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願い17


 ゆっくりゆっくりと、日々は過ぎていく。

北風が吹くからか、乾燥している日が増えてきた。

落葉樹の葉は随分と落ちて、針葉樹の濃い緑が目立つようになった森を私は歩いている。

今日は子どもたちと一緒だ。

はしゃぎまわる子どもたちの足音まで枯葉のガサガサいう音に彩られて、より一層賑やかだ。

葉が落ちてしまった木が多いおかげで、晩秋の弱い日差しが地面まで届いていて森の中は明るい。

雪が降る前ほんの一時だけの、明るくてちょっと寂しいようなそんな光景。


「あったー! ほんとうにおはなのかたちしてる!」

「え、いいなー、わたしもほしいー」

「うわっ、なげないでー!」

「このまつぼっくり、とげとげしてていたいー」


 きゃっきゃと騒ぎながら子どもたちが木の実を拾っている。

大小さまざまな松ぼっくりに、丸かったり細長かったりのどんぐり。モミジバフウのとげとげした実に、メタコセイアの丸くて向こうが見える実。

まるでバラの花のようなシダーローズを見つけたのは、トゥーレの双子の妹の片割れだ。

拾った木の実は、ついている葉っぱや泥を軽く払って、持ってきた籠にどんどん入れていく。


「なんか、これ、懐かしいね」

「そういえば、リンともやったねぇ」


 今の子どもたちの引率はリンとノーラ、それに私だ。そこに、ごく当たり前のように蒼き風が混ざっている。ノーラに聞いたら、普段からちびっ子たちが遊んでいるのによく付き合ってくれているとのこと。確かに村にしっかり馴染んだ感じだ。今も尻尾にじゃれつく幼児をうまくあやしながら、ちゃんと辺りを警戒している。これだとミリムに番犬呼ばわりされていても仕方ないかなとも思う。

そういえば、蒼き風に教えて貰ったのだが、彼のような守護者はもうわずかしか残っていないそうだ。

他の守護者たちも森に住む者たちを見守り続けているが、彼と日々話せるような近さにはもういない。彼の一族も力を失い、寿命も短く随分と小柄になってしまった。子孫には家族というより一方的に崇拝されているに近い状況らしい。……ならいっそ、村で暮らすかい、話せる分、一方的に崇められるなんてことにはならないと思う、なんて言えば、考えておくと苦笑が返ってきた。


「グレンダさん、ちょっと手伝ってー」

「あ、はいはい」


 木の実にあわせて、枯れた蔦も集めておく。巻いてリースの土台にするのだ。もっと集まるようなら冬場に籠とかを編んでもいい。

木に巻き付いたちょうど良さげな蔦を引きはがしながらリンが呼んでいる。私は寄っていくと引き出してもらった部分をナイフでごりごりと切る。細い蔓を切っているだけなのに手が重怠い。ちょっと嫌な感じだけど顔には出さず、最後まで切りきった。ふぅぅと肩で息を吐く。最近ほんのちょっとのことで疲れることが増えた。


「ふふー、いいの収穫できた!」

「これだけでリースがいくつかできそうな長さだねぇ」

「ね。それぞれの家に飾って、ついでに広場とかにも飾れそうだし、余ったら売れるね!」

「街の方よりこっちのが作りやすいからねぇ」


 いいお小遣い稼ぎにできそうと喜ぶリンに、うんうんと私も頷く。器用にくるくるまとめて輪にすると、リンは蒼き風の方に走って行った。見ていたら彼の首にかけて運んでもらうことにしたらしい。本当、しっかり馴染んでいるね。


「おばちゃっ! みて! おおきいのあったー!」


 たんぽぽみたいな鮮やかな黄色の帽子を被ったリチェが走ってくる。木の実をもった両手を、ずいと出してきた。見たら栗に似て立派な大きさに育った茶色い実がいくつか。一つでもずっしり重みがある。


「いいのを見つけたね。これはトチの実。ちょっと面倒くさいけど食べられる実だよ」

「たべられるの!? もっとひろう!!」


 「水にさらしたり長い期間天日干ししたり、更に時間をかけてあく抜きしなきゃだけど」と、続けようとしたら、それを言い始める前にリチェはまた走って行ってしまった。向かう先に大きな葉がいっぱい落ちているところがある。どうやらあの辺りにトチの木があるみたいだ。

まぁ、拾って来たら今回はリースの材料でもいいかな。磨けば艶の出る大きな実だから、上手く使えば良いアクセントになるからね。

 リチェは、編んであげたその日から毎日黄色い毛糸の帽子を被っている。放っておくと食事中や寝る時も被り続けてそうな勢いなので、苦笑しながら何度も注意した。

思い付きで作ったものだけど、ここまで喜んでくれると嬉しいものだね。

姉のエマも今日は学校だからここにいないけれど、あげた蜜柑色の帽子を毎日使ってくれる。

隙間時間にちょこちょこと編んだらすぐに出来てしまうような小物だけど、四人でお揃いだからか、作った私にまで宝物のように見えてきているから不思議だ。それぞれ自分の色以外の三つの色のラインが入っているのがまた良いのかもしれない。

今は残った毛糸を使ってマフラーも編み始めている。なんとか雪が降る前に渡せたらいいなと思う。


「そういえば、あなたにも帽子作ったら被ってくれるかい?」


 私の肩に乗っている小さな精霊に声をかけてみる。メイド服姿のミリエルは小さく首を傾げて微笑んだ。……自我はないと言われているけれど、こういう仕草はあるように見えるのだよね。

帰ったら彼女用にミニサイズのも編んでみよう。私を助けてくれるこの子も家族だから。



番外編1作目のシダーローズの話も作中の季節的にネタにできるかな、と、引っ張ってきてみました。


編み物、一時期ハマっていて未だに布団ケース2個分ぐらい毛糸を持っています。

簡単な帽子ぐらいなら毛糸の太さにもよるけど編む量も少ないので一日で作れます。

グレンダも確実に作れるものをと考えていそうなので簡単なのを編んだんだろうな、と。

ゴム編みで、縁の折り返しに3色のライン入り。シンプルだけど毛糸がいいからきっと温かくて長く使えるものになってそうです。


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