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願い12

 夜、子どもたちと一緒に食事する。

気が付いたら、私たち家族以外も同じ時間帯に食べにくる人が増えていた。

冬が近づいていて、日が暮れるのが早くなったし夜道は寒いからかな。

雪が積もる様になったら食堂で食べるのはほんの数人ぐらいまで減って、それ以外は作り置きを何日かに一度取りに来る日々になる。

 お喋りに夢中で食事がゆっくりになりがちのリチェが食べ終わったら、二階に上がって子どもたちと一緒にお風呂に入ってしまう。

ミリが上手くやってくれるおかげで子どもたちに私の背にある神樹は見せないで済んでいる。

……もしかしたら、もう見せてしまってもいいのかもしれない。でも、多分見せたら今以上に心配させてしまいそうだから、最期まで見せずにいこうかなと思っている。

 私がいない間も、食堂の方は皆で上手くやってくれているらしい。どうせ居るのはよく知った村の人たちばかりだ。使い終わったお皿は決められた位置に戻しておいてくれるし、何かこぼしたら拭いておいてくれる。多めに作った料理をみんな食べる分だけ皿にとって好きな席で食べるビュッフェ式は、今のところ上手く馴染んだようだ。

 昔読んだ本を寝物語に聞かせながらリチェを寝かしつけ、たまに私も寝てしまう。

エマは、日によってはお風呂後に学校の宿題をしている時もあるし、妹と一緒に寝てしまう時もある。その時々だ。

リチェが寝付いたか、私の目が覚めたタイミングで起きていたらエマにもそろそろ寝るように言って、私は一階へと戻る。

食堂に客が残っていたら対応しながら皿洗いなどの片づけをはじめ、翌朝の仕込みをしておく。


 リドルフィは、客が居なくなった後も一人残っていることが多い。彼がいる時はお茶を淹れて、のんびりその日にあったことを話した。

その際には毎回服の片腕をめくって、肘の辺りをみせる。

そこが神樹の葉の一番先だ。

私の背にある神樹はもう成長しない。私という器で育つことができる限界まで大きくなってしまったから。

朽ちる寸前の濃い茶色まで変化して枯れかけていた葉は、あの日シルバーに返してもらった魔力のおかげで淡い黄緑になった。それでも、以前のほぼ真っ白な状態には、もう戻らなかった。そして、それもゆっくりゆっくりと色づき、あの時見た色へと変化しようとしている。

私の魔力は一度底をついてしまったからか、もう以前ほどは回復しそうにない。

毎日みんなが分けてくれる分と、私自身が何とか日々回復している分を、神樹は容赦なく吸い上げていく。


「エマがね、この食堂を継ぎたいって。リンとたくさん相談して決めたんだって」

「そうか。よかったな」


 まくったブラウスの袖を戻し、上からカーディガンを羽織る。

リドルフィが手招きするから軽くそちらに体を倒せば、肩を抱くようにしてその腕の中に取り込まれた。私は素直に彼の体温に包まれて目を閉じる。


「たくさん料理を教えなきゃだからね、一緒にレシピをノートに書き始めたのよ。そうしたらあの子、とても上手に料理や食材の絵を描いてくれてね。こんな素敵なの二人だけのものにするのもったいないから、そのうち本にしたいね、って」

「あぁ」


 都合がつく日は朝と夜、彼はこうやって私を確かめるように抱きしめる。

初めは子どもたちの前でも遠慮なく抱擁してくるのが、照れ臭かったし恥ずかしかった。でも、気が付いたらそれが当たり前になっていて、朝はそこにリチェやエマが混ざってきて、四人でぎゅーと抱き合う。家族の抱擁だから、恥ずかしくなくなった。


「ダグラスに相談したら王都の印刷会社とかのツテはあるかしらね。モーゲンの新しい名物にしたいって、エマが張り切っているから叶えてやりたいなぁ」

「ツテがなくても探してきてくれるさ。……カエルの燻製よりはいいんじゃないか。名物として」

「あれ、本気で来年やるつもりなのかしらね」

「さぁ、なぁ」


 光の属性はもちつつも、リドルフィは生活魔法以上の魔法は使えない。神聖魔法は使えない。彼の得た祝福は少し特殊なもので、自身の身体強化や戦うことに特化している。

彼自身はそのことに不満はないらしいが、珍しく今回だけは俺も治癒魔法が使えたら良かったなぁ、なんて言っていた。そうしたら私にもっと魔力を分けてやれたのに、と。

そんな一人であれこれやれてしまうようになったら、私がやることがなくなってしまうじゃない。そう言って私が笑ったら、そうだな、って彼も笑った。


「あぁ、そうだ。今日王都でカイルに会ってな。来年から騎士学校の教官になるそうだ。そこで何年か人に教えることに慣れてくるから、モーゲンに本当に養成校を作るなら呼んでくれって言われた」

「あぁ、いいんじゃない? カイルはしっかり基礎から習った経験があるって言っていたものね。女子に囲まれそうなのがちょっと大変そうだけども」

「まぁ、その辺は上手くやるだろ、これまでだってそうだっただろうし」


 当たり前のように来年の話をするけれど、その来年は、私にも来るのだろうか。

そんな自問が浮かんでは振り払う。多分そんな私のことも知った上で、彼は私を抱きしめているのだろう。一人じゃない。一人にしない。必ず繋ぎとめて一人ではいかせない。彼の腕はそう言っているようだった。


「雪が解ける頃にはリチェの祝福もあるね。そのための服も用意しておかなきゃ」

「折角だからエマにも揃いの服を着せてやりたいな」

「あぁ、それいいね。きっと二人とも可愛い」

「……俺としてはお前にも揃いのを着せてやりたいんだが」

「それは流石に変じゃないかい?」

「そうか?」


 流石に作るのは大変か、と、少し残念そうに言う。


「揃いと言えば、明日ちょっと王都に行ってもいいかな。色のついた毛糸を買いたいの」

「何か作るのか?」

「寒くなるからね、とりあえず帽子かな。セーターは編むのに時間がかかるから、まずは確実に出来上がるものをね」

「きっとリチェもエマも喜ぶな」

「あなたにも揃いのを作ってあげる」

「それは、毎日被ってそうだ」


 帽子なら、多少あの子たちが大きくなっても使い続けられる。

新しいものを自分たちで作れるようになるまで被ってくれたら、それでいい。

お揃いの帽子を三人が被る日を想像して、私は笑う。

後は、何を残していけるのだろう……。



レシピ、やっぱり手書きは良いですね。

私自身も見つけたレシピ用のノートに少しずつ書いているのですが、うちの味、って感じがして。


最終話前の伏線回収やら物語を綺麗に終える準備やらで暫くグレンダの気持ちを整理するシーンが続きます。

少し重たいかな。すみません。もうちょっとだけお付き合いください。

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