食堂のおばちゃん19
朝食を食べ終わった討伐隊の六人と駆け出し三人組に、軽く祝福を贈って送り出す。
討伐隊のうちリドルフィ以外の五人は、対熊戦の罠や誘い込みの準備。
駆け出し三人組は、リドルフィの引率付きで久しぶりにカエル退治。
数日放置していたことで、沼ではオタマジャクシが成長してカエルが増えていたらしい。
戦場にする沼で呑気にカエルがたくさん飛び跳ねているのはいただけない。それこそ対熊戦の邪魔だ。なので、戦闘準備の一環として、保護者付きで三人に退治させることになったのだ。
リドルフィはついでに、三人にあれこれと指導も入れるつもりだろう。
あぁ見えてリドルフィは何人も人を育てた経験がある。こと戦闘に関しては師としてそこそこ優秀な部類だ。
……後は、多分、連日村の雑用ばかりで拗ね気味だったひよっこたちのストレス発散も兼ねてるのかもしれない。
畑仕事や牧場の仕事などを手伝ってくれるのはとても助かったんだけどね。冒険したいお年頃の少年たちからすると、せっかく冒険者デビューしたのに畑仕事じゃ文句も言いたくなるだろう。相手は魔物ではなくカエルでも戦闘は戦闘。村の雑用とはかなり違う。体を動かすことにもなるから、きっとスッキリして帰ってくるに違いない。
お昼には、今朝収穫した野菜を持ってリンが食堂へやってきた。
先日から食堂の手伝いをしてくれている。
上手いこと継続的に畑仕事の人員を確保出来るようなら、リンをうちの食堂の後継者に……と以前は思っていたりもした。
しかし、私は知っている。畑仕事よりこっちの方が日に焼けなくていいー、なんて笑いながら食堂の手伝いもやってくれているが、リンは畑仕事もとても好きなのだ。
たまの手伝いなら良いだろうが、大好きな畑仕事を捨てさせてまで食堂に来させるのは違う。やっぱり食堂の後継者は他から探すしかないだろうね。
そんなことを考えながら、リンと一緒にうちの定番料理を作る。
リンは、自分の持ってきた自慢の野菜を切ったり焼いたり楽しそうだ。そりゃ嬉しいよね。自分や家族が育てたものをみんなが食べてくれる。それを肌で感じるのだもの。
笑顔で調理する様子を横目に見ながら、私もこっそり和んでしまう。
ついつい雑談も交えながらする料理は、気が付いたらいつもより手が込んだものになったりで食べる側にもなかなか好評だ。
こんな風に誰かと一緒に料理するのもいいものだね。
やはり、食堂の後継者も早く探そう。
夕食には森に行っていた全員が帰ってきた。
駆け出し三人組の前衛二人がスッキリした顔で笑ってる。
クリスも今日はそんなに疲れ切ってなさそうだ。
その様子に私もこっそり笑う。やっぱり思った通りだ。
「予定通り準備は終わった。明日やってくる」
リドルフィが私に言う。私はわかったと頷いた。
その様子を見て定位置の席で雑貨屋ダグラスが笑う。
「こうやって報告されている姿を見るとグレンダの方が村長っぽいですよねぇ」
からかいの色を含む言葉にこちらは苦い顔になり、ジョイスが、だよねぇ、と楽しげに賛同する。
「いや、俺の方が偉いぞ! 間違いなく!」
そんな返しをしたのはもちろん、村長の壮年マッチョなわけで。
主張をしなくても、別に私は村長の座なんてねらっていないのだけども。
「……ただな、怒らせたら一番怖いのは、あっちだな」
その後に続いた言葉を、私は聞こえないことにした。
夜。食堂を閉めた後。
自室に戻った私は、ふとクローゼットを開く。
奥にしまわれた法衣などをしばらく眺め、緩く首を横に振る。
その後に窓の外、この時間帯は暗く黒く見える湖へと視線をやり。
目を閉じる。
気配を探るように、静かに息を吐いて。
そうと確かめるように。
「……」
瞼を上げた私は、ふと思いついて、簡単な印を切った。
祈りの印。
聖属性魔法を使う者が一番初めに習う、印。
誰かのために祈り、願うこと。
それが聖属性魔法の根源だから。
私は、祈る。
ここで。
いつまでも。




