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祭りの準備18

エマ中心の第三者視点です。


 夕方。

村に到着した馬車から、小柄な少女がぽんと飛び降りた。

御者席の雑貨屋店主に礼儀正しくお礼を言うと、リュックの肩ひもに両手を添えた状態でパタパタ走って行く。目指す先は村の食堂。少女にとっての自宅だ。


「ただいま帰りましたー!」

「おかえりー」


 元気に扉を開ければ、厨房から農家の娘が返事をする。その声を聞いて少女はちょっと残念そうな顔になる。食堂の店主は不在だった。


「グレンダさん、裏に戻っちゃったんですね」

「うん、ほっとくと何時まででも働いていそうだから午後は休めーって戻したよ」


 ちょっと寂しいよね、と言われれば、顔に出ていたことに気付いた少女は、へにゃっと笑んでみせた。店主の代わりに食堂を回してくれている農家の娘に申し訳ないと思ったのと、それでもやっぱり寂しいのは否定できないのとで、そんな苦笑を浮かべることになったのだろう。


「こんにちは。学校お疲れ様!」

「……こんにちは」


 食堂にいたもう一人、すらっとしたお団子ヘアの中年女性に挨拶をされて、少女はぺこりとお辞儀する。顔を上げると誰? と訊くような視線を農家の娘に向けた。娘の方は、ん、と頷いてから紹介する。


「食堂の手伝いに来てくれたアメリアさんだよ。王都でレストランをやっていてグレンダさんの料理の先生なんだって。アメリアさん、この子がさっき話していた見習いのエマね。お昼に会ったリチェのお姉ちゃん」

「グレンダさんの先生……。はじめまして。エマです」

「助っ人のアメリアです。って、堅苦しいのはなしなし! よろしくね」


 テーブルの間をひょいひょいと歩いて寄ってきたアメリアが、エマに手を差し出す。慌てて少女が手を出せば、ぶんぶんぶんと三回ほど大きめに揺らしながらの握手をされた。

そのテンションにびっくりして、少女が助けを求めるようにリンの方を向けば、苦笑が返ってきた。どうやらアメリアは普段からこういう感じの人ってことらしい。視線を戻せば、にっといたずらっ子みたいな笑顔があった。


「よろしくお願いします」

「うんうん」


 つられてエマも笑う。

手を洗い、リュックを下ろして外套を脱いでいれば、リンが手拭きで洗った手を拭きながら厨房から出てきた。時計をちらりと見て、ついでに窓の外を確認してからアメリアに何か目配せしている。


「……?」

「エマ、荷物置きに行く前に、ちょっとだけ話をしようか」

「はーい」


 こっち座って、と、テーブル席を勧められる。エマはとりあえず荷物などを二階への階段に置いてくると素直にそこに座った。声をかけてきたリンが話すのかと思ったら、アメリアの方がエマの向かいに座った。リンはエマの隣に付き添うように腰を下ろす。


「えぇっと、回りくどいのは苦手だから単刀直入に話すね」

「はい」


 少し困ったような顔のアメリアが早速切り出す。エマはこくりと頷いた。


「エマ。……さっきね。グレンダからエマとリチェを頼むってお願いされました。二人が納得するなら、私が二人を引き取るけど、エマはどうしたい?」

「え……」


 言われた言葉に頭が追いつかなくて、少女は固まった。それを見たリンが補足を入れる。


「リドさんから聞いていると思うけど明後日この村は多分戦場になるの。たくさん魔物が出るかもしれないし、場合によっては村が丸ごとなくなるかもしれない。……私たち大人はみんなそれを知っていてここに居て……ううん、むしろその時のためにこの村を作って、自分で選んでここ、モーゲンに居たの」


 出来るだけゆっくり落ち着いた声で話そうとしてくれているのが分かる口調だった。

エマはそんな言葉を紡ぐリンの方を向く。リンはエマの視線を受けて、こくりと頷いた。


「でも、エマとリチェは、知らずにこの村に来たから、ね。二人を巻き込んじゃいけない、ってグレンダさんがアメリアさんにさっき頼んでいったんだ」

「……そんなこと……」

「うん……」


 少女の眉尻が下がり悲しい顔になっていくのを見て、農家の娘も似たような顔でもう一度頷く。


「このままこの村にいるととても危ないのは間違いないし、エマたちは怪我をしなくても、起きることの中心にいることになるグレンダやリドの旦那が無事な保証もない。むしろ二人が死んでしまう可能性だってかなり高い。……グレンダからね、ここで怖い想いをさせるぐらいなら、明日、私に二人を連れて行ってほしいってお願いされたんだ」


 正面の席からアメリアはエマに真顔で言う。さっきまでのいたずらっ子みたいな笑みは消えていて、とても真面目な顔をしていた。エマはアメリアの方を向き、じぃっとその目を見る。


「リチェはまだ小さいから本人に決めさせることは出来ないけど……エマは、どうしたい?」


 その少女の真直ぐな視線を受け止めて、アメリアが問う。初対面だからかちょっと冷たそうに聞こえる声、表情に、エマは数度肩で息をして……半分泣きそうな顔になりながら口を開いた。


「……行きません。私もここにいる!」


 声が震えた。リンが気づかわしげに横から見ている。


「私も、リチェも、ここの村の仲間だもの。グレンダさんの家族なのに……! 私もリンさんやみんなと一緒にここにいる。居させてください……!」


 そこまで言うのが限界だったようでエマは両手で顔を覆った。そのまましゃくりあげる声が零れ始める。そんなエマをリンが横から抱き寄せた。


「……だよね。うん。わかった」


 エマの前の席でアメリアが小さく息をつく。苦笑を浮かべる目は優しい。


「エマ、泣かしてごめんね。おねえさんはそう言って貰えてちょっと嬉しい。……グレンダはこういうとこ不器用なのよね。相手のためって思いながらあれこれ頑張ろうとしちゃって、でも、それされたら相手がどう思うかってとこに鈍感なの」

「そうなんだよねぇ。その辺がおばちゃんらしくもあるけども」


 アメリアの言葉にリンがうんうんと頷く。

二人の様子にエマが顔を上げる。リンが、あぁびしょびしょじゃないのなんて言いながらエマの目元を手拭きで拭いてやった。


「エマ、無理に連れて行くわけじゃないよ。安心して」

「そしたら、エマもリチェも私と一緒に教会でみんなが頑張るの見てよう」

「……私、モーゲンに居てもいいの?」

「いい、いい! グレンダには頼まれたけど、そこで分かったって言う子だったら私仲良く出来る気がしなかったもの」


 あははー、と、アメリアが笑った。


「私も言うけどさ。エマからグレンダに言ってやるといいよ」

「やっぱり行けっていうようなら、私がグレンダさん叱ってあげるからね」

「リンさん……」


 任せておきなさーい! と農家の娘が胸を張ってみせるのを見て、少女がやっと少し笑った。




第三者視点、名前で書くか迷いますね。

今回はアメリアがエマに自己紹介してる部分が混ざったので名前で書いていました。

少女とか娘とかで書いてると出てる人の組み合わせによっては中々難しい……精進せねば。(汗)

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