は高いが体格は良くない。

人のよさそうな柔らかい雰囲気に愛嬌のある口ひげの中年男である。

男やもめで昔からこの食堂の常連だ。毎日昼になると一度自分の店を閉め、昼食をうちの食堂で食べていく。

彼が村に来て雑貨屋を開いたばかりの頃から、村にいる日は三食うちで食べる。

途中からは今日は何な気がするとか言ってメニューを当ててみせたり、そろそろ何が食べたいとリクエストを出したりもするようになった。

その代わりこっちも仕入れて欲しいものとかは遠慮なくダグラスに頼むけどね。

そんなこんなで付き合いはいったい何年になったやら。


「良くねぇよ。おばちゃんが治してくれたわけじゃないし、タダ働きじゃねぇかー」

「なー。汚したのは入り口からそこまでなのに、ここの広い床、全部モップがけだもんな」

「……迷惑かけたんだから、あれぐらいは当然だよー……」


 下手な訓練より疲れたとぼやいている前衛二人に、困り顔の後衛一人。

それを宥めるように雑貨屋店主は、まあまあと苦笑いし。


「確かにグレンダの魔法は中々のものですが、それであっさり治ったんじゃ次もそれを期待してしまうでしょう? これでハイフロッグの息にはたまに催眠ガスが含まれていて、それを浴びてしまった時にはルコの実が効くって、身をもって学習できたじゃないですか。おまけに薬の相場まで知れた」


 それをちゃんと教えてやるグレンダは偉いなぁ、なんてダグラスが笑っている様子に、私は小さく肩を竦める。

買いに行かせたバーンはこちらが教えた薬草の名前を片方忘れて、雑貨屋に行ったもののちゃんと説明できなかったらしい。

とは言え、モーゲンは小さな村だ。

特に接客業をしている私やダグラスは村に来ている冒険者はしっかり把握しているし、何を頼んであるかも当然分かっている。必要になりそうなものも当然予測がつくわけで。

結果、バーンが薬草の名前を忘れていてもちゃんとそれが出てくるし、分かってないのはダメだと、ご丁寧に指導が入った。バーンは簡単なものなら調薬もできるダグラスから、件の薬草についてきっちり教わることになった。


「そんなんじゃないよ。それこそタダ働きが嫌だっただけ。……ほら、ダグ、いつもの」


 男の前に野菜とソーセージの具沢山スープと丸パン、それに果物のシロップ煮を並べる。

今日の昼の日替わり定食だ。あんまり胃腸の強くないダグラスにはお腹に優し目メニューの方。


「またそんな憎まれ口を。……おぉ、今日は枇杷か。いいねぇ」


 甘いものに目がない中年男が幸せそうにシロップ煮を見つめてる様子を眺めてから、若造三人組の方に顔を向ける。

 さっき目を回していたアレフはもう起きているし、沼地での戦闘で汚れていた服を着替えたり顔を洗ったりしてきたおかげで三人ともこざっぱりしている。

昼の開店の少し前まで床掃除をしていたバーンとアレフは、日替わり定食の肉料理の方をぱくついているし、ついでだからと窓拭きをしてくれたクリスは、ダグラスと同じ具沢山スープとパンを美味しそうに食べていた。

年頃の男子らしく気持ちのいい食べっぷりに、私は、うむ、と一つ頷く。

食事は大事だ。


「世の中タダより高いものはないんだよ。それにあなたたちもカエル相手に死にたくないだろう?」


 だから、これを教訓にしっかり事前学習して必要なものは準備していくように。

そんなお小言を周りから言ってもらえるのは今のうちだけだ。

ちゃんと肝に銘じときなさい、と言えば、クリスはこくこくと真面目に頷き、他の二人は「うぇーい」とか気の抜けた返事をした。

……大丈夫なのかね、この子たちは。



何の気なしにカレーを出そうとして、あれ、この世界はお米あるのかなと変なところで躓いたとか。

よくある西洋ファンタジー風の世界だけど、ごく普通におにぎりとかも食べてそう&グレンダが握ってそう。

多分深く悩んだら負けな気がしてきました。

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― 新着の感想 ―
今更ですが、慣れると補助入力メニューは使わなくなりますw Xでお見かけして以来読もう読もうと思いつつ、今頃になって読み始めました。 なんかこう、グレンダさん、いつの間にか握ったおにぎりを若造の前に差…
おばちゃんは憎まれ役になりながらもモーゲンの村には大切な存在なのじゃろうな。少年青年たちが掃除をさせられつつ和やかなムードが独特でよかったのじゃ。今日はここまででこの本を閉じるのう。また読みに来るので…
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