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祭りの準備16


 イーブンの馬車でやってきた司祭は、私も知っている二人だった。

夏の遠征前に神殿で浄化したシエルと、その弟子のルカ。

今、うちの村には私とリドルフィ、それに今年祝福を貰ったばかりのトゥーレしか、光の祝福持ちはいない。

うちで足のリハビリをしているライナスも光の祝福もっているのだが、今は騎士団との調整役に連れ出されているそうだ。シエルとルカはこの村の結界の確認作業と、私の診察のために前乗りということらしい。


「考えてみるとグレンダさんと私も中々のご縁ですよね」


 お昼ごはん後に村長屋敷に戻された私は、ベッドでシエルの診察を受けていた。ちなみにリドルフィは王都に行っているので戻る時はシエルが付き添ってくれた。もちろん自分の足で歩いて帰ったよ。

シエルは私の手を取って自分の魔力を私に流し、体に悪くなっているところがないかのチェックと魔力の残量などを調べてくれた後、私に魔力を分けてくれながら懐かしそうに言った。


「そうだねぇ。まさかライザス先生が亡くなって十年以上経ってからそのお孫さんに巡り合うと思わないものね。」


 そう、シエルは私が養成学校に通っていた頃にお世話になった教官の孫なのだ。

私にとっては、分からないことは授業に関係なくても真摯に受け止め導いてくれるし、知らないことをたくさん教えてくれた素敵な先生だった。だが、聖騎士見習いの先輩たちからすると教えることは難しいし、理解するまで絶対妥協してくれない厳しい先生だったらしい。

多分、私にはライザス先生が教えてくれていた分野が合っていたんだろうね。リドルフィやその上の先輩たちと私は四つ以上違ったのに、ライザス先生が教える神聖魔法理論については最終的に一緒に授業を受け、先輩たちの宿題を私が手伝ったり教えたりしていた。あまり先輩たちを甘やかすなと叱られたところまで含めていい想い出である。


「シエル、随分貰ったように思うんだけどあなたはつらくないの?」

「えぇ、大丈夫ですよ。……ここで出し惜しみしたら爺様に叱られます」


 祖父に比べると孫のシエルはかなり柔らかくて優しい印象の青年だ。くすくす笑いながらそんなことを言う。でも、祖父の才能はしっかり受け継いでいて、結界や防御系の神聖魔法については司祭の中でも屈指の腕前だ。私と同じように守護盾を複数展開し戦線を維持する、数少ない司祭の一人である。


「それに皆には内緒なのですが……」

「うん?」

「実は当日までは、グレンダさんの魔力補充以外はせず、のんびり休んでいていいって言われているんです」


 こそこそ内緒話をする風に言うシエルに私はぷっと小さく吹き出す。

多分、当日のために体調を整えておけとか言われたのだろう。シエルはにこにこしながら続ける。


「だから、グレンダさんに魔力渡すのは大変だったって言えるように協力してください」

「……それじゃあ、遠慮なく頂いておこうかね」


 二人で笑い合う。


「今回のことでは、大神殿の主だったメンバーもほとんどこっちに来るんですよ」

「そうなの?」

「はい。村の中でのサポートはジークが、エルノも確かこっちの配置です。ウィリアムとマルティンはあの時酷く黒化していたので、念のため街道の方に配置される騎士団の担当ですね」

「……え、そんな大掛かりな話になってるの?」

「えぇ、王都の冒険者ギルド、神殿、魔導宮、騎士団辺りは総出に近いですよ。一応混乱防止のために民間へは口止めされていますが。……って、グレンダさん聞かされてないんですか?」

「……」


 シエルの言葉に私はふるふると首を横に振る。そんな話は全く聞かされてない。さっきのリンとの話もだが、色々と私が知らないことが多そうだ。


「えぇっと……」

「あぁ、シエル、大丈夫だからね。後でリド蹴飛ばしてちゃんと聞いておくから」

「すみません」


 確かに神樹が齎すだろう影響を考えたら、それぐらいの態勢を取りたくなるのは分かる。

私ごと枯れさせるのだったら、ここまで育っている以上そこまで大きな被害は出ないだろう。育て方が足りずにまた大地に根を下ろされてしまったり、最後の悪あがきのように大量に魔素を吐き出したりする可能性もほとんどなくなっているはずだ。

でも、リドルフィは神樹を私から切り離し神樹だけ切り倒すことを考えている。おそらくその過程で私たちが神樹を見つけた時のような歪みの発生や、魔物が出現する可能性も高いだろう。

全ては可能性でしかないけれど、だからと言って無視も出来ない。やっと戦乱期の爪痕も薄くなり人々も穏やかに過ごせるようになってきたのだ。この平和を守るためならいくらやっても備え過ぎということはないだろう。


「あぁ、そうだ。こっちに来る前に少し見せて頂いたのですが、グレンダさん、あの湖の水でやった浄化すごいですね」


 私にどこまで話していいか迷った結果、シエルは話題を変えることにしたらしい。思い出したようにそんなことを言う。シエルを問い詰めて仕方ないので私は、そうかい? とそれに乗った。


「多分、この先何十年ってレベルで、この辺り一帯結界が張られているような状態でした」

「え、そこまで?」

「えぇ。ここを聖地にしようって話が出そうなぐらいです」

「……それは、ちょっと嫌かも」


 どうやら私は思いっきりしかめっ面をしていたらしい。シエルが苦笑している。


「では、神殿内で話が出たら、私は反対しておきますね。……でも、石碑ぐらいはごり押しで建てられるかもですよ?」

「そんなお金があるなら孤児院にでも寄付しろって言っておいて」

「わかりました、話が出たら伝えます」


 雑談をしながらずっと魔力を少しずつ分けてくれていたシエルが、そろそろかな、と手をそっと放す。


「……どうですか?」

「うん、かなり楽になったよ。ありがとう、シエル」

「どういたしまして。……聞いていたよりいい状態だったように思うのですが」

「なんか、リドを祝福したらあの人も少し魔力を分けられるようになったみたいなのよ」

「それは……なんていうか、セドリック司祭が嫌な顔しそうですね」


 シエルの微妙そうな表情に、私も苦笑しながら頷く。

上位司祭のセドリックとリドルフィの不仲は割と知られている話らしい。どうせ私の知らないところで壮年マッチョが無茶でも言っているのだろう。


「確かに。……ま、色々終わるまで黙っときましょ」

「その方が良さそうですね」


 私とシエルは頷き合った。




シエル君はファンタジーでありがちな感じの優し気な聖魔法使いのイメージ。

肩までの真直ぐさらさらヘアの美形です。多分、イケメン剣士のカイル君と同様ファンクラブがあります。

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