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祭りの準備12

おばちゃん視点に戻ってきました!


 室内で誰かが動く気配で、目が覚めた。

私はそうっと瞼を上げる。暗い部屋。少し離れたところに明かりが灯っている。

その明るさから、どうやら今は夜中なのだと分かった。

音がしたのは明かりがある方。仰向けで姿勢正しく眠っていたらしい私はもぞもぞと寝がえりを打つ。


「……あぁ、起こしてしまったか。すまん」


 低く静かな声。その声で机の方にいる影がよく知った相手だと分かった。


「……リド?」

「ただいま」

「……おかえりなさい?」


 どうやら彼は、私の知らないうちにどこかに出掛けていたらしい。

半ば条件反射で挨拶を返しつつも語尾が上がれば、それが可笑しかったのか笑っている気配がした。


「あぁ、ただいま」


 リドルフィは嬉しそうにもう一度同じ言葉を繰り返した。


「……どこかに行ってたの?」


 少し話をするなら体を起こそうかともぞもぞしていたら、気配でバレたらしい。何かしている途中だったようなのに男はこちらに寄ってきて、やんわりと私の肩を押す。まだ寝てろということのようだ。


「ん。少し厄介なところに、な。でも、お前のおかげで帰ってこれた」

「そうなの?」

「あぁ、そうだ」


 さっぱり覚えがないことで礼を言われても困ってしまう。

そもそも私はどうしてここ、リドルフィの部屋でまた寝ているんだろう。確かにこっちに移動と言われて必要なものをまとめていたところまでは覚えているけど、布団に入った記憶がない。

男はまた横になった私の上に屈みこみ、まずは額に手を当てて熱がないのを確認し、その後、さらに近づいてきた。

何をするんだろうと見ていた視界いっぱいに男の顎が迫ってきて、あ、髭が剃ってあるとか思っていた間に額に何かが当たった。……何かじゃない、唇だ。分かっているのに一瞬認識しきれずに私は固まる。


「なっ、なっ!?」

「……解禁じゃないのか?」


 びっくりして言葉にならず、思わず口付けられた額を手で覆う私に、笑いながら男が離れて机の方に戻っていく。


「なんでっ!?」


 大きな背中が今日も余裕そうに笑っている。こっちは全く余裕なんてないのになんだか腹が立つ。いつもこんな感じだ。彼の方が確かに年上だけど、なんでこうも余裕の差が生まれるのか分からない。とても悔しい。


「なんでって、俺は、お前から私をあげるって言われた気がするんだが」

「えっ」


 指摘されて思わず声が出た。

また変なことをされないために上掛けを鼻の上まで引っ張り上げた姿勢で記憶を探る。そもそも私は寝る前何をしていた? どうやらまた自分で寝たというより気を失っていたっぽいのは確かだけども……


「……」


 思わず自分の衣服を確かめる。大丈夫、寝巻をしっかり着ている。


「しょうもないことを考えているだろ」

「……っ!?」


 懸念を言い当てられてビクッと体が揺れた。振り返っていた男がその様子を見ていたようで、愉快そうな笑い声が薄暗い部屋を満たす。


「手は出してないぞ。……今は、まだな」


 完全にこちらの反応で楽しんでいる壮年マッチョに、ちょっとこっちに来て、と手招きをする。

暗くて見えないが満面の笑みを浮かべているのだろう。男がベッドの横まで来れば、私は手の届くところを、べしっと叩いた。男はまだくっくっくっと笑っている。全然効いてないっぽいので、私はぺちぺち叩き続ける。


「……分かった、分かった。揶揄って悪かった」


 五、六回叩いたところで手を掴み止められた。


「その分だと本気で忘れているんだろ。なかなか感動的だったのに」


 仕方ないなぁと言いながら、男はベッドの縁に腰を下ろす。体をひねる様にしてこちらを向いた男は優しい顔をしていた。

何かされるのかと上掛けに潜ったまま見ていれば、緩い速度で上掛けの上から、ぽんぽんと叩かれる。また子ども扱いされている気がするんだけども。


「寝る前のお前は、俺に祝福をくれたんだよ」

「……祝福?」

「あぁ」


 言われてもう一度思い出そうと目を閉じる。

食堂の上の自室で準備をして……あぁ、そうだ、悔しくて悲しくて涙が出て……。


「……っ!!!」


 最後という言葉がキッカケになったのか唐突に全部思い出した。私は思わず飛び起きて思いっきり毛布で顔を隠したままベッドの端に逃げる。顔が熱い。ちょっと待って、私、なんであんなことをした。いや、リドルフィを祝福するのはいいとして、なぜ……。

ずささと壁際まで移動した私を彼は笑いながら見ていた。


「流石にその反応はひどくないか?」


 俺でも傷つくなんて言いながらも可笑しそうに笑っている。全然傷ついてないように見えるのだけども。

彼はベッドの端で壁にひっついている私に、ゆったりした仕草で身を乗り出し、手を伸ばす。


「グレンダ、おいで」


 彼は両手を広げてみせる。

子どもの頃、一人が怖くて眠れなかった時に貰ったのと同じ言葉と仕草だった。

じっと見ていたら、ほら、と彼は笑ってみせた。よく知った笑顔。柔らかくて少し照れ臭くなる眼差しに、私は躊躇いがちに手を出す。男は笑みを深め、出てきた私の手を引く。ほんの一瞬の間に、その腕の中に私は閉じ込められていた。

私に逃げる余地を残しつつも、まるで自分が強引にしたように言い訳まで用意してくれるやり方に、私は負けた気分になる。抱きすくめられてつい固まった体からゆっくりと力を抜く。目の前の厚い胸に頬を付け、再び目を閉じる。

そんな私をリドルフィはしっかりと抱きとめ、優しい手つきで髪を撫でていた。

じんわりと体温と共に魔力も分け与えられているのが分かる。魔力不足で軋む体が緩んでいく。思わず安堵の息が零れた。


「……グレンダ」


 名を呼ばれて、重くなりかけていた瞼を上げる。何? と見上げればすぐ近い位置に青い瞳があった。


「たくさん待たせたな。必要なものはこれで全部揃った」


 私を真直ぐ見つめる目は、綺麗で、力強い。


「これが最後だ。一緒に戦ってくれるか?」


 もうほとんど決定していても、それでもあなたは訊いてくれるんだね。

私は、私を守る温かな腕の中から見つめ返す。笑んでみせる。


「あなたの心の赴くままに。いつものように」


 いつもと同じように返せば、リドルフィは一度瞬くようにして頷いた。


「グレンダ、戦いを終わらせる。……今こそ、決着をつけよう」


 静かで、それでいて揺らがぬ意思が滲む声に、私は頷いた。






リドのおっちゃんが頑張ってるシーンが続いたので、ちょっとだけ息抜きのつもりがベタで甘ったるいシーンになりました(汗)

この先も暫く1epごとに視点切り替わりますが、ご容赦を。

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